洋上風力への風向きは変わったか
ー産業政策への貢献度度具合いに疑問符もー


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーフォーラム 旬刊「EPレポート」2025年12月21日 第2163号」より転載)

ロシアのウクライナ侵攻は、化石燃料価格の上昇を通して多くの国でインフレを引き起こし、発電設備価格にも影響を与えた。最も大きな影響を受けたのは、発電量当たりの重要鉱物と鉄、セメントなどの資材の使用量が多い洋上風力発電設備だった。火力、原子力との比較では数倍以上の資機材を必要するので、インフレにはひとたまりもなかった。

洋上風力事業者は、設備の大型化と習熟曲線による投資額減少のカーブを見込んでいたはずだが、予想とは裏腹に設備のコストは大きく上昇した。この結果、長期の操業の赤字を被るよりも、違約金を支払ってでも撤退を選択する事業者が米東海岸と欧州北海で相次ぎ、日本にも波及した。逆風は依然続いているが、風向きは変わるのだろうか。

苦境続く欧州の事業

2023年からのすさまじい逆風は、中国外では世界最大の洋上風力事業者であるデンマーク・オーステッドの決算に表れている。23年の撤退の違約金は96億デンマーククローネ(DKK)で約2300億円。減損損失額は254億DKK(約6100億円)に達した。純利益は22年の150億DKKの黒字から202億DKKの赤字に転じた。24年も156億DKKの減損処理により純利益は1600万DKKに留まっている。

コスト増と事業遅延が各国で多発している

20年には1400DKKを超えていた株価は、25年9月には100DKKを割る寸前まで下落した。キャッシュフロー不足を補うため銀行借り入れが、21年末の7億DKKから25年9月末には229億DKKまで増加している。25年第3四半期の減損処理額は17億DKKにまで減少したが、純利益は1700万DKKの赤字だ。欧米での事業の中断も続いている。

英国は再生可能エネルギー導入支援のため差額保障契約(CfD)に基づく入札により事業者を選定しているが、23年の入札では洋上風力に応札者が出なかった。24年9月の入札では上限価格が大きく引き上げられ、応札者が現われた。オーステッドもヨークシャー沖で進めていた240万kWのノースシー4プロジェクトを1000kW時当たり58.87ポンドで落札した。12年価格なので24年価格に調整し、円貨に換算すると1kW時当たり17円だ。

ノースシー事業は1から4まであり、合計で780万kWと世界最大規模の洋上風力事業だったが、25年5月にオーステッドはノースシー4事業の中断を発表した。ノースシー3事業は27年の完成を目指し建設中だが、同社は25年11月に50%の権益の売却を発表した。売却価格は390億DKK(9400億円)だ。さらに財務体質強化のため、600億DKK(1.5兆円)の増資も発表されている。50.01%の株式を持つデンマーク政府は増資に応じるとしている。

米・豪でも逆境

そして米国の状況はさらに過酷だ。トランプ大統領は「洋上風力は鯨を殺し、鳥を殺す。もっともコストが高い発電だ」と主張し、25年8月にはSNSで「風力と太陽光を開発し依存している州は、電気料金とエネルギーコストの記録的上昇に直面する。世紀の詐欺だ。米国の愚かな日々は終わった」と投稿した。

米政府は、連邦政府が洋上風力の区域を設定する領海外大陸棚での新規建設を禁止し、工事中の事業を見直している。

オーステッドの米国東海岸の70万kWのレボルーション・ウィンドも建設中断指示を受けたが、訴訟により再開に漕ぎつけた。他方、撤退は続いている。ニュージャージ州では23年にオーステッドが、計225万kWのオーシャン・ウィンド1と2の中止を発表し、25年11月には240万kWのリーディング・ライト事業を手掛けていた事業者も撤退を表明した。

撤退は米国以外でもみられる。豪州・NSW州とビクトリア州沖では、25年7月から12月にかけ、合計800万kWの4事業の中止が相次いで発表された。

復活の兆しはあるが……

逆風は止む気配がないが、風力発電設備事業者の収益は改善し、中国の設備製造企業の欧州進出も伝えられている。

デンマーク・ベスタスの25年第3四半期の純利益は3億ユーロ超と前年同期の1憶2700万ユーロから大きく増加した。世界4位の中国の設備製造大手・明陽智能(ミンヤン)は15億ポンド(約3000億円)を投資する英スコットランドの洋上風力発電設備工場の新設を発表した。事業投資でも新規事業が登場している。オーステッドの合弁事業体がアイルランドの90万kWのCfDを落札した。運開は37年だ。また、アゼルバイジャンはカスピ海で最大60万kWの洋上風力を導入する計画を明らかにしている。

復活の兆しは見えるものの、洋上風力の安いコストは昔話になった。風況の良い北海でも、英国CfDで40万kWの浮体式風力の24年の落札価格は139.93ポンド。4年価格では195ポンド、日本円では1kW時当たり約40円だ。生成AIを支えるデータセンターと半導体製造により電力需要が増加に転じ始め、安定的で潤沢な電力供給が産業基盤を支える時代になりつつある。使える発電設備を総動員する必要があるが、開発に時間がかかり、コストも上昇している洋上風力の導入は今の産業政策に合うのだろうか。洋上風力への風向きは変わったのではないか。

参考
EP REPORT 2025年12月21日 第2163号