航空の脱炭素、解決策のバイオ燃料の今(下)
―米国でSAFの商業生産始まる ―


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「航空の脱炭素、解決策のバイオ燃料の今(上)-トランプ大統領のテコ入れ、新産業への期待に湧く米国」から続く。

不耕起栽培で、二酸化炭素少なく作られる原料

不耕起栽培でトウモロコシを作った畑。地面は硬いままだ。(25年11月、筆者撮影、米ノースダコタ)

「下」の原稿では、米国で始まったSAFの生産状況について述べてみよう。

刈り入れの済んだ、地平線まで広がるトウモロコシ畑を訪問した。米国ノースダコタ州北部のスペンサー農場だ。ここはエネルギーベンチャーのジーボ・グループ(Gevo)と提携して、デントコーンというトウモロコシを生産している。それが加工されてバイオエタノールになる。ここでは土を耕さない農法である不耕起栽培を行っている。地面を調べると、土は硬いままだった。経営者には広大な農地の刈り入れの仕事中で会えなかった。

ノースダコタは北海道北部よりやや北の緯度にある寒冷地でトウモロコシ生産の適地ではない。この農場は、4000エーカー(1600ヘクタール)の農場を2人で運営していた。日本の平均耕作面積は3.6ヘクタール。その440倍の面積だ。米国の農家の豊かさ、産業としての農業の強さの一因は、この規模の大きさにあると、理解した。

不耕起栽培は炭素を土中にそのまま残すことで、栽培での二酸化炭素の削減を目指す。農家の手間も減る。耕した方が作物の成長に良い影響があるが、適切に肥料、改良種を使うことで収穫は増加することもある。この農法での二酸化炭素の削減量を排出量削減クレジットとして評価する計測法もある。米政府はこの農法を行う場合に、二酸化炭素の削減量に合わせ25年までの3年平均で1エーカー(0.4ヘクタール)あたり25ドルの補助金を出したという。この支援はトランプ政権では終わってしまった。

CCSと繋げ、バイオエタノールを脱炭素に

ジーボ社のノースダコタ工場。バイオエタノールを生産(資料より)

ジーボ社のノースダコタにあるバイオエタノール工場を訪ねた。ここでは集めたトウモロコシを分解し、その30%の糖分からバイオエタノールを作る。30〜40%を家畜飼料にする。製造工程で出る20%程度の二酸化炭素は圧力をかけて液化し、パイプで2キロほど離れた地下2000メートルの砂岩層に流し込み地中に埋める。これはCCS(二酸化炭素回収・貯留)という取り組みだ。

砂岩の上下は岩盤で、二酸化炭素はその中に閉じ込められることになる。ランニングコストでは、1トン分の二酸化炭素を貯留するのに5ドル(750円程度)という。モニタリングも行い、州と国に情報を共有している。

CCSは日本でも検討されているが適地が少ない。米国は国土が広く、その結果、地層も多様でCCSでも使える適地が多いようだ。ジーボ社のCCSを日本のNEDOが支援していて、そこからデータを収集していた。「環境負荷の少ないバイオ燃料が、完全にカーボンフリーに近づく。2022年から始めたが二酸化炭素が外に漏れるなどの問題は起きていない。今後は他の生産プラントから、液化した二酸化炭素を受け入れてCCSを行うことを検討している」と、同社の担当者は話した。

ジーボ社は、バイオエタノールを原料とするSAF工場の建設を予定している。不耕起栽培、またCCSは「生産で炭素を削減した」と認定される。それは、バイオエタノールの販売で付加価値として提供され、商品価値を高める。さらに同社は米国の公的な温室効果ガスの指標に加えて、炭素削減の価値評価指標を独自に作り、顧客に提供している。

米国政府、そして米国企業は、環境問題では数字を示し、データで議論やPRをしようとする。イメージで環境を語る傾向がある日本の行政や企業より、その姿勢は客観的で、説得力を持つ。この姿勢は、見習った方が良いだろう。

生産農家、関係企業の日本への強い期待

翌日、ノースダコタから中西部のイリノイ州に移った。この州は全米最大のトウモロコシ産地だ。同州には、トウモロコシ生産農家だけで3万軒もあるという。イリノイ州トウモロコシ委員会という組織があり、加盟農家に情報提供、器具の共同購入、そして広報などさまざまなサービスを提供している。彼らからは、「バイオエタノール、そしてSAFで日本と関係を深めたい」と、日本への期待の声を聞いた。

米国では、農業のIT利用、遺伝子組み換え技術、肥料や農薬の改善によって、単位面積あたりの収穫量が伸び、耕地面積は増えていないが、トウモロコシの増産が続いている。1990年台から比べると、1.5倍程度になっている。SAFの製造があっても、「原料供給に問題はない」と団体幹部は強調した。

1エーカーあたりの収穫量。
1エーカー=約0.4ヘクタール、1ブッシェル=トウモロコシでは25.4キログラム、小麦や大豆では約27.2kg。
イリノイ州トウモロコシ委員会の資料だが、元データは米農務省。

次に同州ギブソン市にあるワンアースエナジー社を訪ねた。これは同州のトウモロコシ農家が出資して作られた企業で、それを原料にしたバイオエタノールを製造している。ここでも約2000メートルの岩盤に囲まれた砂岩層に、液化した二酸化炭素を注入するCCSが行われていた。ここではSAFを作っていないが、それに提供するために工場の増設計画があるという。

ワンアースエナジーの生産物。運ばれるトウモロコシ、デントコーンと呼ばれる種類。それが家畜飼料(DDG、右から2番目)、取り出されるコーンオイルとなり(右)、発酵させてアルコール分が増えエタノール(左から2番目)となる。

そしてSAFの生産も本格化している。11月にエネルギーベンチャーのランザジェット(本社イリノイ州シカゴ市)が、ジョージア州で大規模な工場を稼働させた。当初はバイオエタノールから製造するが、農業残渣、都市ごみなど幅広い原料由来のアルコールからも製造ができるという。同社には、米国の主要企業に加え日本の全日本空輸(ANA)、三井物産、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)などが出資している。

CEOのジミー・サマルツィス氏に日本に帰国後にウェブインタビューできた。「新たな産業を創出し、価値を生み出し、障害を乗り越えて、株主と社会に約束を果たすことができそうだ。SAFというグローバル産業が生まれつつあり、その先頭に立てた。日本の皆様の支援に感謝し、共にこの産業を発展させていきたい」と語った。

米国ではSAF製造という新しい産業が生まれつつある。新興産業に特有の、熱気や希望を関係者から感じられた。

生産プラント増設計画続く、価格安定の期待

それでは、今後の供給体制はどうか。

イリノイ州立大学のシュテファン・ミューラー教授を訪ねた。同教授は、二酸化炭素排出、バイオ燃料の計測の専門家。米国のバイオ燃料の各委員会にも参加している。

前述したように米国の農業は効率化が進んでいる。それに伴いエネルギー使用量が減少し二酸化炭素は減少傾向だ。2019年までのデータだが、一貫してバイオ燃料のCI値(カーボン・インテンシティ、炭素排出原単位、算出一単位ごとの二酸化炭素排出量)は低下している。ここ数年のCCSの導入で、一段と減少することが見込まれるという。「バイオエタノール、SAFの使用は、脱炭素の有効な手段だ」と同教授は指摘した。

エタノール製造におけるCIの減少。シュテファン教授作成。

またエネルギー調査会社のアーガス社のアナリストの話も聞いた。現在は供給が不足しており、また需要も多くなく、価格が乱高下している。バイオエタノールからSAFへの転換する工場の増加が予定されており、供給増に対応していくことが見込まれる。「価格も落ち着き、需要が増えるが価格は低下傾向になるだろう」と予想した。そしてSAF使用の国際協定があり、EUを中心に規制強化が見込まれる。EUは域内でのSAF製造を試みるだろうが、「米国の安いSAFは使われていくだろう」と予想した。

メリットの多い米国のSAF、どのように受け止めるべきか。

このような状況にあるSAFをどのように考えるべきか。米国産SAFを使うことは多くのメリットがあるだろう。商業化が他国よりも進んで、供給増と価格低下が見込まれる。

ある製品で国内産業を無くして外国に依存することは愚かなことだが、日本にはそのSAFの製造産業はない。日本でも国産化の試験生産が行われつつあるが、それはゴミや廃棄物由来のものだ。それが高コストになるなら米国SAFを中心に供給体制を考えることは合理的だ。日米の政治・安全保障の同盟と友好関係がある以上、安定供給が見込め、両国の関係緊密化にも役立つ。

これは私の意見だが、選ぶのは消費者だ。読者の皆様はどのように考えるだろうか。