米国原子力燃料の将来


環境政策アナリスト

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米国の新型原子炉開発においてキーとなるのは燃料である。新型原子炉向け燃料はHALEU(High-Assay Low-Enriched Uranium)と呼ばれる高純度低濃縮ウラン(濃縮度5%~20%)である。米国エネルギー省(DOE)はHALEU製造のために2022年HALEUコンソーシアムを設立し、2024年6社の燃料製造メーカーと契約をした。現在核燃料は主としてロシアから供給されており、脱ロシアが米国にとり喫緊の課題だ。そのため既存の原子力発電用に低濃縮ウランを製造しているメーカーを選び、将来の燃料供給を計画している。そして今年4月にDOEはHALEU燃料をDOEが主導している5つの新型原子炉プロジェクトへの燃料供給のコミットメントを通知し、8月にはさらに4つの新型原子炉プロジェクトのための燃料供給を通知した。DOEが割り当てるのは国防総省との協力で行われている超小型原子炉プロジェクトなどである。新型原子炉への燃料供給の取り組みは5月にトランプ大統領が署名した新型原子炉の安全保障への活用および原子力産業活性化のための大統領令にも関連付けられている。トランプ政権は原子力発電能力を設備容量1億kWから2050年には4億kWにするという方針を大統領令で宣言している。従ってDOEはただHALEU製造だけを企図しているのではなく通常の原子力発電所で使用する低濃縮ウランの拡大も目指している。

しかしながら、他方で既存原子力発電所のための燃料については、すでにこれまで多くを依存してきたロシア産燃料を基本的に禁止する法案が2024年に議会を通過しており、2028年にはロシア産燃料を全廃するとしている。これらはロシアのウクライナ侵攻に対する制裁という意味と米国自身の新たな輸出材として期待をしている新型原子炉の開発促進という政策目標を兼ねた動きである。実際これに呼応してウランの採鉱は2024年に2018年以来最高を記録している。さらにウラン採鉱会社は需要に対応するためにさらに生産を拡張しそうだ。濃縮についても原子力規制委員会(NRC)はウレンコUSAに対して増産を許可している。さらにDOEはレーザー濃縮を開発するとしている。こうした流れのなかでDOEは1950年制定の国防生産法に基づく「国防生産コンソーシアム」を組織し、原子燃料サプライチェーン強化に乗り出し、長く米国では禁じられていた再処理も議論の俎上に乗る可能性がある。新型原子炉の安全保障への活用を求める大統領令においてもDOEに対して「米国原子力発電所の燃料のため再処理できるDOE内に貯蔵されているすべてのウランとプルトニウムを特定する」ことを求めている。HALEUに対応するためにも再処理は重要なポテンシャルを持っていると考えられている。

ロシア産燃料制限には、国内産ウランが足りない場合に法律上DOEに対して適用除外の条項も含まれており、しばらくはロシア産ウランの輸入は続くものとみられる。しかしながら上記大統領令に従えば原子力発電所の需要は大きく、新型原子炉用も含め、燃料が原子力産業が直面する潜在的な課題であるとの懸念がある。DOEも、HALEUについても商業規模のサプライチェーンはまだ存在しておらず、短期的にDOE在庫およびロシア産由来のウランに依存せざるを得ず、将来の新型原子炉への需要には限定的にしか応えられないと考えているようだ。またロシア産ウラン輸入がストップしたあとの低濃縮ウランの供給のためと長期的な原子力発電所の拡大のためには一層の増産が必要であることも認識されている。議会においても新型原子炉は発電目的という意味では大きな役割を果たさないので大型の原子力発電およびそのための低濃縮ウランの製造に優先順位を置くべきであると考える議員も多い。あるロビイストも「これまで数年間原子力の新たな潮目の変化をみてきた。みな新型原子炉に目が行っていたが、電力需要の増大が見込まれる今AP1000のような大型原子力発電に産業界の関心が集まっている」と述べている。ロシア産ウラン輸入禁止の適用除外から完全禁止への移行についてDOEは自信を持っているとし、3年の移行期間とその間の国産燃料開発は可能としているが、本当に原子力発電規模を拡大させるとすれば低濃縮ウランサプライチェーンの不足は主要な課題であり続けるであろう。