ガソリン税の暫定税率廃止
―減税財源の考え方―


日本エネルギー経済研究所 石油情報センター

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(「エネルギーレビュー vol.537 2025年10月号」より転載:2025年9月20日)

ガソリン税の暫定税率廃止

いわゆる「ガソリン税の暫定税率」は廃止するとの昨年末の3党幹事長(自民・公明・国民民主)合意の具体化が動き出した。この時は、廃止自体は合意されたが、時期は明示されなかった。参院選の後の7月31日、与野党7党は、これを再確認、8月1日には野党6党が臨時国会に、本年11月1日廃止を明記した法案を共同提出し、同日から与野党の実務家協議が始まった。

廃止の具体化に向けた協議の論点は、軽油引取税・現行補助金の取り扱い等多岐にわたるが、暫定廃止に伴う税収減少分(約1兆円)の「穴埋め」、代替財源をどうするかが中心となる。野党は、企業収益の好調・株高等を背景とする税収の上振れ分、各種特別会計の黒字分、法人税の増税などを充当すれば良いとするが、与党は、その時々の景気動向や歳入のブレに左右されず、確実な税収が確保できる「恒久財源」が必要であるとして、対立している。

今回は、ガソリン税の暫定税率廃止に伴う財源問題を中心に、背景、沿革を含めて、説明したい。

旧民主党政権の挫折

実は、ガソリン税の暫定税率廃止は、2010年旧民主党が鳩山由紀夫政権当時、代替財源欠如と温暖化対策逆行批判で、断念した前例がある。2009年夏の総選挙で、暫定税率廃止を政権公約として勝利、政権を奪取した。当初、揮発油税の石油化学原料ナフサ免税を廃止、減税財源に充当すれば良いと主張していたが、そんなことをすれば、日本の石油化学産業は国際競争力を喪失、エチレンセンターを中心とする地方各地の石油コンビナートは大きな打撃を受ける。また、当時、鳩山内閣は地球温暖化対策に積極的で、排出削減目標の引き上げ等を実施していたにもかかわらず、環境政策に逆行しているとの批判が拡大した。そのため、暫定税率廃止を断念せざるを得なかった経緯がある。

したがって、暫定税率廃止は、旧民主党の「置き土産」でもあり、鳩山内閣・菅直人内閣の後を受けた野田立憲民主党代表、そして、2009年に初当選した玉木国民民主党代表にとっては、リベンジマッチかも知れない。同時に、その困難さが分かっているからこその与党への揺さぶりに違いない。

暫定税率は既に廃止

その際、旧民主党は、名目上、「暫定税率」を廃止したとして、租税特別措置法(租特法)の特例税率の実施期限の規定を「当分の間」との言い換えを行い、事実上、暫定税率を「恒久税率」とした。

それまでは、租特法に5年間の暫定期間の規定があり、5年間に1度は必ず見直しがあり、租特法の改正作業が必要であった。そのため、捩れ国会の影響で、暫定期間切れが発生し、2008年4月1か月間、本則税率に復帰したこともあった。「当分の間」との言い換えで、法律改正の必要はなくなった。その意味で、「暫定税率」は、既に廃止されており、「当分の間税率」というのが正しい。

したがって、3党幹事長合意の文面には、「いわゆる」との修飾語がついており、日経新聞の記事には「旧暫定税率」として「旧」の字が付いている。記者・デスクの見識であろう。なお、2010年の「当分の間」への改正時、追加されたのが、トリガー条項である。

ちなみに、3党合意の「いわゆる」との修飾語は、「暫定税率」のみならず、「ガソリン税」にもかかるものと思われる。税法上「ガソリン税」は存在しない。「揮発油税」と「地方揮発油税」を総称、一般的にわかりやすく言い換えたものが「ガソリン税」である。

~更新投資が欠かせない道路維持財源の扱いに苦慮か~

特定財源としてのガソリン税

その揮発油税、終戦直後の1949年、戦前にあったものが復活した。復興のため歳入不足の中、一般財源として導入された。ガソリンも今のような生活必需品ではなく、木炭自動車との差異に着目、奢侈品(贅沢品)への課税であった。これを1954年、若き日の田中角栄代議士が中心となって、道路整備臨時措置法を制定、特定財源化された。

翌年には、地方道路税(現在の地方揮発油税)が追加、道路財源として、地方に譲与されることとなった。その後、田中角栄総理大臣の1974年には、第1次石油危機前後の「狂乱物価」、インフレで道路財源が不足、また、消費抑制、大気汚染対策を名目として、暫定税率を制定、増税が行われた。

76年、79年に暫定税率の引き上げ(増税)があり、現在の実効税率53.8円/ℓ相当(税法上は53,800円/kℓで課税)となった。

表:ガソリン税・軽油引取税の内訳
(単位:円/ℓ相当)

特に、70年代から80年代のわが国は、マイカーブームで自動車社会が確立し、ガソリン需要も伸び続けた時代、60年度586万kℓ、70年度2101万kℓ、80年度3454万kℓ、90年度4614万kℓ、2000年度5837万kℓと40年間で約10倍、ピークは2004年度の6148万kℓとなった。ガソリン需要増加に伴い、道路特定財源であるガソリン税収も、自動的に増加を続け、04年度当初予算では3兆円に達した。その間、ガソリン税収は、安定的に増加を続ける歳入として、国土建設の根幹である道路整備事業を担ってきたといえる。その意味で、道路特定財源と暫定税率は、田中角栄氏の知恵であり、「国づくり」の根幹を担ってきたことは確かである。

ただ、2000年代半ばには、財政赤字の拡大を背景に、小泉内閣時代には、一定額の使途が特定されている道路特定財源を何にでも使える一般財源に組み替えるべきとする一般財源化の議論が高まり、福田内閣時代には、道路整備特別措置法が改正され、2009年度から一般税源化された。

また、その後、自動車燃費改善、ハイブリッド車導入、軽自動車化、若者の自動車離れなどで、24年度には内需が4364万kℓと20年間で29%減少した。20年間で年率1.5%の減少を大きいと見るか、小さいと見るかは割れるところであるが、他方、地方を中心に、公共交通機関は衰退し、自動車は日常生活に必要不可欠な地域も多くなってきた。通勤、通学、買物、通院など、家族一人に1台の家庭も出て来た。高齢者になっても、自動車に生活を依存せざる得ない人も増加している。

EV化とガソリン税

最近、比較的なだらかに減少して来たガソリン需要も、自動車の電動化(EV化)が進めば激減する。それは同時に、道路特定財源として、また、2010年度からは一般財源として、年間2兆円に及ぶ税収、歳入源となって来たガソリン税自体も、脱炭素が進めば、その財政的価値はなくなることを意味する。

今回、物価対策、あるいは国会対策として論じられているガソリン税の旧暫定税率の廃止であるが、本来、脱炭素時代の財源対策として、特に、老朽化する道路インフラの維持管理財源として、何に税収を求めるのが適切か、そこまで遡って検討する必要があるのではないか。おそらく、「恒久財源の必要性」という文言には、そこまでの意味が含まれているのであろう。

(本文中、評価・意見に関しては、あくまで個人的意見である。)