強まる「再エネ嫌い」を懸念
-足りなかった未来像の議論を今こそ
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
選挙で見えた再エネへの不信
7月の参議院選挙では自公連立政権が大敗した。その結果から、国民に広がっているように見える再エネへの不信感を考えてみたい。
今回の選挙で観察された新しい動きは、勢力を伸長させた新興政党が再エネ、脱炭素政策をそろって批判していることだ。脱炭素政策を推進する政権与党、それでは足りないと叱咤する、そして反原発を語る一部左派政党はそれほど支持が増えなかった。
選挙の争点は生活苦と物価高をめぐる対策だった。途中からSNSが主導して外国人問題が浮上した。エネルギーは主要な争点になっていないように見えた。しかし有権者の話を聞くと、ある程度、影響したように思える。私は、参議院選挙の取材で埼玉県を訪ねた。この地域で深刻になっている外国人問題の選挙への影響を調べるためだった。
この地域では、外国人問題への対応の鈍さを、与党に投票しない理由にする人が一定数いた。加えて物価高、生活苦の要因として、エネルギー問題を取り上げる人がいた。「再エネ賦課金というのが、毎月1500円ぐらい取られるが、私になんの役に立っているのでしょう」(60代主婦)などの声を聞いた。補助金が注ぎ込まれているのに上昇気味の電力、ガソリン価格をぼやく人もいた。
感情的な反感への懸念
そのためか、SNSをのぞくと、再エネへの反感が強まっているように見える。そこでは日本各地での再エネによる環境破壊を、地元の人やエネルギーの専門家が映像や写真をつけて拡散している。熊本県の阿蘇地域、北海道の釧路湿原、各地の里山の環境や景観が破壊され、太陽光パネルに埋め尽くされた光景だ。非常に不快で胸が痛む光景だ。
当然、このような光景は、再エネ、太陽光への一般国民の信頼をなくしている。再エネ開発での環境への配慮は、もっと厳しくするべきだったのに、日本ではその整備が遅れた。早急な是正が求められるが、一度壊れた森林などの環境はなかなか元に戻らない。
保守政党、一部からは右派ポピュリズムと呼ばれる政党が、欧米で躍進している。そうして揃って脱炭素政策に疑問を示している。米国ではトランプ大統領がその先頭に立っている。それらの国でも、同じような太陽光パネルや風車による環境や景観の破壊が取り上げられている。再エネや脱炭素というのは、どうも欺瞞、偽善という印象を全世界で政治的に振り撒いている。
しかし、日本ではその反発の方向が、ややおかしくなっている気配もある。ネットでは自由に言論が流れている一方で、規制がないゆえにその情報の流れがおかしな形になってしまう場合がある。特定の意見を持つ人々が集まり、異なる意見を排除して過激になっていく現象がある。「サイバーカスケード」(カスケード:かたまり)とか「エコーチェンバー」(反響の響く部屋。特定の音が大きく聞こえること)という現象だ。政治に絡むと、そうした動きが先鋭化する。
短文投稿のSNSのXでは、その政治議論が可視化される。何人かの新興政党の支持者のXをのぞいてみた。そろって再エネを批判し、その政党の政治家の言葉を引用しながら、「日本の自然を壊してメガソーラーを建てるのはおかしい」「太陽光パネルは中国製だ。日本の金で中国に利益を与えている」「年間2兆円の再エネ賦課金の価値があるのか」といった意見が溢れていた。
それらの意見は同意できるものもあるが、陰謀論めいたことを発信するアカウントもあった。「エネルギー利権で日本が外国に売り渡される」「再エネや脱炭素は米民主党政権の謀略だ」「再エネ嫌いのトランプ米大統領はこうしたディープステートの利権と戦っている」などだ。もちろん、それは一部の人の意見だろう。しかし、この日本の再エネに関するネット、一部政党の議論は、おかしな思い込みがあるように思える。
放置すれば、反感で政策が瓦解の危険
「原子力に関する世論調査」https://www.jaero.or.jp/poll/などをみても、再エネへの期待は一服したものの、まだ好意的に受け止める人が国民の大半だ。太陽光、風力の活用を求めている。脱炭素は長期的には必要だと大半の人が考えている。再エネは一定程度の雇用や産業を産んでいる。総発電量の約22%(2022年度)まで増えた再エネを、既存のエネルギーシステムの中にどのように組み込み、発電コストを引き下げるかが課題だ。
また気候変動に備えて、脱炭素の社会作りを進めることは、持続可能な発展をするためにどうしても必要だ。日本はこうした環境技術では世界のトップクラスをまだ走っている。再エネや脱炭素の動きを一方的に敵視するのは、逆に大きな混乱を招き、日本にも、騒ぐ人にも損をもたらすだろう。
ただし、また再エネへの感情的な反発を持つ一定の世論の存在、そしてそれに支援された政党が力を持ち始めたことは確かだ。政府と経産省が進めようとしてきた「GX政策」、また2040年度の電源構成において再エネで40~50%を占めることを目指す野心的な目標を掲げる第七次エネルギー基本計画は、この動きを放置すれば暗礁に乗り上げるだろう。
再エネバッシングを乗り越える
2011年の再エネ振興策の後で、経産省の担当部局に何度も取材する機会があったが、彼らは量を入れ、価格を下げるという大目標があるために、世論の合意、環境保護などの関連視点を重視していないように思えた。政治家にも取材したが、彼らもそうした派生する問題にあまり関心がなかったようだった。その問題の重点選択の失敗が、今になって国民の不信という形になって現れているように思う。
私はここで再エネの未来像を、立ち止まって考えるべきだと思う。それには関係事業者、行政、また経産省、政治家など関係者の協力が必要だ。再エネ、脱炭素への批判は、コスト、そして環境破壊などで、国民が負担に応じた利益を感じないところから出ている。そして「誰かがズルをして儲けている」という不信が出ている。国民がどのような利益を、再エネから得るのか。見えるように、また納得させないと再エネに懐疑的な国民の意見は強まるばかりと思う。内閣府や経産省の審議会で議論されていても、そうしたメリットが国民の耳目に伝わっているとは言い難い。
また情報も未整備だ。例えば、私は10年前、「再エネ機器の製造国はどこか」「外資の事業の出資割合を公表した方がいいのではないか」と経産省の役人に聞いたことがある。しかし、「製造国は分業されているので把握しづらい。中国での再エネ機器の製造状況は把握できない」「所有が移ることがあり外資の割合を示すのは難しい」という返事だった。しかし、今になって、この2つは批判の中心になっている。このように情報公開が不十分なことも、国民の不信を招いた理由であろう。
日本のエネルギー政策と再エネは、不幸な動きをした。2011年の福島事故の反動で、再エネ振興策が採用され一種の「バブル」めいた成長をした。その弊害が今になって広がっている。
一回立ち止まり、検証をするべき時ではないか。実際に、民意が選挙を通じてブレーキをかける状態できた。新興政党は検証に動いてくるだろう。だとしたら当時者が先に回って国民の不信を取り除く努力をした方が良い。足りなかったみんなが幸せになるための「未来像」の議論を再エネ、脱炭素問題で行うべきだ。