トランプ政権下でも増える再生エネ


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「エネルギーレビュー vol.532 2025年5月号」より転載:2025年5月20日)

米国のバイデン前政権は、電源の2035年の脱炭素化と50年のカーボンニュートラルを目標と掲げ温暖化対策に熱心だった。再生エネについては、投資・生産税額控除制度により太陽光発電、風力発電設備導入を支援する一方、連邦政府所有地でのメガソーラー導入を進めた。さらに電気自動車(EV)支援のため、厳しい排ガス規制の導入に加え、充電ポイント新設、EV購入に補助金を投入し、輸送部門からのCO2排出削減を目指した。

トランプ大統領は、温暖化対策は中国を利するだけ、グリーンディールはグリーン詐欺の立場だ。パリ協定からの離脱を通告し、排ガスなど環境規制の緩和も打ち出している。化石燃料増産に熱心な一方、連邦政府が区域を設定する領海外大陸棚での洋上風力設備の新設を認めないなど、今のところ再生エネに対し厳しい姿勢を取っている。

政権交代に伴う政策変更の後ろには、民主、共和両党で大きく意見が異なる支持者の姿が見える。温暖化対策に熱心なのは主として民主党支持者だ。昨年末に発表されたピューセンターの世論調査では、「人為的な活動が温暖化を引き起こしている」との設問に、民主党支持者の70%が同意だが、共和党支持者では20%だ。否定する比率は民主党支持6%に対し共和党支持44%だ。昨年6月の調査では石炭開発の支持は、共和党支持者64%、民主党支持者16%だ。これだけ支持者の色分けがはっきりしていると、大統領も支持者を考えた環境エネルギー政策を打ち出すことになる。

しかし、大統領の政策によりエネルギー供給の姿が大きく変わるかといえば別問題だ。たとえば、バイデン政権下の米エネルギー省は、政権の目標とは異なるエネルギー、電力供給の予測を発表していた。予測はいくつかのケースに基づくものの、どのケースでも目標の50年脱炭素は実現しない。バイデン大統領は、連邦所有地での新規鉱区設定の禁止を打ち出すなど化石燃料に厳しい姿勢を取ったが、50年でも石炭生産がゼロになることはないとの予測だった。

トランプ大統領は、2017年から21年までの第1期目に石炭の復権を打ち出し、炭鉱労働者をホワイトハウスの執務室に招き入れ環境規制を緩和する大統領令にサインしたが、1期目の期間中に石炭生産量が復活することはなく、減少を続けた。皮肉なことにバイデン政権時代に生産量が増加した。バイデン政権が石炭生産を後押ししたためではなく、ロシアのウクライナ侵攻により天然ガス、石油価格が上昇し、米国内では発電用に石炭が価格競争力を持つ一方、ロシア炭の禁輸を実行した欧州での需要が増えたためだった。政策よりも市場の力が強かった。

再生エネに冷淡なトランプ政権も市場を変えるのは難しそうだ。米国の発電設備容量の推移を見ると昨年米国で閉鎖された石炭火力は400万kWだったが、今年は810万kWに増える見込みだ。一方、今年新設される発電設備の見通しでは、事業用太陽光3250万kW、蓄電池1820万kW、風力770万kWが、全導入量6300万kWの内93%を占める見通しだ。投資に関し長期的な視点が必要な事業者は政権の政策の変更に右往左往しない。

米国の電力事業者は、新規設備の導入を検討する際に、コスト競争力と将来需要家から必要とされる設備を考慮するのだろう。今であれば、データーセンターを必要とするGAFAMのように脱炭素電源を希望する需要家の存在が、電源の選択の際に大きな影響を持つことになる。資本主義の国であれば、市場の力が強制力のない政策よりも強くなるのが自然かもしれない。

政策によりエネルギー、電力市場を変えようとすれば、再生エネ導入のように制度を設け誘導することが必要だ。日本ではエネルギー基本計画という目標があるが、目標の達成には制度が必要だ。再生エネ以外に設備新設への支援制度がない中で設定された目標の実現は叶わないのではないか。市場をコントロールできない以上、目標実現を目指すのであれば制度創出がまず必要だ。