高校生の「エネルギー問題研究」の発表会に参加して
井内 千穂
フリージャーナリスト
2025年2月15日~16日の2日にわたり、国際環境経済研究所(IEEI)主催で高校生15名と社会人25名が福井県敦賀市に集うというイベントに参加しました。初日は原子力関連施設を見学し、2日目には高校生が「エネルギー問題」をテーマに発表を行うというユニークな企画です。まずは、世代を超えて大いに刺激になる有意義なイベントを実現したIEEIに敬意を表し、参加する機会に恵まれたことに感謝申し上げます。とくに、2日目の発表会では、若い世代と年長者である大人世代との関わり方について改めて考えさせられました。
見事だった発表会
高校生の「エネルギー問題研究」の発表会は、ひと言で言って見事でした。完成度の高いパワーポイントのスライドは今どきの高校では当たり前なのでしょう。ハイレベルな内容とスムーズな発表に感心して、引率の先生方に確認したところ、選択授業やゼミ活動として、年間通してエネルギー問題について学び、中には電気新聞主催のエネルギーピッチ(1)にエントリーした学校もあるなど、時間をかけて取り組んできたようです。
前提を設定した上で理想の発電比率を計算した学校もあり、小数第1位まで表示されたエクセルシートに眩惑されつつ、前提の妥当性をチーム内でどうやって検討したのかに興味をそそられました。
また、2040年の干支を引用した「不安を消し去る(申)エネルギー基本計画」というタイトルをつけて、かわいらしいサルのイラスト付きのスライドを用意した女子高生チームの洒落た感覚も会場を魅了しました。6人が順次原稿を読み上げるスムーズな発表から時間をかけて準備してきたことが感じられます。
一方、「どんな社会にしたいのか?」という問いからスタートしつつ、地層処分問題への言及が唐突で、スムーズとは言いがたいものの等身大の高校生らしい発表もありました。同校の生徒さんに確認すると、日頃のゼミ活動では先輩たちのこれまでの成果を引き継いで高レベル放射性廃棄物の地層処分問題を中心に取り組んでおり、今回のテーマには「準備の時間が足りなかった」とのことでした。
参加した社会人全員が投票するコンテスト形式は、確かに、競い合うことでモチベーションが上がるに違いありませんが、三校三様、アングルも手法も異なる発表には順位をつけ難く感じました。いずれにしても、高校生たちのパワーは頼もしく、各校の先生方の取り組みに頭が下がります。
大人の役割は指導と講評なのか
初日の美浜発電所見学の後、また、夕食後にも、参加社会人のうちエネルギー関連業界のエキスパートが高校生を指導する時間が設けられていました。その場面を取材できなかったのは残念ですが、翌日の発表会に向けて、指導や準備が深夜に及んだようです。
各校で日頃からエネルギー問題に取り組み、発表を準備してきた生徒さんたちは、前夜に致命的なダメ出しを受けたのでしょうか。いや、そうではなく、電力会社や原子力業界の大人に専門的な見地から有意義なアドバイスをもらって、はるばる敦賀まで来た甲斐があったのだとポジティブにとらえたいと思います。ただ、指導前の発表も聞いてみたかった気がします。
翌日、三校が発表した後で行われた質疑応答の時間には、手を挙げた社会人の多くが、質問ではなく講評の辞を述べたのが印象的でした。これは長年のキャリアを経て今は業界の重鎮を務める方々の習慣なのかもしれません。そうであるなら、逆に高校生の側から、「私たちの発表のこの部分についてはどう思いますか?」と質問してもらうのも良いのではないかと思いました。
原子力発電所を見学する意義
多くの社会人が講評や感想を述べた中で、質問したのはベテランのジャーナリストです。彼は、原子力を積極的に活用していくエネルギー計画を発表した女子高生たちに、「原子力についての一人ひとりの思いを聞きたい」と尋ねました。興味津々の会場で、彼女たちの回答は、「以前は原子力に対して不安を感じていたが、原子力発電所を見学して、『安全』だということがわかった」というものでした。後で聞いたところによると、彼女たちはこれまでにも浜岡原子力発電所をはじめ、多くの現場を訪問しているとのことです。
私の乏しい経験の中でも、福島第一原子力発電所の廃炉現場、浜岡、泊、松江の発電所など、原子力発電所を訪ねると、電力会社の方々の真摯な取り組みが伝わってきました。その前に、セキュリティの厳しさや原子炉建屋の威容に圧倒されるというのが、素朴な実感です。今回のイベントでは、敦賀のリアス式海岸の奥に佇む美浜発電所を訪ねました。原発構内を巡るバスから、実物を前にしながらVRゴーグル越しに見るのが不思議な感覚でしたが、関西電力の担当者から丁寧な説明を受けました。新規制基準に適合した施設であることや関係者が真剣に取り組んでいることはわかります。
しかし、どこまで安全なら十分安全と言えるのか、素人にはわかりません。「安全対策の取り組みを信じるしかない。ゼロリスクはないので、天災・人災があっても取り返しのつかない過酷事故にならないように対応してもらいたい」と思うのが精いっぱいではないでしょうか。現場を一度も見ないままで、原子力に対する漠然とした不安を抱くのとは違って、女子高生のみなさんが実際に原子力発電所を訪ねて肌で感じたことを、もう少し深く、聞いてみたいと思いました。
互いの意見を交わし、一緒に考えたい
高校生たちの発表や社会人側の関わりから、いろいろ考えさせられたのは有意義なことでした。三校の高校生15人と、鉄鋼、電力、化学、自動車、ガス、セメント、石油、電気電子業界といった各産業の関係者25人が一堂に会するのは、きわめて稀な機会です。「良い発表だったね」で済ませるのはもったいないと思います。
生徒さんたちが時間をかけて考えてきたことについて、社会人としても、指導や講評だけでなく、ああでもないこうでもないと一緒に考えてみてはいかがでしょうか。たとえば、高校生と社会人の混成チームで、その場で話し合う企画も面白いかもしれません。加えて、これだけ様々な業界の方々が集まる機会に、高校生から社会人への「大質問大会」などもやってみてはいかがでしょうか。また、せっかく三校の生徒たちが敦賀で出会ったのですから、他校の取り組みや考え方について、生徒同士で自由に質問し合うのも有意義だと思います。そうすれば会場にもっと一体感が生まれたのではないか・・・次々とアイデアをかき立てられる場でした。
以前に、ある高校生が「大人と一緒に考えたい」と言っていました。「大人は、子どもは知識を与える対象であって、一緒に考える相手と見做していない」と彼女は言います。確かに、答えが明らかな問題であれば、「それは間違っているよ」という指摘はできますし、これまでの経験を踏まえてアドバイスすることもできるでしょう。しかし、大人にも正解がわからない、というより様々な主張があって当然な「エネルギー基本計画」のようなテーマであれば、対等に意見を交わした方が建設的ではないでしょうか。そうすれば、思いがけない新しいアイデアが出てくるかもしれません。
そんな大きな可能性を感じるイベントでした。IEEIとして初の試みであった有意義な企画の今後のさらなる発展に期待して、次の機会にも参加できることを楽しみにしています。