水素・アンモニアは将来の石油になるのか
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2024年11月1日号)
10月初旬から欧州を訪問し、国際エネルギー機関、産業関連団体などと将来の水素利用と産業の姿を議論した。電気の利用が難しい産業では水素の利用が広がるとの見方は共通だったが、欧州連合(EU)が目標とする2030年の水素生産2000万トンのうちEU外での生産目標1000万トンの達成は不可能と多くの方が見ていた。EU内の1000万トンの生産についても懐疑的な見方が多いが、当面EUの目標が降ろされることはないようだ。
目標未達の最大の理由は需要が伸びないことだ。水素製造用の国内の再エネ電源に限界があるドイツの輸入量が不透明だ。ドイツの高炉製鉄が水素の大きな需要のひとつだが、水素を輸入しドイツで製鉄を行うよりも、アフリカ、南米での競争力のある水素を利用した粗鋼生産とドイツへの輸出に経済性があるとの指摘があった。
水力、原子力などの競争力のある非炭素電源を持つ北欧諸国がグリーン製鉄に力を入れているのは、将来現在の鉄鋼生産国に代わるチャンスとみているためだが、既存の製鉄業の国ではクリーン製鉄にはコスト面の大きな課題がある。補助金により当面の水素価格を下げる方針もあるが、長期の大規模な設備投資実施の支援にはならないとみられている。
クラスターの集積がない国での鉄鋼業の新設と操業は難しいから水素時代でもドイツでの一貫した鉄鋼生産は続くとの意見もあったが、水素価格は鉄鋼生産に大きな影響を与えるし、水素輸入に必要なパイプライン、船舶の輸送コストは高くなる。輸入水素がドイツで競争力を持つのだろうか。
水素による発電となると、さらに疑問があるが、ドイツ産業界の気候変動担当者からは、現在中東産の石油が世界中に輸出されているように、将来再エネ価格が安い国で生産された水素が形を変え輸出されるようになるとの意見があった。石油よりも輸送が難しく、水の電気分解によりどこでも製造可能な水素は石油とは異なる点が多くあるが、水素が主流の燃料になる時代はいつ来るのだろうか。