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ガラリと変わった欧州の様相

水素製造にも大きく貢献


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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(「エネルギーフォーラム」からの転載:2021年8月号)

<原子力発電の最大限活用>

 欧州の主要国は、2050年脱炭素実現の具体策を練り始めた。19年末の欧州連合(EU)による50年ネットゼロ宣言までは、CO2排出量が相対的に少ない天然ガスの消費は残るとみられていたが、宣言を境に様相はガラリと変わった。

 化石燃料の使用にCO2の捕捉と貯留設備が必要になる以上、脱炭素の方法は限定される。世界のCO2の25%と20%をそれぞれ排出する輸送と産業部門では、電気と水素利用が主体になる。

 EUは、輸送部門の水素利用とEVに大きくかじを切ったように見える。電源の脱炭素を前提とした乗用車、短距離船舶の電化。電化が難しい航空機、長距離外航船舶、大型車両、ディーゼル列車では水素を利用し脱炭素を図るようだ。具体的には30年時点で3000万台のEVが市場に累積している計画だ。欧州各国がEV用の蓄電池を製造する。その工場数は38、投資額は5兆円以上と想定されている。

 この前提は、米バイデン政権が35年の電源の脱炭素化を目標としているように、CO2を排出しない電源の導入だ。風力、太陽光などの再生可能エネルギーばかりが注目を浴びるが、フランス、フィンランドなどは原子力も活用する。米国も同様だ。バイデン大統領の予算案では小型原子炉の導入資金が22年度1億ドルから毎年増額され26年度に25億ドルまで増加する計画だ。

フランスは原発で水素生産
再エネでは製造コストが上昇

 原子力への期待は電源の非炭素化だけではない。水素製造に原発の電気利用を考えている国もある。今、水素は年間約9千万tが世界で生産されているが、その主体は天然ガスあるいは石炭からの製造だ。当然CO2が排出される。天然ガスから水素1tを製造すればCO2排出量は10tだ。水素製造量増に際してはCO2排出抑制が必要になる。

 CO2を出さない水素製造方法は非炭素電源利用による電気分解だが、再エネからの電気では電解設備の稼働率が低下し、製造コストが上昇する懸念がある。いつも発電可能な原発の電気であれば、その心配はない。EU内では原発の電気による水素製造に関しフランスなどが賛成、ドイツなどが反対のように色分けされているが、賛成の声が増えている印象がある。

 現在、EU内で議論されている持続可能な目標に寄与する経済活動か否かを決めるタクソノミー(分類)では、今年3月、欧州委員会(EC)共同研究センターが、ほかの発電技術との比較で原子力発電が環境に害を及ぼすことはないとの報告を出し、4月にECが最終評価を待ちタクソノミーの委託法令に原子力を含む予定と示唆している。

 5月、フランス議会の科学技術選択評価委員会は、水素を製造するために世界で400基の原発が必要になり、フランスでも水素製造だけに4基の原発が必要になるとの報告書を公開した。50年ネットゼロを実現するためには、電源の非炭素化と水素利用が必須になる。原子力抜きで達成することはできないだろう。水素利用の声が強まるにつれ原発の必要性も明確になってくる。



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