石油業界の現状と排出量取引制度に対する意見
石油連盟
Petroleum Association of Japan
今後、本格的な排出量取引制度GX-ETSフェーズ2の制度設計議論が進められるにあたり、石油精製業の特徴と役割、CO2排出削減に向けた取り組み、制度設計議論に対する考え方を紹介します。
エネルギー転換部門としての石油精製業
石油精製業は、主に中東から輸入した原油を、製油所の様々な設備を駆使して、国民生活や経済活動に不可欠な各種の石油製品に変換(製造)し、全国各地に供給する「エネルギー転換部門」の責務を担っています。
石油製品の需要は、日々刻々と変化するため、製油所の生産活動を石油会社が自由にコントロールすることは難しく、製油所のCO2排出量も、石油製品の需要動向に大きく左右されます。従って、排出量取引制度の制度設計では、エネルギー転換部門としての役割に十分配慮することが必要です。
Hard-to-Abate産業としての石油精製業
製油所では、例えば原油を約350℃にまで加熱し、沸点の違いを利用して様々な原料油に分ける蒸留装置など、多くの設備で高温や高圧を必要とします。また、設備の処理量が大きいため、瞬時に大量のエネルギーが要求される点も特徴です。
こうした高温の熱需要を、電力で代替することは難しく、現状技術では化石燃料の利用が不可避な状況にあり、石油精製業は、いわゆる「Hard-to-Abate産業」にも該当します。
最新技術を活用した省エネ対策の深堀り
既存技術では大幅なCO2排出削減は困難であるものの、気候変動対策に最大限貢献していくとの観点から、省エネ対策を徹底的に推進し、CO2排出量の削減に努めています。
近年では、設備の運転管理の最適化や、設備のメンテナンスに、最新の「デジタル技術」を取り入れることで、これまで困難であった省エネ対策の更なる深堀りにも積極的に取り組んでいます。
カーボンリーケージの懸念
石油産業は、エネルギー産業の中でいち早く自由化が進み、石油製品の輸入は自由化されています。こうした中で、アジア・中東地域には、後発の利を活かして、わが国の数倍の規模を有する製油所が複数存在しており、こうした大規模製油所から輸出される石油製品との厳しい国際競争に晒されています。
石油製品は、消費段階の利便性を考慮し、一定の規格に適合するよう生産されているため、品質による差別化は馴染まず、炭素コストの負担増加は、カーボンリーケージリスクの増加に繋がります。
また、全国を網羅する「石油サプライチェーン」は、石油各社の事業活動を通じて維持されており、カーボンリーケージの影響が顕在化すると、石油製品の安定供給に支障をきたす恐れもあります。
国際競争力を確保し、カーボンニュートラルへの取組を促す制度設計
ここからは、排出量取引制度の制度設計に対する石油精製業の考え方を説明します。
まず、わが国の排出量取引制度は「成長志向型カーボンプライシング構想」としての役割を目指しており、産業の国際競争力の低下を招かないよう、慎重な制度設計が必要です。
また、石油精製業を含む「Hard-to-Abate産業」は、カーボンプライシングの提示だけでは排出削減対策を進めることが難しく、例えば、大量かつ安価なCO2フリー水素などが活用できる環境整備などが重要となります。
なお、中長期の炭素価格の提示は、Scope3の削減に寄与するカーボンニュートラル燃料(CN燃料)などの需要を喚起し、こうした燃料を生産するための設備投資の判断にも大きな影響を及ぼすとの観点からも、検討が必要です。
Scope3の排出削減に寄与する製品への配慮
持続可能な航空燃料「SAF」や合成燃料「e-fuel」など、Scope3の排出削減に寄与する製品を製造する際には、製造設備からのScope1+2が増加することが想定されます。こうしたScope1+2排出量の増加については、ライフサイクル全体でのCO2削減に繋がる取組みを後押しする観点から、排出量取引制度において、特別な配慮が必要です。
また、既存燃料よりも割高なCN燃料の需要を喚起するためには、CN燃料を消費した際のCO2削減効果を、排出枠の遵守にも活用できる体制を整備するなど、CN燃料の導入促進に繋がる制度設計も重要です。
個別業界の実態に配慮した制度設計
既存技術で大幅削減が困難な業種や、社会的使命を果たすため、生産活動量を自らコントロールできない業種については、十分な無償排出枠を配分することが必要です。
また、製油所では、消費する電力の9割を所内の発電設備で賄っていますが、系統電力の供給力不足の際には、供給力の積み増しとして逆潮流(売電)を行っていることから、製油所に関係する発電設備からのCO2排出量は、石油精製に伴う排出量として取り扱うなど、十分な配慮が必要です。
石油精製業は、CN燃料の供給という新たな挑戦と、カーボンニュートラルに向けたトランジション期のエネルギー安定供給確保に、最大限の努力を継続していきます。排出量取引制度の制度設計においては、こうした石油業界の特性と役割を十分考慮頂くよう求めてまいります。