電化推進のためのヒートポンプ等普及拡大に向けた提言

~エネルギー基本計画の見直しに向けて 重要論点及び期待事項~


The Federation of Electric Power Companies of Japan

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※ 「電気事業連合会からのお知らせ」より(2024.7.19付)

1.はじめに

 我が国では、2020年10月の菅総理による2050年カーボンニュートラル宣言、2021年4月の温室効果ガスの2030年目標の引き上げ(2013年度比46%削減)の表明を受け、あらゆる施策を総動員のうえ、温室効果ガスの削減に取り組んでいるところ、第6次エネルギー基本計画においては、供給サイドにおける電源の脱炭素化とともに、需要サイドにおける電化の促進が重要とされ、その手段の一つとして熱分野におけるヒートポンプ等の利用が記載された。
 また、カーボンニュートラル宣言をする国・地域の増加に伴い、温室効果ガスの排出削減と経済成長をともに実現するGXに向けた長期的かつ大規模な投資競争が激化し、GXに向けた取り組みの成否が企業・国家の競争力に直結する時代に突入したことや、ロシアによるウクライナ侵略を受けエネルギー安全保障上の課題を再認識したことを受け、2023年2月にはGXに向けた基本方針が示され、各種施策が進められている。
 そうした中で、次期(第7次)エネルギー基本計画の策定に向けて、議論がキックオフされており、5月17日の弊会会長会見において、「事業者として考える重要な論点と期待事項」について提示した。エネルギー安全保障の強化およびカーボンニュートラル・GXを達成するためには、供給サイドでの取り組みだけでなく、需要サイドにおいて、非電力部門における熱需要の電化に資する蓄熱システムや電気加熱(エレクトロヒート)に加え、「ヒートポンプ」の普及拡大をはじめとする電化の推進が不可欠である。
 一方で、供給サイドと比較すると、現時点で需要サイドの議論が熟しているとは必ずしも言えないことから、関係団体との議論や省庁との勉強会等を通じて、我々の問題意識を提示し、議論を重ねてきたところ。
 そのような議論を踏まえ、特に、非電力部門における熱需要の電化に資する蓄熱システムや電気加熱(エレクトロヒート)に加え、化石燃料の使用に替えて、大気熱を使用する「ヒートポンプ」の普及拡大はその切り札であることから、電気事業連合会では、関係諸団体等と連携しつつ、取り組みを加速していくため、本提言を取りまとめた。

2.提言の背景

 エネルギー安全保障の強化・2050年カーボンニュートラル達成・GX実現をしていくためには、エネルギー起源CO2排出量の約6割が非電力部門によるものであることから、非電力部門の化石燃料削減、すなわち電化の推進が不可欠である。
 電源の脱炭素化を前提に、ヒートポンプは、化石燃料の使用に替えて空気中に無限に存在する大気熱を使用して熱を供給することにより、化石燃料の燃焼を伴うボイラー等に比べて省エネルギー性およびCO2排出の削減に優れているほか、系統電気の脱炭素化による非化石エネルギーの利用に加え、大気熱という再生可能エネルギーの直接的な利用拡大、エネルギー自給率の向上を通じたエネルギーセキュリティーの確保にも資するものである。また、ヒートポンプは、フレキシビリティの点でも優れており、DR(デマンドレスポンス)に活用されることで、再生可能エネルギー電源の出力制御の抑制等、再生可能エネルギー電源の有効活用や更なる導入拡大にも寄与するものと考える。
 ヒートポンプの動向について海外に目を向けてみると、大気熱等の環境熱を利用するヒートポンプがカーボンニュートラルに向けた「切り札」として注目され、特に、ウクライナ侵攻を受けた脱ロシアガス等とも相俟って、各国において施策を総動員し、その普及拡大が進められている。欧州では、燃焼機器からヒートポンプ等への転換が主要対策として明確に位置付けられており、米国においては建築規制や税制優遇等による脱炭素関連産業への支援措置が州単位で図られるなど、欧米のヒートポンプ市場は今後も拡大することが予想される一方で、日本での導入状況は緩やかな状況にある。
 ヒートポンプは、日本のメーカーが技術面での優位性を保持していることから、今後も「ヒートポンプ等の普及拡大を通じて電化推進を進めていくこと」が、日本メーカーの高い競争力を維持・向上させていく点で、エネルギーセキュリティーや産業政策としても重要であり、また、2050年カーボンニュートラル達成に寄与する、現在保有している技術で対応可能な現実解であると考える。特に、新築時に導入された設備のエネルギー転換がほぼ行われない「ロックイン問題」が大きな課題として顕在化していることからも、現段階から取り組みを加速させていくことが必要である。
 令和5年度補正予算において、省エネ補助金として家庭用ヒートポンプ給湯機(エコキュート)や、産業用・業務用ヒートポンプ機器に対して予算措置が実施され、ヒートポンプ機器の普及拡大の後押しに着実に繋がっているものの、2050年カーボンニュートラル達成・GX実現に向けては、ヒートポンプの普及拡大を中心に、蓄熱システムやエレクトロヒートシステム(業務用電化厨房を含む)等も含めた電化のより一層の推進が必要であり、その普及拡大にあたっては、ヒートポンプ機器等を取り巻く環境も含め、解消すべき課題も存在する。
 そこで、電気事業連合会では、2050年カーボンニュートラル達成・GX実現の切り札となるヒートポンプ等の普及拡大の実現に向けた課題、課題への対処を提示するとともに、我々としての取り組み方針を示すことにより、2050年カーボンニュートラル達成・GX実現に向け、電源の脱炭素化とあわせて、関係する諸団体と連携しながら、ヒートポンプ等の普及拡大を加速化させるべく取り組んでいく。

3.ヒートポンプ機器の普及見通し

 ヒートポンプ等の普及拡大に向けた課題等を示す前に、まず、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、その中心となるヒートポンプ機器の普及見通しを以下に示す。これは一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターが算定・公表している数値である。

 ヒートポンプの普及拡大がCO2排出量の削減に繋がることから、2050年カーボンニュートラル達成のためには、後述する課題を解決し、取り組みを加速化していく必要がある。

4.ヒートポンプ等の普及拡大に向けた課題

 ヒートポンプ等の普及拡大の実現に向けて、課題を整理すると大きく4つに分類される。「建物の適性」「テクノロジーの利用可能性」「インストーラー能力」「一般認知度」である。これらの課題への対応と、エネルギー政策・経済的な施策を掛け合わせていくことにより、相乗効果を生み出し、ヒートポンプ等の普及拡大が進むことが期待される。
 「建物の適性」とは、主に設置場所や断熱性能など主としてヒートポンプ等が設置される場所に着目した視点である。「テクノロジーの利用可能性」とは、ヒートポンプ等自体の技術に係る視点である。「インストーラー能力」とは、ヒートポンプ等を設置・導入する側の施工能力や費用面の視点である。「一般認知度」とは、ヒートポンプ等を実際に利用する消費者側の視点である。
 以下に、4つの分類ごとに課題を述べる。

(建物の適性)
 
電気に比べてCO2排出量の多い燃焼系機器の高効率給湯器についても建築基準法の容積率不算入の対象となっており、コスト面を考慮するとヒートポンプ給湯機が不利な状況
建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)の電力の一次エネルギー換算係数が、火力平均から全電源平均に見直された改正省エネ法(エネルギーの使用合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)と整合しておらず、電気の使用実態とあっていない
ヒートポンプ給湯機(産業用ヒートポンプ含む)等は貯湯槽のスペースが必要であり、設置スペースの関係からCO2排出量の多い燃焼系機器が選択される傾向
日本の建物の断熱性能が低いため、寒冷地(1地域・2地域)では特にCO2排出量の多い燃焼系の暖房機器が選択される傾向
新築時の電気設備まで含めたイニシャルコスト負担が大きく、イニシャルコスト低減の観点から燃焼系機器が選択されやすい
(テクノロジーの利用可能性)
 
DRリソースとして期待されるヒートポンプ給湯機(産業用ヒートポンプ含む)等について、その機器開発等が途上である
寒冷地仕様の商品ラインナップが限定的であり普及が進まない
ヒートポンプ給湯機等は貯湯槽のスペースが必要だが、機器の小型化が進んでいない
産業用の蒸気生成ヒートポンプは燃焼系システムと比較すると加熱能力で劣り、高温帯では燃焼系システムが選択される
(インストーラー能力)
 
デベロッパーにおいて物件売れ残り回避のためイニシャルコスト重視の結果、イニシャルコストの高いヒートポンプが敬遠される
個人、中小企業においてヒートポンプ機器等の導入に関する融資案件が少ない
ヒートポンプが普及していない地域において施工人材が不足
ヒートポンプ機器等の製造・設置・付帯設備のコストが高い
産業用ヒートポンプやエレクトロヒートシステムを検討できる人材が不足
検討内容が高度であり労力も多いため、省エネ診断における産業用ヒートポンプ等の提案が少ない
産業用ヒートポンプ設置も含めた中小企業へのエネルギーサービス適用を検討する際、対象企業の与信が課題でヒートポンプ等の導入が進まない
DRリソースとして期待されるヒートポンプ給湯機(産業用ヒートポンプ含む)等について、その周辺の環境整備が整っていない
(一般認知度)
 
寒冷地でのヒートポンプ暖房に対するイメージから燃焼系機器が選択される傾向
ヒートポンプ、蓄熱システム、エレクトロヒートシステムの仕組み・能力を理解している人が少ない
ヒートポンプが「省エネ技術」であり「再エネ利用技術」でありカーボンニュートラルに資する機器であることに対する認識不足

 上記の課題について、求められる支援の側面の性質に着目して再分類すると、以下の6項目に分類されることから、次章において項目別に具体的な対応策を提言したい。

政策上の明確化(強力な打出し)が必要
導入支援の拡充
機能向上に向けた技術支援
技術検討人材の確保
DRの積極的な活用
ヒートポンプ有用性の理解醸成

5.ヒートポンプ等の普及拡大に向けた提言(課題への対応策)

①ヒートポンプ等の普及拡大の実現に向けた方向性の打ち出し
 ヒートポンプ等の普及拡大の実現に向けては、課題への直接的な対処はもちろんのことながら、まずは、政策立案側からその方向性を明確に打ち出していただくことが重要であると考える。普及拡大に向けた筋道を描いた明確な指針や基盤整備、普及拡大を阻害する障壁の解決に向けた法整備など、具体的には以下のような対応を求めたい。

(具体策)
 
次期エネルギー基本計画において、需要側(家庭用・業務用・産業用分野)でのヒートポンプ等の導入を重点施策として明確に反映する。
エネルギー供給構造高度化法において「再生可能エネルギー」と位置付けられている環境熱(大気熱等)を、次期エネルギー基本計画においても明確に再生可能エネルギーとして位置付ける。
建築物省エネ法における電気の一次エネルギー換算係数について、省エネ法と建築物省エネ法とで異なる値を用いている状況を是正し、省エネ法と同様に火力平均から全電源平均に見直しを行うよう法改正を図る。
新築建築物へのヒートポンプ機器・システム設置準備(Ready)が施されるよう、必要な法整備を施していく。
ヒートポンプが対応できる産業プロセス等の温度帯域においては、ヒートポンプの導入が推奨されるような措置を施していく。
(例:工場等判断基準において、「(機器更新時には)ヒートポンプの導入可否を検討する」と追記する等、関係者に気づきを与えるような措置が有効。)
建築基準法における容積率不算入対象に関して、新築建築時のデファクトスタンダードとなっている燃焼系機器について容積率不算入の対象外とする。
ヒートポンプの普及拡大が、将来に向けて実質的なエネルギー自給率向上に繋がること等から、大気熱のエネルギー統計への計上に向けた議論を行う。

②ヒートポンプ等の導入等にかかるコスト支援の実施
 機器・導入コストの削減は、消費者ならびに製造者の両方にとりヒートポンプ等の魅力を高めるために必要不可欠な対策である。導入時の初期費用は燃焼系機器よりも高価となる傾向があるため、投資回収年数をより短縮化することは消費者がヒートポンプ等を導入する動機づけとなりうる。また、製造者側にも税制上のインセンティブ等の支援措置を講じることは、機器本体価格の低減に繋がりうることや国内製造の機運醸成による産業振興にも結び付くものと言える。
 また、寒冷地において断熱等級の低い建物では、暖房能力の不足によりヒートポンプ等の選択の可能性が狭まることから、断熱性能向上への費用支援を行っていくことが望ましい。

(具体策)
 
ヒートポンプ・蓄熱システムやエレクトロヒートシステム導入時の、初期投資費用調達時の金利優遇措置を設け、消費者側(事業者・個人)の導入障壁を軽減する。
ヒートポンプ等製造事業者への税制優遇措置を設け、機器本体価格の低減ならびに国内製造を促すよう働きかける。
※ 米国では脱炭素技術の国内製造に雇用創出が見込まれる場合、税額控除を実施
業務用・産業用向けヒートポンプ機器等の導入時補助金について、補助対象を付帯設備や工事費、設計費にも拡充するとともに、既設に加え新設の場合も補助の対象とする。
寒冷地における断熱性能向上策への補助金を増額する。
脱炭素に資するエレクトロヒートシステム導入に係る補助金を拡大する。

③ヒートポンプ等の導入促進を目的とした技術支援の拡充
 ヒートポンプ・蓄熱システムはその特性上(貯湯タンクの必要性、加熱能力の課題等)、一定の設置スペースが必要となるため、その確保が普及拡大の重大な阻害要因と位置付けられる。この課題を解決すべく、メーカー側で継続した技術開発が可能となるような経済的支援が必要である。
 また、日本の建物の断熱性能の低さから特に寒冷地においてヒートポンプ機器の選択の可能性が狭まっているという現状を打開すべく、断熱性能向上に向けた技術支援対策を講じていくことが望ましい。

(具体策)
 
ヒートポンプ機器の小型化や加熱能力・温度帯域の向上、蓄熱システムの高効率化等に向け、民間企業が今後も継続して開発を促していけるよう、技術開発支援を充実させていく。
※ 上記技術開発は、NEDO「省エネルギー・非化石エネルギー転換の重要技術2024」にも課題として位置づけられている
建物の断熱性能の低さを是正すべく、断熱材開発への費用支援を行うことで、寒冷地でのヒートポンプ機器の選択の可能性を高めていく。
※ 欧州は日本よりも断熱性能が高く、北欧でもヒートポンプが普及している
寒冷地向けヒートポンプ機器の量産化・性能向上に向けた技術支援を図り、寒冷地向け製品の機器価格低下ならびに効率向上を促していく。

④ヒートポンプ等の設置主体(開発事業者、施工業者等)への支援
 ヒートポンプ・蓄熱システムやエレクトロヒートシステムの導入検討時には、その導入主体(事業者・個人)自らが一定の知見(ヒートポンプ等自体への知識、技術者による設置検討等)を有しておくことが望ましいが、技術者不足等により検討時の導入候補に上がらないという課題が生じており、知識面の不足を補完するための支援が必要と考えられる。
 また、特に寒冷地はヒートポンプの導入割合が低く施工業者自体が不足しており、工事費の高騰や工期の長期化といった問題が顕在化していることから、施工人材の育成についても対策が必要である。
 さらに、家庭用分野(集合住宅)においては、新築時に導入された設備のエネルギー転換がほぼ行われない「ロックイン問題」が大きな課題として顕在化しており、以後の新築集合住宅にはヒートポンプの導入が基本となるような絵姿を目指していくことが望ましい。

(具体策)
 
民間団体による「省エネ診断」制度の継続・拡充を図り、中小企業等技術人材不足が生じている事業者への知識補完を行っていく。
寒冷地におけるヒートポンプ施工人材や、産業用分野におけるヒートポンプ・エレクトロヒートシステムの導入検討人材の育成に各企業が取り組めるよう、育成費補助の拡充や事業支援を行っていく。
デベロッパー等開発事業者がヒートポンプ設置住宅の建設を能動的に行えるような環境整備(啓発活動、導入支援補助等)を促していく。

⑤ヒートポンプ・蓄熱システムの柔軟性(フレキシビリティ)活用促進
 太陽光発電、風力発電等再生可能エネルギー電源の普及進展とともに再生可能エネルギーの出力抑制が全国に拡大する中、昨年12月に公表された「出力制御対策パッケージ」における家庭(低圧)部門の具体的な対策として、ヒートポンプ給湯機の導入等を通じた需要の創出・シフトが打ち出されたところである。
 一方で、消費者にヒートポンプを活用したDRを促すためには、消費者がインセンティブを実感し行動変容に繋がるような枠組みを構成することが必要であり、政府・電気事業者・メーカー等が協調して検討を進めるとともに、枠組みの構成に必要な制度支援を実施いただくことが望ましい。
 また、大規模施設等で導入される蓄熱システムについても、上述のフレキシビリティの観点に加え、蓄熱槽を非常災害時に活用できるレジリエンスの観点において重要な役割を担い、健全な社会システムの維持・構築に十分に貢献できるものと位置付けられる。

(具体策)
 
DRが対応可能となる機器開発が円滑に進むよう、電気事業者とメーカーが連携して検討を進めていく。
ヒートポンプ・蓄熱システムのフレキシビリティへの価値提供(需要家インセンティブ)を促し、消費者が行動変容に繋げていけるような市場環境を整える。
フレキシビリティ/レジリエンスの観点から、新設の大規模施設や公共施設への蓄熱槽の導入を標準化する。
新設物件へのDR対応可能な蓄熱システム等の設置に対する補助金を新設する。

⑥ヒートポンプ等の技術の特性・利点の認知度向上に向けた働きかけ
 ヒートポンプ技術について、その省エネ性能については一定程度の認知がなされているものの、再生可能エネルギーとして法律上位置づけられている環境熱を利用する技術であるという認知はほぼなされていない状況である。一般ユーザーを含めた社会全般が、ヒートポンプの特性とその導入による効果を認識いただき、ヒートポンプが優先的に選択されるような機運に繋がっていくことが望ましい。
 また、ヒートポンプ等の対応領域(産業プロセス用途、寒冷地でも対応可、等)に関する正しい情報をユーザーが適切に認知し判断できるよう、発信する情報の内容充実にも努めていく必要がある。

(具体策)
 
ヒートポンプが「再生可能エネルギー熱利用機器」であることを明確にし、省エネの促進および再生可能エネルギーの利用量拡大に資するものとして広く発信していく。
ヒートポンプ技術の特性とその導入効果(高い省エネ性能、再生可能エネルギー熱を利用する技術であること、再生可能エネルギーの利活用に資するフレキシビリティ、等)について、一般社会等へ広く広報啓発活動を行い、関係者のみならず全ての人々にヒートポンプ・蓄熱システムの認知度向上を図っていただく。
産業用分野でのヒートポンプの活用用途や寒冷地でのヒートポンプ活用、エレクトロヒートシステムの活用用途や温度帯等、導入側の認知度が低い情報についての発信を強化いただく。

【参考】ヒートポンプ機器に係るエネルギー政策上の位置づけ
 前述のとおり、ヒートポンプ機器は、化石燃料の燃焼を伴うボイラー機器よりも、省エネルギー性・CO2排出削減に優れていることに加え、大気熱という再生可能エネルギーを利用する機器であることは言うまでもないが、その仕組みや有用性については、前述のとおり社会の認知度はまだまだ低いと言わざるを得ない。
 その点、欧州に目を向けてみると、欧州では、大気熱(環境熱)を再生可能エネルギーとして明確に位置付け、各種政策検討の一助とするとともに、消費者向けへの周知、さらにはヒートポンプ普及拡大に繋がっているものと考えられる。
 特に家庭における暖房・給湯機器は、機器単体のみならず、住宅全体でのライフサイクルでロックインされる側面があり、現段階から取り組みを加速させていくことが必要と考える。次期エネルギー基本計画の策定に向けて議論が本格化する中で、2050年カーボンニュートラル達成に向けて、大気熱を再生可能エネルギーとして位置付けるとともに、需要側における取り組みの切り札として、より踏み込んだ形でヒートポンプ等の普及拡大を通じた電化の推進の実現に向けた明確な方向性が打ち出されることを期待したい。
 なお、大気熱のエネルギー統計への計上そのものが、ただちにヒートポンプ普及拡大に直結すると結論付けるには証左が不足しているものの、欧州の状況に鑑みれば、普及拡大の一助になることは疑いの余地はない。ヒートポンプ機器の普及拡大による大気熱利用の拡大が、再生可能エネルギー量の拡大につながるとともに、資源の乏しい日本において、化石エネルギー輸入への依存を減らすことにも大きく貢献しうる、すなわち将来に向けて、実質的なエネルギー自給率の向上につながるものと考える(熱量ベースで2050年度には674ペタジュールに相当する化石燃料の削減(2020年度比)が可能。これをエネルギー自給率に置き換えると6パーセントの改善(2020年度比))。
 加えて、現状、大気熱が熱としてエネルギー統計に計上されないがゆえに、建物等の熱需要が少なく見積もられる結果、我が国の熱需要の全体像が正しく把握できていないほか、各種施策の効果も見えづらい状況になっているものと考えられる。そのため、今後的確に施策を実施していくためにも、大気熱をエネルギー統計に計上することについては一考の余地があるのではないかと考えられる。無論、大気熱を再生可能エネルギーとして明確に位置付けることはより優先されるべきと考える。
 なお、国際エネルギー機関であるIEAは、2023年11月に公表した省エネレポート「Energy Efficiency2023」では、日本と同様に、ヒートポンプ機器を省エネ機器として位置づけている一方で、2024年1月に公表した再エネレポート「Renewables2023」において、ヒートポンプ機器で利用される大気熱(環境熱)を再エネ熱として位置づけるとともに、建物分野のヒートポンプによる環境熱利用の地域別推計値を公表した。つまり、IEAとしては、ヒートポンプ機器は再エネ熱利用機器であると同時に省エネ機器でもある、と位置づけていると言える。日本においても、2050年カーボンニュートラル達成・GX実現に資する技術として、ヒートポンプ機器を再エネ熱利用機器であると同時に省エネ機器としても位置づけ、普及拡大を図っていくことが肝要である。
 また、2050年カーボンニュートラル達成に向けては、これまで通り、継続した省エネルギーも重要である。省エネ法は、これまでの省エネルギーに加え、非化石エネルギーの導入拡大を図る観点で、2023年4月に法改正が実施されたところ。住宅や業務用建築物等は、建築されてから長期間運用されることから、その省エネ性能の規制が非常に重要となる。その点、建築物省エネ法においては、その省エネ基準について、従前の火力平均の値を使用した電気の一次エネルギー換算係数をもとに設定されており、非化石エネルギー利用の適切な反映を目的に全電源平均に見直した省エネ法と整合していない状況であるため、見直しに向けた議論が望まれるところである。

6.ヒートポンプ等の普及拡大に向けて必要な民間側の取り組み

 これまで述べた政策上の支援とともに、民間側も2050年カーボンニュートラル・GX達成のため、ヒートポンプ等の普及拡大に向けて取り組みを進めていくこともこれもまた不可欠である。例えば、以下のような取り組みが考えられる。

金融機関:カーボンニュートラルに資するヒートポンプ機器、蓄熱システム、エレクトロヒートシステム導入における消費者・企業への金利優遇措置を手当て
メーカー:各機器の小型化・能力(加熱能力・温度帯域)向上等に向けた継続的な技術開発や、DR対応機器の開発、ヒートポンプ機器の寒冷地向け商品のラインナップ拡充
施工業者等:各種補助金なども活用いただきながらヒートポンプ等の電化機器の積極的な採用、施工人材や技術検討人材の育成
小売電気事業者等:ヒートポンプ機器等を利用したDRについて積極的な活用や、ヒートポンプ機器等の認知度向上に向けて、需要家向けにPR活動の実施
関係団体:ヒートポンプ機器等の認知度向上に向けて、需要家向けにPR活動の実施、人材育成や技術向上に向けたセミナー等の継続的実施、政策当局への働きかけ
需要家:各種補助金なども活用いただきながらヒートポンプ等の電化機器の積極的な採用

7.おわりに(電気事業連合会としての取り組み)

 電気事業連合会としては、安定供給とエネルギー安全保障を前提に、安全性の確保を最優先とした原子力発電の利用に加え、火力発電の脱炭素化に向けた研究開発・投資等をさらに進めていくなど、電源の脱炭素化を進めていく所存である。
 一方で、需要側の対策として、これまでも電化を進めてきたところ、ヒートポンプを軸として、2050年カーボンニュートラル達成に向け電化の重要性を訴えていくことに加え、前述の一般認知度の向上に向け、広報活動等の取り組みやDR活用に向けた小売事業者への働きかけ(DRready勉強会等での議論を含む)を進めていく。取り組みにあたっては、ヒートポンプ・蓄熱センター、日本エレクトロヒートセンター、日本冷凍空調工業会をはじめとする関係諸団体、機器メーカー、住宅メーカー、小売電気事業者、送配電事業者などとも連携を図るととともに、政策当局に対しても働きかけを行っていく。
 加えて、電力システム改革の成果により、低廉な電気料金が実現された暁には、他熱源との比較で電気の優位性が増し、ヒートポンプ機器等が選択されやすい環境が整っていくと考えられる。
 また、日本が高い技術力を有するヒートポンプ技術の維持・向上は、日本の技術自給率の向上に繋がり、海外からの化石燃料輸入に依存する日本において、将来的なエネルギーセキュリティー向上に資するものである。また、将来、産業用分野において需要の増加が見込まれているところだが、そうした分野においてもヒートポンプ機器等の利用による省エネルギーは引き続き必要であり、こうしたS+3Eの方向性にも沿った形で業界としても、ヒートポンプ等の普及拡大に取り組んで参る所存である。
 現在、次期エネルギー基本計画の策定に向け議論が行われているところ、電気事業連合会としては、そうしたヒートポンプ等の普及拡大の後押しに繋がるよう、ヒートポンプ機器等の利活用の推進に係る記載を求めていくとともに、各種取り組みを進めてまいりたい。