原子力再生、「今何をなすべきか」

ー 24年原産協会年次大会から ー


経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営

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 日本原子力産業協会の日本の「第57回原産年次大会」が4月9日、10日に東京で開かれた。「今何をすべきか 国内外の新たな潮流の中で原子力への期待に応える」が、大会テーマだった。私も聴衆として参加した。日本と世界の原子力関係者が、今何を考えているか、その一端を知る機会となったので、見聞を紹介してみよう。日本にいると気づかないが原子力を活用しようという世界に広がる動きを再確認し、動かない現実へのいらだちを感じた。


大会で開幕のあいさつをする、日本原子力産業協会の三村明夫会長(同協会提供)

昨年に広がった再生への期待、今年は?

 この大会は毎春行われ、今回の参加者は、オンラインを含むと約700人だったという。私はコロナの時期以外、大会の会場に行って聞いている。海外の原子力関係者がシンポジウムに出てさまざまな情報を提供する。そして日本の顔見知りの原子力関係者にも会え、彼らの意見を聞けるからだ。原子力問題に関心を持つ人は、参加する価値が十分にあるイベントだ。

 昨年23年の年次大会のテーマは「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」だった。ウクライナ戦争、台湾有事をめぐり、安全保障の面から原子力の重要性が高まっているという意見が示された。

 22年末に岸田文雄首相が、政権の課題として「GX政策」(GX:グリーントランスフォーメーション、環境経済への転換)を示し、そこでGXを進めるために原子力の活用を打ち出した。23年2月には「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、続いて「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が同年4月に閣議決定された。

 安倍、菅政権では原子力にあいまいな態度を取り続けていたため、岸田政権が「活用」を打ち出したことに原子力関係者は喜んだ。「久々のうれしいニュース」。23年の大会で、旧知の原子力研究者と、政策転換の期待を語り合った。この時に基調講演に登壇したのは、保守派ジャーナリストの桜井よしこさんで、「安全保障の強化」を語った。1年前のこの大会は、このような未来への期待が出ていた。

「進まない現実にいらだつ前に、できることを」

 今年の大会はどうか。この研究者と大会会場で1年ぶりに会った。原子力の復活に向け「なかなか進みませんね」と、同じ感想を述べ合った。岸田政権にありがちだが、目標は示されてもなかなか形にならない。原子炉の新設、大型受注、原子力規制の改善による停止原発の再稼働の加速など、前向きの変化は見えない。一方で、日本の原子力産業のライバルである韓国、米国の原子力企業の海外での建設のニュースは届く。私は具体的動きの乏しさに、ややイライラしている。

 この研究者は「進まない現実に、いらだっても、心の健康に悪いだけです。私たちは民間の立場でできることをやるしかない。今回のテーマ『今何をなすべきか』を考え実行することを考えるべきでしょう」と、話した。

 「日本の原子力産業を復活させる」という大きなことは、すぐに実現できないことは当たり前だ。それを願うひとりひとりが、今できることを積み重ねることが、状況が動いた時に動きを加速させることを信じたい。

課題は、人材育成、バックエンド、事業環境整備

 大会の開会の挨拶で、日本原子力産業協会の三村明夫会長(元新日鉄(現日本製鉄)会長、元日本商工会議所会頭)はまず、「原子力発電の積極的な活用の機運が国内外において極めて高まっている」と強調。その上で「国内外の強い原子力推進モメンタムの中で、われわれ原子力産業界は今何をすべきなのかを考えることが必要」と、大会テーマを語った。

 セッション1では「カーボンニュートラルに向けた原子力事業環境整備」、同2では「バックエンドの課題:使用済み燃料管理・高レベル放射性廃棄物最終処分をめぐって」、3では「福島第一廃炉進捗と復興状況」、同セッション4では「原子力業界の人材基盤強化に向けて」がテーマ。いずれも、今の原子力産業が、すぐに対応しなければならない問題だ。

 来賓挨拶をした岩田和親・経済産業副大臣は、「福島第一原子力発電所事故の反省を一時も忘れることなく、高い緊張感を持って、安全最優先で万全の対策を行うことが大前提」と、日本の原子力政策を繰り返した。「サプライチェーン・人材を含めた原子力産業を支える事業環境は年々危機的な状況になりつつある」と懸念を述べ、政府がサポートをすると述べた。原発再稼働で儲かる状況を作れば大きく改善するが、経産省は積極的に動かない。それに私は不満があるものの、危機感と問題意識は共有している。

脱炭素、電力需要の増加という世界潮流に応える

 そして世界原子力発電事業者協会(WANO)の千種直樹CEO、元米国エネルギー省(DOE)副長官のダニエル・ポネマン氏(ビデオメッセージ)が講演。WANOのメンバーとなる発電所は現在、世界で運転中460基、建設中60基に上るという。「技術革新で安全性は高まっている」と強調した。

 ポネマン氏は、「世界のエネルギー業界ではますます原子力の拡大が必要」と予想した。電気自動車の普及、運輸部門の脱炭素化、データセンターやAIの普及で、全世界でエネルギー需要が増えている。「原子力発電所の新設でも賄いきれない、遥かに速いスピードで進む爆発的勢いだ」と懸念さえ述べた。「すべての人の意見が一致することはできないが、こうした深刻な懸念にも立ち向かわねばならない。そのために原子力産業は今後、大きく成長できる」と述べた。

 こうした国際情勢の変化の中で、日本の原子力・エネルギー産業は大きな役割を果たせる可能性がある。進まない目先の物事にイライラする前に、「今できる」準備をすれば、いつか大きな成果が戻ってくると信じたい。