民間有志、「第7次エネ基」のあるべき姿を提言

ー 自由な議論のきっかけに ー


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提案書の表紙

杉山大志らが政策を提言

 エネルギー問題の研究者である杉山大志氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)ら民間人有志が2月24日に「エネルギードミナンス:強く豊かな日本のためのエネルギー政策(非政府の有志による第 7次エネルギー基本計画)」を発表した(報告書全文、150ページ、ホームページ)。

 参考にするべき内容と私は思う。今年はエネルギー基本計画の年内の見直しが予定されている。今回は第7次計画になる。それをめぐる議論の深まりに役立ててほしい。

 日本の政策決定の問題は、政府が計画や提言、社会コンセプトづくりを主導し、民間や政党から対案が出ないこと、また出たとしても現実性のあるものが少ないことだ。エネルギー問題でも、原発や再エネの賛成と反対という単純な議論ばかりが繰り返され、議論が深まらない。専門家からの新しい、建設的な提言は参考になるだろう。

国際情勢はエネルギー安全保障強化へ

 この提言ではエネルギー政策として、「エネルギードミナンス(優勢)」を提唱した。日本語で作った概念にしてもよかっただろう。

 「エネルギードミナンス」とは、米国共和党で用いられている考えだ。豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給することを指す。この提言でも、それによって日本が経済発展をし、防衛力を高め、自由、民主といった普遍的価値を守り発展させることを目標にする。

 エネ基は18年7月に第5次、20年10月に第6次の改訂が行われている。2020年以降、エネルギーをめぐる世界の状況は変わった。

 2022年2月にウクライナ戦争が勃発し、中東、台湾などでも、緊張が高まる。エネルギー供給国のロシアが紛争の当事者になり、世界各国はエネルギーの安全保障の強化に舵を切っている。脱炭素は今も各国の政策の中心だが、それが第一の目標ではなくなっている。原子力導入についても東欧を中心に多くの国が検討を始めた。

 今年24年11月に行われる米大統領選挙では、トランプ前大統領が共和党の候補になった。彼はエネルギーでは共和党の方針通りの政策を行い、化石燃料を中心にした米国の国内資源を活用して「エネルギードミナンス」を追求しそうだ。日本のエネルギー政策も、それに影響を受けそうだ。

 岸田政権もGX(グリーントランスフォーメーション)や原子力の再評価を打ち出しているが、もう一歩、経済安全保障、原子力復活を求められる状況になるかもしれない。

「エネルギードミナンス」を実現する11の提案

 この提言ではエネルギードミナンスを確立するために、以下の11項目を掲げている。これは前述した世界の環境変化に対応したものだ。

1.
光熱費を低減する。電気料金は東日本大震災前の水準を数値目標とする。エネルギーへの税や賦課金等は撤廃ないし削減する。
2.
原子力を最大限活用する。全電源に占める比率50%を長期的な数値目標とする。
3.
化石燃料の安定利用をCO2規制で阻害しない。
4.
太陽光発電の大量導入を停止する。
5.
拙速なEV推進により日本の自動車産業振興を妨げない。
6.
再エネなどの化石燃料代替技術は、性急な導入拡大をせず、コスト低減を優先する。
7.
過剰な省エネ規制を廃止する。
8.
電気事業制度を垂直統合型に戻す。
9.
エネルギーの備蓄およびインフラ防衛を強化する。
10.
CO2排出総量の目標を置かず、部門別の排出量の割当てをしない。
11.
パリ協定を代替するエネルギードミナンス協定を構築する。

 これらの提言を私は正論と思う。

混乱したこの10年のエネルギー政策

 この10年のエネルギー・電力政策は、政府・経産省が民意からの批判を避けるためか、迷走した面があったと思う。原子力の過剰規制、火力発電への締め付け、再エネ過剰振興、電力自由化など、おかしな政策をしてしまった。

 電力市場の完全自由化で消費者の選択は増えたかもしれない。しかしそのメリットを消してしまうほどの問題が出た。価格の抑制、安定供給、エネルギー安全保障という国民生活に関わる3つの点では、最近の電力の供給体制はおかしくなった。ここ数年、燃料費の調整はあるものの電気料金は上がり気味で、安定供給も怪しい。エネルギードミナンスの目指す「豊富で、安定し、安価なエネルギーを供給する」という目標から真逆の状況が起きている。これは日本の政策が影響している。

 成功だったと弁解しているのは、経産省の役人だけで、政治家でさえ修正を公言するようになった。エネルギー業界も、特に電力は、原子力事故の悪影響で沈黙してしまった。

日本のエリートには「計画の柔軟性」がない

 かつて、東京電力福島第一原発の事故処理で、安全対策工事を取材したことがある。2014年ごろのことだ。当時の東電は、原発世論の凄まじい批判のためか、外の目を大変気にしていた。そして、外国人の専門家を呼んでアドバイザーにした。私は取材で彼らのその話を聞いた。

 そこで彼らは揃って「東電は頑張って安全な現場を作っているし、適切な計画だが、プランBがない。柔軟性をもっと考えるべきだ」と指摘した。「プランB」とはこの文脈ではうまくいかなかった時の代替策のことだ。

 実は私も東電の工事に同じ危惧を抱いた。「期日・・までに○○をする」という単線の計画表が出されていた。うまくいかなくなったらどうするのかと聞くと、「頑張ります」としか答えない。素人の私が心配になったのだから、専門家たちが懸念するのは当然だろう。その後、いくつかうまくいかなかった取り組みがあり、東電は期日を曖昧にしたプランにしている。

 東電だけではない。政府のこの10年のエネルギー自由化も似た問題があった。経産省は2012年に、2022年までのエネルギー自由化の工程表を作り、問題を検証することなく、無理に自由化を進めた。途中で問題の検証さえせずに、問題を先送りしてしまった。

 民間の提案力の低さが、「もしうまくいかなかったらどうするか」などの、多様な議論を妨げている。なんでも反対の政治勢力がいて、失敗したら強い批判をする。日本の政策では、批判を恐れ、失敗を考えることさえやめてしまう。計画の柔軟性がないのだ。

 民間からの提案がエネルギー政策で必要であったところに、この意見が出たのはありがたい。電力自由化、再エネの発電設備の大量建設など、現実が動いてしまい上記提案には時間の針を戻すことは困難な問題もある。ただ上記の11項目は、今の日本のエネルギー問題で、必ず考えなければいけない重要な論点だ

 この他にも、さまざまな立場の人からの建設的な提案で、深い議論によって、混乱気味の日本のエネルギー政策の問題を是正してほしい。