EU内で多数派になった原子力推進国


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2023年7月11日号)

 脱ロシア産化石燃料と同時に脱炭素を図る欧州委員会は、2030年までの再エネ目標比率を42.5%とし、洋上風力と太陽光を中心に増設に邁進している。例えば、太陽光設備の具体的な目標数字は6億キロワットだ。広島で開催されたG7の首脳声明で触れられた再エネ導入目標の基になったのは、この欧州の数字だろう。

 風量と日照に恵まれた地域を域内に持つ欧州といえども、再エネだけで安定供給を図るのは難しい。脱炭素下での安定供給となれば、選択肢は原子力だ。今年2月にはフランスを中心としたEU内の11カ国が集まり、原子力同盟を発足させた。5月の会合には新たにベルギー、スウェーデン、エストニアが加わり、オブザーバとして参加したイタリアを加えるとEU内参加国は15カ国に増えた。

 EU27カ国内で原子力推進国が多数派になったのは、それだけ強権国家への依存に危機感を持つ国民が増えてきたということだろう。1987年の国民投票の結果、90年に脱原発に踏み切ったイタリアも原発導入に方針を変えた。その背景にあるのは世論だ。イタリアでの世論調査では、原子力の利用を行うべき49%、行うべきでない39%(わからない12%)となった。
    
 欧州内で原子力反対が最も多いのはオーストリア。反対が47%を占める同国は、原子力推進国の広がりに危機感を覚えたのか、3月に再エネ友好同盟を結成し、11カ国が参加した。ベルギー、オランダなどは原子力、再エネ両方の同盟に名を連ねている。

 6月に開催された再エネ友好同盟の会議にフランスが参加を申し入れたところ、オーストリアが拒否したと報道された。フランス政府は、再エネ比率ではドイツを上回っているので参加資格はあると主張したが、次回以降の会議には参加を認めるとのオーストリアの対応だったと報じられた。

 脱ロシア、脱炭素実現には、再エネだけでも原子力だけでも難しい。対立を作り出す必要はどこにもないように思われるが、脱ロシア、脱炭素を実現する必要性を感じていない国もあるのだろうか。