アンモニア混焼発電への期待―電力、重電、世界の視点から


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アンモニア混焼発電が行われているJERAの碧南火力発電所(Wikipediaより)

期待集まる日本独自技術

 アンモニア混焼発電は、脱炭素のための新たな発電技術として期待される。日本独自のもので、官民が一体となって開発を試みている。

 その可能性は、国際環境経済研究所主任研究員の塩沢文朗氏が、詳細にここで論じている。適切な見解であるし、私も期待する(塩沢氏記事「CO2フリー燃料、水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの可能性(その1)」)。

 それに付け加える形で、記者としてこのアンモニアエネルギーをめぐる「社会の受け止め方」を論じて、問題を多角的に見る視点を組み入れてみたい。

 アンモニアのエネルギー利用について、欧米諸国の反応は今ひとつ。ところが、電力会社からは「それでもいい」との声が聞こえる。「石炭火力の延命策」とみなしているからだ。

G7諸国は「意図的に」無関心

 今年2023年の4月に札幌で行われたG7エネルギー環境大臣会合で、経産省とメーカーは、水素・アンモニア混焼の大規模な展示ブースを作った。ところがG7諸国の政府関係者、大臣に同行したいくつかの企業やメディアは、そこを訪問しなかった。招待国のいくつかの国の関係者と、日本企業の担当者が訪問しただけだ。

 「経産省の某高官が人の入りを確認するためか、何度も見にきていた。各国の関心の少なさにがっかりしたかもしれない」と、電力の技術系幹部が、気の毒そうに感想を述べていた。

 各国の無視は意図的なもののようだ。「私たち電力の考えでは、アンモニア利用の裏の目的は、石炭火力の延命にある。だから私たち電力は協力するが、事情を知る欧米諸国は国も企業も無視したのだろう。技術の覇権争いの面もあるだろう。またエネルギー効率の悪さも一因だろう」(同幹部)という。

 ここ数年のサミット、そしてCOP(気候変動条約締約国会議)の主要議題は、化石燃料、特に石炭火力発電の廃止の是非だ。石炭火力は、気候変動問題で悪者にされている。しかし日本は無資源国であり、現在は原子力の運用が見通せない。そのため石炭火力の廃止に消極的だ。

 他国からの外交攻勢に対抗するために、日本政府は水素・アンモニアを石炭火力と混焼し、それによって発電での二酸化炭素削減を行う方針を掲げている。それが「石炭の延命策」という意味だ。

 その意図を、各国政府は当然承知している。そのために反応しないのだろう。米国のケリー気候変動問題担当大統領特使はG7の会合で「まず石炭火力の縮小、廃止だ」と、アンモニア混焼に関心を示さなかった。この大臣会合でも、サミットの首脳宣言でも、水素は文言として盛り込まれたが、アンモニアは言及されなかった。

経産省は効果を強調、CO2は削減

 日本政府はアンモニア発電の効果を強く主張する。経産省は、日本の石炭火力発電を「アンモニア専焼」の火力発電に置き換えた場合、電力部門からの二酸化炭素排出量は現状の5割まで削減できるとする。「20%混焼」の場合でも、同排出量の1割削減が可能としている。これが事実とすれば、それを活用した場合に、石炭火力の存続のための重要な論拠になろう。

 ただし、欧州の環境シンクタンクは、アンモニアの発電利用を揃って批判する。その温室効果ガスの削減効果が限定的であること、またコストが高くなってしまうことを指摘している。経産省の主張は楽観的すぎるかもしれない(海外の動きを紹介した第一生命経済研究所リポート「アンモニア混焼を巡る日本と欧米の温度差~「日本流脱炭素」はグローバルスタンダードとなりうるか」)。

 電力会社と経産省、産業界はここ数年、火力発電の未来像を審議会、研究会を使って探ってきた。そこでアンモニアを原料にする発電が注目された。「アンモニアの活用は、火力関係者全体で石炭存続策の知恵を絞った結果出てきたものだ。これを試そうという機運は高まっている」(同)。

 経産省は2021年に決めた第6時エネルギー基本計画で、2030年に発電の1%を水素・アンモニアにするとした。さらに岸田政権の中心の経済政策GX(グリーン・トランスフォーメーション)では水素と共に官民協力の重点政策の一つにした。

図1 第6次エネルギー基本計画の電源構成(経産省資料より)

LNGへの応用、輸出も視野

 JERAはアンモニア発電で国や各電力会社の支援を受けて、2021年度から4年間JERA碧南火力発電所での20%混焼を実証中だ。そこでは、大きな問題は起きていない。この技術は2030年頃の実用化が見込まれている。また経産省は、アンモニアの混焼を船舶燃料とLNG発電でも行う予定だ。

 欧米には無視をされたが、石炭火力が主力である中進国は、アンモニアの活用に関心を示す。日本政府はアンモニア利用の国際シンポジウムを2021年10月に開催した。そこでマレーシアなどアジア各国のエネルギー大臣にウェブで参加してもらった。そして協力するとの意向を引き出した。将来は輸出ができる可能性がある。

 そのために、三菱重工、 IHIは、アンモニア発電を、会社の新規ビジネスとする考えを打ち出している。

 また水素より、アンモニアは活用が楽だ。運搬の際には、水素はマイナス235度、そして高圧にする必要がある。アンモニアは、マイナス33度で液化し、圧力も少し加えるだけで良い。実際に火力に気化して混焼する場合にも、「既存設備の改造はアンモニアの方が楽」(同)と言う。

課題はコストか?まだ見通せず

 ただし、現在のアンモニア合成技術であるハーバー・ボッシュ法では大量のエネルギーの消費が必要で、コストがかかる。2021年8月に発表された「総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ」での石炭火力の発電コストの試算は、1キロワットあたり13.6円。「試算では石炭火力のランニングコストを大きく上回る可能性がある」(同)。そのために商業化には、アンモニア製造の技術改善など、コスト引き下げの対策が必要のようだ。

 あるエネルギーアナリストも「エネルギー効率が良くない。経産省などは海外から水素、アンモニアを輸入することを検討しているようだが、輸送費がコストアップ要因で、どう考えてもコスト面で無理が出てくる」と指摘していた。

カードとして、可能性を探るべき技術

 アンモニアの発電への活用は、「日本の独自技術」であることは確かだが、経産省の言うほど劇的に日本の発電を変え、大きなビジネスとなる技術ではなさそうだ。しかし、電力業界にとっては石炭火力発電の延命、メーカーにとっては石炭火力プラントの輸出につながるかもしれない。「原子力を作り維持することには大変で無理だが、電力はほしい」という国々に対しての輸出だ。

 私は可能性がある技術カードとして、大切に育てる価値はあると思う。読者の皆さんの考えはどうだろうか。