新しい日本発の電気自動車、EVトゥクトゥク
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
東南アジアを中心に使われる「トゥクトゥク」と呼ばれる3輪バイク。これをEV(電動車)にした「EVトゥクトゥク」が日本で売り出されている。これに試乗した。「快適」「軽快」「安全」「静か」。印象を言葉にすると、こんな単語が浮かんだ。G X(グリーントランスフォーメーション)が注目されてEVへの関心が高まる中で、日本発の新しい移動手段になるかもしれない。
既存の車の「良いところどり」
「静かで動かしやすい」。EVトゥクトゥクを乗った時にまず抱いた感想だ。内燃機関を持った車やバイクでないため、音はなく振動も少ない。排気ガス、振動、騒音が激しい、東南アジアのトゥクトゥクとは、形以外は全く違う乗り物だ。
操縦はバイクのようなバーハンドルで行うが、左右に曲がるとき車体が左右に傾かない。ハンドルを切る感触は、バイクでも自動車でもない。小回りもよく効く。乗車の際にはヘルメットはいらない。トゥクトゥクに乗った時にエンジンから生じる激しい振動や、排気ガスはない。近距離の移動、街乗りでは使いやすい移動手段であると思った。
この本体サイズは、99.5×102×201センチ(幅・高さ・長さ)で小型のボックスカーを一回り小さくした印象だ。重量は212キロだが、加速も減速もスムーズに行える。バイクと違って屋根があり正面にはフロントグラスがあるため、雨風をある程度防げる。横にドアがないため、オープンカーのようで、走ると風が心地良い。最高速度は時速40キロで、スクーター程度だ。
航続距離は1回のフル充電で80キロ程度、バッテリーを2個搭載すれば150キロも走れ、かなり遠くまで往復できる。
足による操作がないため、乗車姿勢はかなり自由だ。乗車の気分はバイク、スクーターや軽自動車よりもEVと同じ感覚だ。後ろには座席があり、荷物運びや運転手を含め大人3人の乗車が可能だ。ブレーキは、スクーターのようなレバー操作だが効きは良かった。EV、バイク、自動車の「いいところどり」をしたような印象だ。ただし、自動車やバイクの内燃機関の匂い、振動、音が好きな人には、この車に物足りなさを感じてしまうかもしれない。
私が試乗したのは今年はじめ。その後に5月から「ETT-NEO」という新型も売り出す。原動機をこれまでの1,000ワットから2,000wにした一方で、10キログラムほど車体を軽くした。
安いランニングコスト
EVトゥクトゥクの費用はどうだろうか。電気は、家庭用100V電源から充電できる。充電時間は電気容量ゼロからフル充電まで約5時間程度で、夜に充電すれば良い。電気代もフル充電1回平均100円程度で、財布にも環境にもやさしい。本体価格は税込み77万円だが、ナンバープレート取得代行や自賠責保険の加入手続などの「納車パック」に11万円かかる。
これは法律の上では「側車付軽二輪」という扱いになる。側車とはバイクのサイドカーのことで、税制上は軽二輪の扱いだ。軽自動車税は3,600円で毎年必要だが、車検が無く重量税(4,900円)は納車時の一度だけだ。ランニングコストは、自動車よりもはるかに安くなる。駐車はバイクの駐車スペースがあればよく、車検や車庫証明も不要だ。経費的には、自動車などの他の移動手段と比較して、かなり手頃だ。
「ETT-NEO」は、税などは一緒で、本体価格が税込み88万円と少し高くなる。
これまで約800台を販売
EVトゥクトゥクは、ビークルファン(東京)社が、中国のメーカーと共同して開発し、2019年から売り出した。同社の松原達郎社長は、電動キックボードを日本で初めて輸入して広めた人だ。中国のバイク(自動二輪、スクーターも含む)は、電動が大半を占めるが、その中に3輪もある。それとトゥクトゥクを組み合わせたらどうかというアイデアを持ち、中国メーカーと一緒に開発した。現在800台ほどを販売した。
販売代理店の日本環境防災(東京)の本郷安史社長は、EVの充電器の設置や広報活動に関わってきた。これを自分でも購入し、買い物など近場の移動で「自転車のようにサンダル代わりに気軽に使っています」という。
街乗り向けの個人の利用に加えて、宅配や訪問介護、また工場内での移動などに使うための企業の購入、また交通の脱炭素化のために行政機関の購入も増えている。23年春に行われた統一地方選挙でも、その環境配慮のイメージと運転のしやすさを利用して、立候補者がレンタルで何人も使用を申し込んだ。また一部の自治体で、行政機関が、職員の近距離の移動に購入しているという。
観光業で注目される
そして今、本郷さんらは観光への活用の提案を続けている。そして自治体、観光事業者、宿泊施設の購入があり反応も良い。コロナ流行の後の観光客回復に合わせた新しいサービスとして注目している。
駅前やバス停で到着した観光客に、これを貸し出して移動してもらうように勧める観光地が多いという。排気ガスがなく、騒音もないので、観光地の環境を傷つけずに、訪れた観光客が近距離を楽しく、快適に移動できる。
「環境にやさしい車としてマイクロEVはこれから大きく成長するでしょう。ただし、多くのお客様に受け入れられるためには、使い心地の気持ちよさ、便利がないと広がらないはずです。EVトゥクトゥクはそれらを備えた商品であると思います」と、本郷さんは期待する。
移動手段の脱炭素化は、GXでの大きな課題だ。世界がE Vシフトを始めつつある。その中で日中合作の中堅企業が挑戦するEVトゥクトゥクは、ユニークな役割を占めるかもしれない。