マイクロソフトは核融合電力を購入できるのか 


元慶應義塾大教授、1990年代から国の核融合関連委員会にも関与

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 日本経済新聞のニュース(2023年5月11日)によれば、マイクロソフト社は核融合発電の米スタートアップ企業ヘリオン・エナジーと2028年からの電力購入契約を締結したとのこと。
 2028年といえば、今から5年後だ。核融合研究者の常識からすれば、「そんなことはできるはずがない」となるところだろう。しかし、今回は、もし、核融合の電力を買ってくれるという人がいたなら、何ができるだろう、というポジティブな視点で意見を述べよう。

 核融合プラズマには、高温にするために、外部から高周波や粒子ビームによる大きな加熱入力を入れる。この入力分は、プラズマからの熱出力として必ず外に出てくる。だから、1万キロワットのパワーを入れれば、核融合反応が全く起こらなくても、熱出力1万キロワットは最低でも出てくる。
 核融合研究の分野では、この状態を核融合ゲイン”Q”が1とは言わない。Qの定義は、「核融合出力」と「加熱入力」の比だから、加熱で入れた分しか出てこなければ、Q=0である。核融合での熱と合わせて2万キロワットが出て、ようやくQ=1となる。オーディオアンプなどのゲインでは、1ボルト入れて1ボルトが出ればゲイン=1なので、それと混同すると紛らわしい。
 さて、核融合を起こす燃料のプラズマに大きな加熱パワーを入れて1億度に近いかそれ以上の高温にできれば、仮にQは1以下でも、大なり小なり核融合は起きる。これはすでに実現できていることだ。
 例えば、加熱入力は1万キロワット、核融合で出るパワーの割合が加熱入力の5%だったとすれば、熱出力は1万500キロワットである。この熱出力を使って発電するときの発電効率が1/3とすると、発電機の電気出力は3500キロワットで、その5%の175キロワット分は核融合で発電した電気と言える。もし、その核融合分の電気を買ってくれる人がいるなら、売ることはできる。2028年に核融合電力の売買が実現できるとしたら、このようなことしか筆者には思いつかない。

 ところで、日欧米露中韓印の国際協力で建設中の核融合実験炉ITERは、2035年頃に、50万キロワットの核融合出力を核融合ゲインQ=10で達成することを予定している。公式な計画ではITERは発電実験をしないが、発電用の高温蒸気等を作る実験までは行う。日本では「その高温蒸気で発電して見せるべき」という意見もあるから、少なくとも日本が担当する分については発電してくれるかもしれない。その電力の一部をEVに充電して日本に持ち帰るなどはどうだろうか。技術開発の成果を具体的に国民に見せるのは重要なことだ。