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核融合炉の廃棄物の放射能は速やかに減衰する


元慶應義塾大教授、1990年代から国の核融合関連委員会にも関与


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 核融合炉からも放射性廃棄物は出る。しかし、発電所の敷地内で管理することで放射能は短い時間で減衰し、廃棄物を減らすことができる。

 ウランなどの核分裂反応では、核分裂でできる元素そのものに、高レベルや長寿命の放射性元素が含まれる。これは核分裂反応の宿命である。

 これに対して核融合では、反応で直接発生するのはヘリウムと中性子のみである。この中性子は、できるだけリチウムに吸収させて燃料である三重水素を増殖するのに使う。だがこのとき、中性子がリチウムに吸収される前に周辺の材料に吸収されると、放射性元素になることがある。すなわち、「周辺の材料が何か」によって、発生する放射性元素の種類も、その量も変わる。それゆえ、核融合による放射性廃棄物を減らすため、工夫を凝らすことになる。

 前回の記事「核融合を実現する材料のメドはもう立っている」で紹介した核融合用の材料である低放射化フェライト鋼は、放射性廃棄物を減らすことができる材料である。

廃棄物の放射能は100年で減衰する

 核融合からは核分裂で言うところの使用済核燃料からの「高レベル廃棄物」に分類されるような廃棄物は出ない。ただし、電子線(ベータ線)や電磁波(ガンマ線)を出す放射性廃棄物(「高ベータ・ガンマ廃棄物」と呼ばれる)は、低放射化フェライト鋼を使用した場合でも発生する。

 ただし、その放射能は速やかに減衰する。どんな放射能も時間と共に減少するが、この場合は特に速い。図1は、核融合炉から出る放射性廃棄物の人体への毒性が、どのように減衰していくかを示した図だ。核融合炉からの廃棄物の毒性は100年で100万分の1に減衰する。


図1 核融合炉からの廃棄物の放射能による毒性は100年で100万分の1に減衰する。

 これに対して核分裂反応による原子力発電からの廃棄物の毒性は、発生初期で核融合より数百倍高い上に、そこから数百分の1になるのに100年、数千分の1になるには1万年かかるから、減衰を待つならば、1万年以上の期間が必要という計算になる。これに比べれば、核融合廃棄物の減衰は非常に早い。

 それでも「100年も待つのか」と思われるかもしれない。それはもっともではある。残念だが100年は待たねばならない。しかし、人類はさまざまなものを100年程度は管理している。古いビルやダムなどは、100年以上使用され続けてきた。

100年後の廃棄物の量は

 次に100年待ったあとの放射性廃棄物の量を見てみよう。

 中性子線の強さは、遮蔽物の厚さが10cm増すごとに一桁ずつ減っていく。簡単に言えば、たった10cm厚みを増やすだけで、その外側の廃棄物の放射化は1/10になるわけだ。核融合炉は、このことを利用して、なるべく放射性廃棄物の量を減らすように設計する。

 図2は、核融合炉の廃炉から100年待った時の廃棄物の放射性レベル別の物量である。

 廃棄物の放射性レベルには「基準限界値」があって、それ以下であれば、本来は放射性廃棄物として扱わなくてよい。しかし、現実の運用では、核施設から出てきた廃棄物は、放射能があってもなくても、「低レベルの放射性廃棄物」として扱うのが慣習である。

 そこで仮にその慣習にそって、基準限界値以下の材料が一般廃棄物としては捨てられないとしよう。それでも、核融合炉の材料としてならば、再使用することができる。

 このような運用であれば、図2に示した基準限界値以下の廃棄物2万3000トンは核融合材料に再利用することで、処分すべき放射性廃棄物は、低レベル廃棄物が1000トン程度、高ベータ・ガンマ廃棄物が4500トン程度となる。


図2 核融合炉からのレベル別放射性廃棄物量(熱出力160万キロワット、廃炉から100年後)

 この廃棄物量を、核分裂による軽水炉と比較してみよう。同規模の出力がある軽水炉では、低レベル廃棄物は1000~2000トン程度、高ベータ・ガンマ廃棄物はわずかに100~200トン程度とされる。すなわち、低レベル廃棄物は核融合と軽水炉は同程度ながら、高ベータ・ガンマ廃棄物は、核融合炉の方が非常に多い。これは、炉が大きくならざるを得ないという核融合炉の弱点だ。

 ただし、軽水炉では、100万キロワットの場合で年間20トンの使用済み核燃料が発生し、それが処分費用が高額な高レベル廃棄物となる。これが無いことは核融合の強みであり、放射性廃棄物の総処分費用は、核融合は軽水炉に比べて10分の1以下になる。なお、核融合との比較がなされているわけではないが、参考までに、軽水炉の「核燃料サイクル費用」は1キロワットアワーあたり1.7円と試算されている(経産省資料p95)

 ところで、実験炉ITERは、材料への中性子照射量が実用炉より一桁以上低い。そのためITERは普通のステンレス鋼で作ることができることは、前回の記事「核融合を実現する材料のメドはもう立っている」でも紹介した。しかし、普通のステンレス鋼は低放射化フェライト鋼よりも放射化されやすいため、中性子照射量は実用炉より一桁以上も少ないにも関わらず、ITERの放射性廃棄物は、上記の実用炉と同程度発生する可能性がある。ただし、ITERはあくまでも1度きりの実験のためのものである。

 そしてITERについても、2035年頃に基礎実験段階の目標「エネルギー増倍率10」を達成した後、その後の工学実験段階に備えて、内部の構造物(ブランケット等)をすべて入れ替える計画になっている。あくまで私見であるが、その時に、原型炉に使うはずの低放射化フェライト鋼や他の先進材料に交換することで、廃棄物量をもっと減らせると考えている。

 核融合からも放射性廃棄物は出るが、高レベル廃棄物が出ないという利点があるので、廃棄物の処理費用は、軽水炉に比べれば格段に少なくなる。のみならず、今後もさらに改善する余地がある。材料の改良や、運用中にブランケットを新型に交換をするなどの方法があり、検討が続いている。