米国共和党はなぜ気候危機説と脱炭素を否定するのか


キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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 米国は共和党と民主党で真っ二つだ。バイデン政権率いる民主党は気候危機説を唱え脱炭素に熱心だが、共和党は全く違う。「人類が絶滅する」といった気候危機説など信じていないし、経済や安全保障を犠牲にして極端な脱炭素をすることには反対している。

 共和党寄りの情報は、日本にとっても貴重な情報なので、どこにどのようなものがあるのか、以下に紹介しよう。

1.米国メディアの見取り図

 米国はメディアも民主党と共和党で真っ二つである。このことは調査機関のアンケート結果にもはっきり出ている。民主党寄りなのはCNNやニューヨークタイムスなどだ。

 共和党寄りなのはフォックスニュース、ブライトバート、ウォールストリートジャーナルなどである。

 共和党の人々は、CNNやニューヨークタイムズなどに民主党寄りのメディアを信頼しない。民主党は逆にフォックスニュースやブライトバートなどの共和党寄りメディアを信頼しない。

 ウォールストリートジャーナルは共和党寄りであるが、わりと民主党からも支持されている。

 日本の大手メディアは、たいてい、民主党寄りのメディアの情報を無批判に受けて垂れ流している。だからアメリカの半分の情報しか入ってこない。

 「アメリカの世論」のもう半分を知るためには、共和党寄りのメディアを見なくてはいけない。

 以下、本稿で紹介する記事は、殆どが上記の3つの共和党寄りのメディアからのものだ。

2.政治家

 トランプが気候変動問題自体をでっち上げ(hoax)と呼んでいたことは日本でもよく知られている。だが日本では、トランプだけが変人なのだといった調子で報道されてきた。だがこれは事実と違う。

 トランプほど極端ではないが、共和党の重鎮は、極端な気候危機説や脱炭素には同意しない。以下に発言を見てみよう。

デサンティスフロリダ州知事

 共和党ではトランプに次ぐ人気を誇る2024年大統領選の共和党の大統領候補である。前回書いたように、以下の強烈な発言がある:

ESGは米国の存立基盤である経済と自由を損なう。ESGはフロリダでは生まれることは無い(dead on arrival)

マルコ・ルビオ上院議員

 2020年にはトランプと大統領候補指名を争った実力者。米国の石油・ガス産業を衰退させることでロシアが利益を得ていることを指してフォックスニュースで発言している

愚かなグリーンディール(silly green deal)を止めろ

 日本で「愚かな脱炭素」と公言する国会議員は聞いたことがない。

マイク・ポンペオ元国務長官

 バイデン政権の下で民主党が進める化石燃料産業への抑圧を批判して、ロシアや中国に対抗してアメリカが国力を高め、また同盟国・友好国にエネルギーを供給するためには、化石燃料を含めてエネルギー供給の増大が必要だとしている。フォックスニュースが報じている

アメリカにはエネルギー・ドミナンス(energy dominance)が必要だ

 このエネルギー・ドミナンス(優勢)はキーワードとして共和党はよく使う。エネルギー自給とか自立といったこじんまりした話ではなく、敵を物量で圧倒しろ、と言っているところが米国的だ。

ジョー・マンチン上院議員

 民主党に属しながらしばしば造反して、共和党と共に投票し、民主党の提出法案を潰してしまうのがこのジョー・マンチン議員である。石炭やガスを産出するウェストバージニア州選出の議員だ。

 バイデン政権が提出したビルド・バック・ベター法案を葬り去ってインフレ抑制法に換骨奪胎してしまったのは、ほぼこのマンチン1人の力だった。前回書いたように、「労働省がESGに配慮する」という規則についても、民主党から造反して、共和党と共に潰してしまう決議を通してしまった(ただしこれは大統領が拒否権を発動したので無効になったが)。

 そのマンチンが、ウクライナでの戦争が始まったすぐ後に、ロシアからの石油輸入の禁止に加えて、以下の発言をブライトバート記事でしている(紹介記事)。

空前のエネルギー増産が必要だ

 具体的には、石油・ガスの増産を可能にするように、バイデン政権は採掘の許可を進めるべきだとしていた。

3.研究者

 米国共和党で政治家が上記のような認識になっている背景には、彼らが接している専門的な情報がある。

 米国では議会で公聴会が頻繁に行われており、そこでは、共和党も専門家を読んで意見を聞いている。その際に、気候危機説に偏った意見を聞くのではなく、データに基づいた冷静な情報提供を受けている

 そのような公聴会の常連から、例えば最近は以下のような記事があった。

ロジャー・ピールキー・ジュニア

 防災の専門家である。自然災害の激甚化などは起きておらず、IPCCは科学に基づかずいたずらに政策を提言するだけの機関になり下ったと指摘している。

マイケル・シャレンバーガー

 「国連こそは気候に関する “偽情報発信の脅威がある行為者”である――国連や米国政府が偽情報の検閲に熱心なら、なぜ彼ら自身が偽情報を拡散しているのだろうか?」という記事を書いて、国連事務総長や主要メディアが自然災害を悉く気候変動のせいだと断定するのは「偽情報」であるのに、それを野放しのままにして、それに疑いをかける正当な行為を偽情報扱いするのは完全におかしいと指摘している。

リチャード・リンゼン

 気候科学の第一人者。簡潔でバランスのとれた記事ブライトバート)で動画を紹介しているのでぜひご覧頂きたい。“気候危機の扇動者は、人々の無知を利用して恐怖を助長し、それを利用している。・・多くの科学者は、確かに温暖化はしている、と言っている。そして、懸念すべき問題がある、と付け加えているかもしれない。だが私が知る限りでは、「これが人類存亡の危機に関わるものだ」とまで言う人は少数派だ。仮に先進諸国(欧米など)が全ての産業活動を止めてCO2を発生させないようにしても、気候への影響はごくわずかである。・・私は気候変動が存亡の危機だなどとは思っていないが、もしもそう信じているなら、できることは、災害への強靭性を高めることだ。そのためには経済的に豊かになることだ。いま温暖化対策の為に経済を痛めつけその真逆をやっている・・」

 このリンゼンのインタビューは「気候危機説」を信奉しない科学者集団の見解を見事に要約している。地球温暖化が起きていることや、CO2が一定の温暖化を起こすことを否定するような安っぽい否定論ではない。気候変動による災害の激甚化など起きていないし人類存亡の危機など起きる気配もない、先進国が一方的にCO2を減らすことには意味がない、途上国もそうするとは思えない、といったことだ。

4.メディア

タッカー・カールソン

 フォックス・ニュースの名物キャスターであるタッカー・カールソンが気候危機説を真向から批判している(「これのどこが科学なのか?」、「これは全く不条理だ」)。

 カールソンは、完全な偽情報と言ってよいような極端な気候危機説が、完全に外れていたことを指摘している。また「あとX年以内に行動しないと破滅する」という警句も、昔から繰り返されてきたことだ、と笑い飛ばしている。

 カールソンは語りが面白い。この番組は民主党系メディアが流す「気候危機説」に対してウンザリしている共和党寄りの人々の「気分」をよく表しているので、雰囲気を知るためだけでもご覧いただければ幸いだ。

 人気絶大なタッカー・カールソンが以上のような認識でいるということは、米国のかなり多くの人々が同様な認識であることを示していると言ってよい。

 日本でも、日本版タッカー・カールソンがテレビに登場する日が来るだろうか? 

ウォールストリートジャーナル

 カールソンが庶民的な気分をよく表しているのに対して、科学と論理に裏打ちされた冷静な論説を展開するのがウォールストリートジャーナルである。

 最近の社説では 脱・脱炭素を説いている。題して「ネットゼロからどう脱出するのか? 英国が示す、公然と政策を捨てないことの危うさ。」である。脱炭素が実現不可能な愚かな目標で、コストが明らかになるにつれ、英国政府がこっそりと脱炭素目標を放棄している、と指摘している。

 ”ネットゼロは、有権者や政治家がその愚かさ(folly)に気づくにつれて、ゆっくりと死んでいくのだ。いずれは、誰かが声を大にしてそれを認めるかもしれない。“

 これはれっきとした編集部による社説なので、会社としての多数意見と言ってよい。日本のメディアで、脱炭素を「愚か(folly)」と言い切る社説は見たことがない。

5.おわりに

 このように、米国共和党では、研究者とメディアに支持されて、政治家も極端な気候危機や脱炭素を明白に否定している。

 読者諸賢も、米国から情報を取る際には、ぜひ共和党系3メディア(プライトバート、ウォールストリートジャーナル、フォックスニュース)を見るようにして頂きたい。

 前回の中間選挙で下院は共和党が制した。もし次の大統領も共和党になるとすれば、米国の温暖化対策は完全に変わる。そうなった場合に日本は備える必要もある。