気候変動のイベント・アトリビューション研究についての正しい理解方法
研究結果を理解するための3つのルール
印刷用ページ監訳 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志 訳 木村史子
本稿はロジャー・ピールキー・ジュニア https://rogerpielkejr.substack.com/p/how-to-be-a-smart-consumer-of-climate を許可を得て邦訳したものである。
近年、顕著な異常気象が発生すると、その原因を究明する「イベント・アトリビューション(帰属)」研究が盛んに行われるようになった。この種の分析では、気候変動と発生した事象との関連性を強く主張するのが一般的である。先月、私はこの類の主張について少しばかり触れ、次のように説明した:
「単一事象の帰属研究では、気候モデルを用いて、ある異常事象が人為的な気候変動の直接的かつ帰属する結果として、どの程度起こりやすくなったか、その確率を計算する。 このような研究では、一般に、大気中の温室効果ガス濃度が上昇していない場合の反実仮想シナリオと、濃度が上昇している場合の観測シナリオの2つを検討する。そして、2つの異なるシナリオの下で実行されたモデル計算結果を比較し、問題となる異常現象の発生確率が、温室効果ガスが増加した場合のモデル計算実行時に高くなったかどうかを確認する。」
ここでは、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の研究成果を踏まえ、科学的見地から、このような主張を受け入れるための3つのルールを提案する。
イベント・アトリビューションの主張は精査する必要がある。何故なら、その基礎となる方法論の開発は、明らかに、気候変動に関する訴訟を支援し、気候変動アドボカシーを推進し、メディアの注目を集めるという目的で行われたからだ。このような主張の政治的な側面については、詳しくはこちらを参照いただきたい。
わざわざこのことを声を大にして言わねばならないのは困ったことだが——、研究対象となるトピックの政治的な重みが、科学的厳密さを犠牲にすることがあってはならないのだ。
ハリケーン「フローレンス」のケースを考えてみよう。2018年9月、ハリケーン「フローレンス」がノースカロライナ州への上陸に向かっていたとき、ある研究チームは、「人間活動によって引き起こされた気候変動」が原因で、嵐が 80 キロメートル大きくなり、雨量も50%多くなるだろうと発表した。
気候変動との関連性が発表されると、予想通り、世界中の大手メディアで大々的に報道された。多くの報道機関がセンセーショナルな記事を掲載した。例えば、Guardian紙は、「気候変動により、ハリケーン・フローレンスの雨量は50%増加する」と発表した。
Newsweekはこう述べた:「地球温暖化がハリケーン・フローレンスのような巨大な嵐をいかに強力にするか」。
最初のハリケーン、フローレンスの分析を行った科学者の一人、ローレンス・バークレー国立研究所のマイケル・ウェイナーは、初期の分析結果をニュースにしたかった、と公然と述べている。
「ウェイナーは、嵐が上陸する前に気候変動の影響を推定することは、自分たちの首を絞めるリスクを冒すことになると認めている。だが、多くの人が他の問題に気を取られている数ヶ月後ではなく、ハリケーンがニュースになった時に答えを出すことが重要である、とも語っていた。」
政治的な影響は決して些細ではなかった。ウェイナーはアメリカ進歩センターによって、トランプ大統領と対比された。そして、あからさまに政治的なメッセージを宣伝した(強調部分は原文どおり):
「”今回の(そしてこれまでの)分析から得られた最も重要なメッセージは、”危険な気候変動が今ここにある“ということだ!遠い未来の脅威ではなく、いま起きている現実なのだ。」
未来が今日に飛んできた、という訳だ。
ハリケーン「フローレンス」の報道が一巡した後、メディアの注目を集めた研究者たちは、初期の分析結果を大幅に修正し、今度はプレスリリースで発表するだけでなく、査読付き論文で発表した。
1年以上経った後に発表された研究で、研究者は当初の数字が実は大きく外れていたことを以下のように明らかにしたのである。おやおや、なんということか。
「事前に計算した帰属について結論の数値は、事後的に計算した結論の数値と比べると、広範な信頼区間の範囲外にあり、最良推定値とは全く違っている。」
つまり、わかりやすく言うと「私たちはまさしく、完全に間違っていた」ということだ。
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