再エネ批判、事業者は自らの手で問題解決を


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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 再エネをめぐる怪しげな話が続けて起きている。東京地検特捜部が再エネをめぐる捜査をしている。この捜査の背景には、世論の再エネへの反感があるのかもしれない。環境ビジネスへの批判が強まることを、私は懸念している。行政による処罰ではなく、事業に関わる人々の自省と自制で、乱開発などの再エネの諸問題を解決してほしい。


太陽光発電のために、木が切り倒され平地になった土地と反対運動の看板(山梨県北杜市、2015年、石井撮影)

再エネをめぐる検察の捜査

 3月にタレントの三浦瑠麗氏の夫が、再エネ投資で詐欺容疑を働いたとして東京地検特捜部に逮捕された。また悪い評判のある再エネ事業者、関係者が最近、逮捕、捜査されている。エネルギー関係者の間では、事件がどのように進展するかが、関心を集めている。しかし噂を述べても意味がないし、ここIEEIのサイトはエネルギーのビジネスや政策を語る場であるため、それ以上の話は記さないでおこう。

 ただこの捜査の騒動から、私は再エネをめぐる、社会の雰囲気の変化を感じる。数年前までは、再エネ推進を正しいこととして、批判をためらわせる雰囲気があったように思う。今では再エネのイメージは、かなり悪くなっている。

 元外交官のベストセラー作家である佐藤優さんに『国家の罠−外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)という著書がある。佐藤さんは政治家鈴木宗男氏の疑惑に関係して捕まる。この中で、佐藤さんを取り調べた検事が、検察は時代の転換を促す「国策捜査」を行うと話す。ただし、ターゲットは検察官ではなく世論が決めるという。役人が威張る不気味さ危険さと傲慢さを感じるが、印象的な言葉だ。

 検察の捜査が再エネに向いているのは「国策捜査」のためかもしれない。国民が再エネに不信感を持ち、その状況を変えてほしいと願い、その意向を一部の検察官が感じて応じようとしている可能性がある。

再エネ賛美の状況が変わった

 数年前までの再エネ賛美の風潮は、さまざまな要因が重なったものだ。世界的な気候変動防止の潮流があった。また2011年の東日本大震災での東京電力の福島第一原発事故以降、電力会社や原子力産業に対して批判が広がった。再エネは、原子力や化石燃料からの脱却の有効な手段に思われた。さらに、政治と経産省が、さまざまな思惑を込めて、再エネ振興を後押しした。発電をすれば儲かるFITも2012年から導入された。これは国民から徴収した公金を使って、再エネを優遇している。

 これらの動きを背景に、実際に再エネの発電量が増えた。しかし問題も顕在化している。ウクライナ戦争という経済安全保障への関心、また電力料金の高騰や2021年からの電力不足という現実の問題に、再エネが答えを出しているようには見えないためだろう。

 それどころか再エネの乱開発によって、迷惑を受けている人たちがいる。民間団体の全国再エネ問題協議会によれば、同会が相談を受けた工事は、主に太陽光をめぐる開発で、全国約1万3000カ所にもなるそうだ。各地の土石流災害で、乱開発が影響している場合もある。FITで流れる補助金の総額は2022年度の見込みで、4兆2000億円にもなる。この巨額の補助金、それによる電力料金の上昇も、不信感を増やしている。再エネで金銭負担や環境破壊で迷惑を受けている国民は、この現実をおかしいと思い、実際に怒っている。

環境ビジネスへの期待が萎む可能性

 一方で環境ビジネスへの期待もある。これは再エネの拡大がもたらした、良い影響だった。

 岸田政権は、経済政策の柱に「GX」(グリーントランスフォーメーション:環境経済への意向)を掲げている。脱炭素に社会を変化させると同時にそれを産業として成長させ、日本経済を活性化させようとするものだ(経産省サイト:「GX実現に向けた基本政策」が閣議決定されました)。

 ところが、この看板政策も再エネ叩きが強まったら、国民の信頼をなくし、おかしくなる可能性がある。GX政策で、政府は原子力を含めて脱炭素のあらゆる技術の投資、研究開発の発展を目指している。しかし多くの国民はその政策の対象を再エネ、つまり太陽光や風力発電設備をさらに作るのかと勘違いしている。

 日本の強みである環境関連ビジネスの成長と発展が止まることはないだろう。しかし、今の人々の反感、さらには再エネをめぐる「国策捜査」が、一時的に悪影響を与えてしまうかもしれない。これは警戒すべきだ。

「お上」に頼らず事業者自らの手で問題是正を

 再エネ事業者の大半は真面目に法律に基づいて事業を行っている。ところが一部の人の問題行動が、社会問題を引き起こしている。そうした人を再エネ業界は駆逐できなかった。私は業界団体や有力事業者に、自主的に業界の開発ガイドラインを作り、乱開発を抑制した方が良いと働きかけたり、報道で提言したりしたが、結局形にならなかった。関係者があまりにも多いためだ。また経産省や各自治体も太陽光、風力などの環境保護規制を強化したが遅れてしまった。残念なことだ。

 太陽光発電の乱開発は、もうすでに一巡している。そのために悪質な事業者を現時点で摘発し開発をこれから抑制しても、すでに作られた施設で強制的にその環境破壊を戻すことは難しい。そのために、再エネによる乱開発での国土の破壊は放置され、国民の怒りは続くことになりそうだ。再エネ業界が自主的に乱開発を修正しなければ問題は解決しない。

 こうなった以上は仕方がない。国策捜査によって、再エネをめぐり違法な行為をした事業者は自らへの処罰の覚悟を、そして社会問題化しかねない「グレー」(灰色)の行動をしてきた人は自粛と是正を、とばっちりを受ける真面目な事業者は警戒をすべきだろう。

 ただし、「お上の処罰」だけではなく、再エネ業界自らの自制と自省の行動によって、是正がもたらされてほしい。このままでは事業者だけではなく、再エネ、環境ビジネス全体が国民の支持を失い、おかしくなってしまう。