欧州制度の模倣でまた失敗する
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2022年12月11日付)
二酸化炭素(CO2)の排出枠を事業者に割り当て取引を行う排出量取引制度(ETS)が注目されている。企業による自主的な試行取引も始まった。やがて本格的な取引制度に移行するのだろう。
欧州連合(EU)は2005年に域内のCO2排出量が多い電力、製鉄など1万以上の事業所に排出枠を割り当てることによりETSを開始した。EUが参考にしたのは、米国が大気浄化法を1990年に改正し導入した硫黄酸化物(SOx)のETSだった。
米国と異なりEUではETSは機能しなかった。SOxとCO2には大きな違いがあったからだ。削減方法が限られるSOxでは割り当てを行う当局はコストを推測し、割当量を決められる。一方、削減方法が多岐にわたるCO2のコストを推測することは難しいので、割当により排出枠の価格がいくらになるか出たとこ勝負になる。
EUでの取引開始直後CO2 1トン当たり30ユーロに上昇した価格は、その後数セントまで下落した。この価格ではだれも削減を進めない。欧州委員会は制度の実効性を担保するため手直しを続けている。今年100ユーロまで上昇した価格は、今乱高下している。
CO2価格がエネルギー価格を上昇させる原因にもなっている中で、投機筋を排除する議論も始まっている。市場参加者には投機目的と考えられる米国の企業が14%、ケーマン諸島の企業が4%を占めるとの報告も出ている。開始後20年近く見直しが続く制度は信頼できるだろうか。日本経済は排出量取引導入による物価上昇に耐えられるのだろうか。
電力市場の自由化では、先行した欧州諸国が発電設備の減少に対応する制度作りを行っている中、日本は16年に自由化を開始した。停電危機に直面し容量市場を導入したが、まだ見通しは立たない。欧州諸国が固定価格買取制度(FIT)による電気料金の上昇に見舞われFIT制度の見直しを始めた2012年、日本はFITを新たに導入した。消費者の負担はキロワット時3.45円に達している。欧州制度の後追いは、もう止めたほうが良いのではないか。三度目の正直とはならないだろう。