ロシアが広げるエネルギー貧困
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2022年8月1日付)
欧米の消費者物価指数が大きく上昇している。米国の上昇の大きな理由は、米国世帯の消費が多いガソリン価格の上昇だ。日本、欧州主要国のようにガソリン価格に対する補助を行っていない米国では、前年同期比50%を超える上昇となっている。
一方、欧州での上昇の原因は、電気・ガス料金の上昇だ。発電量に占める火力発電比率が58%と高いイタリアの電気料金上昇率は、2月に80%を超えた。フランスの火力発電比率は10%。5月の電気料金上昇率は、6.5%だった。原子力発電が価格安定に寄与している。
ガス料金の高騰と相まって、電気・ガス料金の支払いに窮する世帯が増えている。料金が自由化されている英国では、消費者保護のため料金に上限値が設定されているが、殆どの料金が上限値に張り付いたままだ。4月の改定では、標準的な世帯の電気・ガス料金の年間上限値は、約2000ポンド(約33万円)とされたが、10月の改定では30%から50%上昇するとの政府予測が出ている。
その結果、エネルギー料金の支払いに問題を持つ世帯が、増えそうだ。英国ではエネルギー貧困層は冬季に暖房か食物かどちらかの選択を迫られる。今年の冬には全世帯の40%がエネルギー貧困層になるとの予想も出されている。
ドイツでも同様の状態だ。中間層でもエネルギー料金の支払いに窮する世帯がでると予測されている。ロシアが4月末から天然ガス供給の削減を初めたことと、6月の米国LNG輸出基地の事故により、 欧州では天然ガス価格は再度急騰し1カ月で約2倍になった。7月中旬の時点では、LNG換算トン当たり30万円を超えた。電気料金抑制のため、ドイツ政府は7月1日からFITの負担金を電気料金から税負担に切り替えた。
欧州よりもLNGの長期契約比率が高い日本でも、やがて影響が出てくる。化石燃料価格が電気料金に与える影響は欧州よりも大きい。原子力発電の利用という中長期を考えた対策を早急に打たなければ、日本の産業は競争力を失い、家庭は困窮する。