環境大国ドイツはどこに行った
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2022年7月1日付)
5月18日、欧州委員会は脱ロシア産化石燃料を実現する具体策を発表した。省エネに加え、短期的には化石燃料調達先の多様化によりロシア以外からの購入を増やす。中長期には、太陽光と風力発電設備の増強と水素の利用増などにより化石燃料の使用量を削減し、2050年脱炭素の実現につなげることが謳われている。
ロシアからの化石燃料が欧州で大きなシェアを占めていたのは、価格競争力があったからだが、そのロシア産燃料を代替すれば、欧州諸国のエネルギー価格は大きく上がる。さらに、再エネの増加も価格を引き上げるが、戦略はエネルギー価格については、ほとんど触れていない。価格上昇に加え、戦略は温暖化対策にも環境政策にもマイナスの影響を与えそうだ。
ドイツでは、昨年石炭と褐炭火力の発電量が増加した。それぞれ、対前年比14%、21%増えた。価格が上昇した天然ガスに代え褐炭・石炭火力の利用率を上げたためだ。温暖化対策よりも電気料金抑制が優先された。温暖化対策、環境問題の優先順位が政策の中で下がる傾向は、ロシアのウクライナ侵攻により、さらに強まっている。脱ロシア戦略の一つとして、オランダ政府は、オランダ沖にてドイツと共同で天然ガス田の開発を行うことを発表した。2024年生産開始予定とされる。欧州委員会は天然ガスを過渡期のエネルギーと位置付ける一方、2035年までの脱天然ガスも目標としている。今から開発に乗り出すと、目標と齟齬をきたすと思われるが、脱ロシアのためであれば、温暖化対策より天然ガス生産が優先するのだろう。
ドイツ連邦政府は、騒音などの環境問題対策のため住宅地から陸上風力設備建設地を1キロメートル(km)以上離す法案を検討したが実現しなかった。ただし、一部の州政府は、1km以上の距離を設けることを義務付けている。連邦政府は、この規制にかかわらず、1km以内の建設を認可する意向と報道された。脱ロシアのためには風力発電設備の建設を急ぐ必要があるためとされている。環境・温暖化問題優先はどこに行ったのだろうか。