ゴールポストが動かされた-洋上風力入札
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
「一般海域における占用公募制度の運用指針(改定案)」に関する意見募集」が、先日8月13日まで行われていた。
これは、洋上風力の入札について、昨年12月24日に三菱商事連合が3地域すべてを最低価格で獲得したのに対して、6月の経産省・国交省合同委員会がルール変更したことのパブリックコメント募集である。
私は、利害関係者でもないので、感じたことを述べてみたい。
洋上風力は、再エネ電源主力化の担い手であり、いろんな企業が参入している。
昨年の入札において、三菱商事連合が、圧倒的な価格競争力で3か所をとり、萩生田経産大臣もお褒めの言葉をかけておられたと記憶している。
三菱商事は、EU企業の買収を通じた運用ノウハウ、欧米機器メーカーからの大量購入、グリーン電力の販売先の確保など、しっかりとしたビジネスモデルを構築したなと思った。
競合企業からは驚きの低価格であったと聞くが、2012年におけるFITの事業用太陽光発電設備のように、一部事業者による異例の高価格42円が20年間も固定されるというクリームスキミングにならなかったことに、国民負担軽減の観点から喝采した人も多い。
筆者は、1990年代後半の電力自由化において、IPP(独立電力供給者)として、卸電力事業に参入した経験を持つ。日本の産業用電力価格が米国等に比して高いために、国際競争力強化の視点から価格を下げたいとの思いであった。
このため、設備費の太宗を占める発電機器をいかに安く調達するか、インフラの活用、操業コストの低減、原料の安価調達によって、競争力ある価格で入札した。環境アセスも含めて、決められた期限内に事業を実現するのは当然である。
継続性の原則は、企業活動の基本
今回の改正については不透明な点が多く、週刊誌などが多く取り上げているが、奇異に感じるのは、ルールが突然変わってしまった点である。
12月の三菱商事連合の低価格は、当時高く評価されていたのに、半年もたたないうちに「ウクライナ情勢」を理由に、価格より迅速性が大切だという入札ルールに変わってしまった。
経産省と国交省の合同委員会である再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の洋上風力促進ワーキンググループと洋上風力促進小委員会(6/23)において、桑原聡子委員(外苑法律事務所パートナー)は、「継続性の原則から認め難い」と述べておられたが、見直しは、実施後数年先に行うのがスジだろう。
サッカーで言えば、開始早々に大量失点した相手チームのクレームで、ゴールポストが動かされたような印象を持った。
委員会の審議
洋上風力促進WG(6/23)では、意見が分かれたにもかかわらず、委員長一任とされた。
さらに、経産省の親委員会である再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(7/13)では、圧倒的多数の委員が疑義や反対意見を述べたにもかかわらず、結論は変わらず、そのままパブコメにかけられた(METIのインターネットライブ)。
今回のパブコメで、どう変わるか、見守りたい。
各論について
価格が大切
通常の入札では、最安値で入札したところが、責任を持って実行するのが常識である。
ところが、今回の改正では、設定された最高評価点価格より安ければ、2位以下の価格者も一律同じ点数がもらえる。入札者は、一円でも安くするために、しのぎを削ってコストカットしている。一位と二位は雲泥の差であることは企業人にとっては当たり前だ。
エネルギー危機における日本経済の最大課題は、国際競争力の観点から見たFIT/FIPの再エネ高価格である。
折角、世界に比肩できる風力価格を目指している企業努力を無にしないで欲しい。
運転開始の迅速性
ウクライナ情勢を鑑み、「迅速性を重視」としたというが、今回の見直しで、第二弾の6月予定の入札は丸1年遅れることになった。
エネルギー危機に関する我が国の重要事項は、迅速性よりも価格である。
迅速性は、地元と事前対策に着手したものが有利になりかねない。国がワンストップで地元交渉するセントラル方式に逆行するのではないか。
落札制限ー市場制限
世界的にも規模の小さい日本の洋上風力市場において、市場を細く分割することは望ましくない。
日本の機器メーカーが既に撤退している中で、市場分割すれば、規模の経済がない日本市場は、欧米機器メーカーにとって魅力なく、機器は安くならない。
多くの参加者に機会を与える意図といわれるが、狭い市場をさらに分割して競争力のないプレーヤーを残すのに何の意味があるのか。激しい生存競争していた中国の太陽光パネルメーカーに競争力で負けたことを忘れたのか。
このような「後出しジャンケン」が、国の政策で行われることは遺憾である。