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地球温暖化によって、日本の大雨は何割増えたのか?


キヤノングローバル戦略研究所 主任研究員、茨城大学 特命研究員


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 地球温暖化によって大雨が増えたというが、その評価方法は統一されていない。対象とする期間や地域の選び方によっては、理論的にあり得ない速度で大雨が増えていることになってしまう。世界の主流である大雨の「非定常性」を考慮した解析をわが国でも進めなければならない。

1.大雨頻度への地球温暖化の寄与は半分以下?

 気象庁による観測データの均質性が長期間継続している全国51地点のデータを見ると、100 mm以上の平均年間大雨日数は3.2%/100年の速度で増加している(図1a)。そして、最近30年間(1991–2020年)の平均年間日数は、最初の30年間(1901–1930 年)の日数の約1.4倍に増加したという注1)。この大雨日数の増加に地球温暖化がどの程度寄与しているかを試算してみよう。


図1 1901–2021年における日本全国51地点の日降水量100mm以上の平均年間日数の観測結果の経年変化。気象庁(2021)注1)と同様の形式で著者が作成。
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 地球温暖化によって大雨が増加する主要なメカニズムとされているのは、気温の上昇に伴う大気中の水蒸気量の増加(クラウジウス・クラペイロン(CC)効果注2),注3))である。CC効果によって、気温が1℃上昇すると大気に含まれうる最大の水蒸気量(飽和水蒸気量)は約7%増加し注4)、同時に海洋からの蒸発も促進するので発達した雲ができやすくなり大雨が増える。世界の降水量データを用いた最新の推計注5)によると、年間日最大降水量の増加率は6.6%/1℃(5.1–8.2%/1℃;5–95パーセンタイル信頼区間)となっており、CC効果による値に近い(様々なプロセスが複合した結果なので、CC効果以外の自然変動を無視できるとは限らない)。ここで、地球温暖化による日本の気温上昇率は0.77℃/100年と推計されているので注6),注7)、CC効果による日本の水蒸気量の平均増加率は7%/1℃×0.77℃/100年=5.4%/100年となる。
 この増加率を使うと、CC効果のみが及ぼす大雨日数への影響を理論的に計算することができる。まず、最初の30年間(1901–1930年)の各地点における全ての日降水量データにCC効果による増加割合(5.4%/100年)と2021年から遡った年数をかけて「CC効果を考慮した場合の日降水量」を計算した。この日降水量から100mm以上の年間日数を算出し、全国での平均値を求めた。さらに、基準年間の開始年を10年ずつずらした期間(1911–1940、1921–1950、1931–1960、1941–1970および1951–1980)に対しても同様の計算を行った。最終的に、各基準年の年間日数に対するCC効果を考慮した場合の年間日数の比を計算し、それらを各基準年の年間日数に対する最近30年間の年間日数の比と比較した(図2)。上述したように、気象庁は最初の30年間を基準にしたときの最近30年間の増加率を1.38倍(38%の増加)としている。これに対して、最初の30年間にCC効果を加えたときの増加分は1.18倍(18%の増加)にしかならなかった。すなわち、CC効果によって説明できる大雨頻度の増加分(18%)は観測結果(38%)の半分にも満たないということになる。


図2 基準となる年間を変化させたときの最近30年間(1991–2020年)の日本全国51地点における100mm以上の平均年間日数の増加割合の観測結果と基準年間にCC効果を加えた場合の増加割合。矢印は気象庁の公表値注1)
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 ところが、大雨頻度は基準年間の取り方で大きく変化する。1921・1931・1941年を基準年間の開始年とすると(図2)、最近30年間の増加割合はむしろCC効果による推計値を下回り、「地球温暖化による降水量への効果は、あったとしてもCC効果で期待されるほどには大きくなかった」という解釈になってしまう。このように期間の取り方で大きく変動してしまう指標は、地球温暖化による影響を議論する上では適切ではないと思われる。

2.地域によって異なる大雨の増加率

 図2は日本全体の平均値であるが、その内訳はどのようになっているだろうか?全国51地点を地域ごとに区切って同様に試算してみると(図3)、過去に対する現在の大雨頻度の増加割合は地域によって大きく異なることがわかる。棒グラフを見ると、四国と九州を除けば基準となる30年間で生じた平均大雨日数は概ね30日以下であり(図3a–f)、統計誤差が大きく変動要因を考察するのは難しい。一方、四国・九州では40日以上の平均大雨日数が観測されており(図3gおよびh)、中でも九州の増加割合の傾向は図2の全国の増加割合とよく似ている(図3h)。この結果は、1911–1930年を基準にした場合を除けば、全国平均の大雨頻度の増加割合には四国や九州の傾向が反映されており、おおむねCC効果で説明できるかもしれないことを示唆している。


図3 (a)北海道(旭川・網走・札幌・帯広・根室・寿都)、(b)東北(秋田・宮古・山形・石巻・福島)、(c)関東(宇都宮・前橋・熊谷・水戸・東京・横浜)、(d)中部(伏木・長野・福井・高山・松本・敦賀・岐阜・名古屋・飯田・甲府・浜松)、(e)近畿(津・京都・彦根・神戸・大阪・和歌山)、(f)中国(境・浜田・下関・呉)、(g)四国(松山・多度津・高知・徳島)、(h)九州(福岡・大分・長崎・熊本・鹿児島・宮崎・名瀬・石垣島・那覇)における100mm以上の平均年間日数の増加割合の観測結果と基準となる30年間にCC効果を加えた場合の増加割合。棒グラフ:30年間のサンプル日数。
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 また、図2および3に見られた最初の30年間のデータには、降水観測の技術的な問題が関係しているかもしれない。最近の研究によって、一般に、降水量データは過去に遡るほど1日の間の雨水の採取頻度が少なくなり、その結果雨量を過小評価してしまうという問題が指摘されている注8)

3.日本を対象とした解析は発展途上

 上述した雨量観測による誤差に加えて、本稿で示した大雨の発生頻度や年最大日降水量注9)の解析手法にも不確実性がある。大雨の発生確率を決める背景場、すなわち気候そのものは変化しない(定常である)と仮定していることだ。現実には背景場が時間とともに変動することにより大雨が起きやすい年が出現するという非線形なトレンドを持つと思われる注10),注11)
 気候が非定常であることは、基準年をずらしながら回帰直線を引くことでもある程度予想することができる。図4を見ると、解析期間を短くするに従って日本の大雨日数の増加率(線形回帰の勾配)は大きくなっている。例えば、1901–2021年の勾配は3.8%/100年であったのが、2000年以降だけを対象にすると21.1%/100年まで増加している。このような増加率の変化には、数十年かけて徐々に変化する背景場(気候)が影響しているかもしれない。


図4 1901–2021年における日本全国の日降水量100mm以上の年間日数(図1棒グラフ)の線形トレンド。黒・赤・青・黄土・緑および紫色線は、それぞれ2021年から20・40・60・80・100および120年遡ったデータの線形回帰直線。
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 このような降水の非定常性を考慮した解析は水文学という分野で進められているが注12),注13),注14),注15)、地球温暖化による日本の大雨の変動傾向についてはまだ結論は出ていない。海外では、すでにMann-Kendall検定と極値統計を組み合わせた研究が地球全体ならびに欧米・アジア・オーストラリアなどの大陸単位で行われている注16),注17)。東アジアのモンスーン地域を対象にした非定常解析では、1951–2010年の日最大降水量の増加率は4%/1℃とCC効果の理論値(7%/1℃)に満たないという注18)。しかしながら、大変残念なことにこれらの研究には日本の降水量データのほとんどが含まれていない。理由は不明である。地球温暖化による降水への影響は温暖化対策の極めて基本的な情報であり、日本の観測結果が国際的にどのような立ち位置にあるのか、早急に明らかにしなければならない。

【謝 辞】
気象官署51地点における日降水量データは、気象庁ホームページから取得した。

注1)
気象庁(2021)大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
注2)
Allen,M.R. and Ingram,W.J. (2002) Constraints on future changes in climate and the hydrologic cycle,Nature,419,228–232
注3)
Trenberth,K.E.,Dai,A.,Rasmussen,R.M. and Parsons,D.B. (2003) The Changing Character of Precipitation, Bulletin of the American Meteorological Society,84,1205–1218
注4)
Hartmann,D.L.,Tank,A.M.G.K.,Rusticucci,M.,Alexander,L.V.,Brönnimann,S., Charabi,Y.,Dentener,F.J.,Dlugokencky,E.J.,Easterling,D.R.,Kaplan,A.,Soden,B.J., Thorne,P.W.,Wild,M. and Zhai,P.M. (2013) Observations: Atmosphere and Surface. Climate Change : The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F.,Qin,D.,Plattner,G.-K.,Tignor,M.,Allen,S.K.,Boschung,J.,Nauels,A.,Xia,Y.,Bex,V. and Midgley,P.M. (eds.)]. Cambridge University Press,Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2017/09/WG1AR5_Chapter02_FINAL.pdf
注5)
Sun,Q.,Zhang,X.,Zwiers,F.,Westra,S. and Alexander,L.V. (2021) A Global, Continental, and Regional Analysis of Changes in Extreme Precipitation, Journal of Climate,34,243–258
注6)
近藤純正(2020)K203.日本の地球温暖化量、再評価2020
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke203.html
注7)
堅田元喜(2020)日本の気温は、地球温暖化で何度上昇したのか?
https://ieei.or.jp/2020/10/expl201019/
注8)
Morbidelli,R.,Saltalippi,C.,Flammini,A.,Corradini,C.,Wilkinson,S.M. and Fowler, H.J. (2018) Influence of temporal data aggregation on trend estimation for intense rainfall,Advances in Water Resources,122,304-316
注9)
堅田元喜(2021)極値統計学の考え方 ― 異常気象は、それほど異常ではない? ―
https://ieei.or.jp/2021/05/expl210507/
注10)
西澤誠也(2008)気象観測データの長期トレンドの統計解析,応用数理,18,201-212
注11)
藤部文昭,酢谷真巳(2020)極値統計の利用に関する問題, 気象研究ノート,242,43-69
注12)
西岡昌秋, 宝馨(2004)Mann-Kendall検定による水文時系列の傾向変動, 水文・水資源学会誌,17,343-353
注13)
中尾隆志, 佐渡公明, 杉山一郎(2007)年最大日雨量時系列の非定常性を示すトレンドとジャンプの検出について, 水工学論文集,51,301-306
注14)
田中茂信(2015)我が国における降水量の長期変化と極端降水量の増加, 京都大学防災研究所年報,第58号B,417–423
注15)
国土交通省(2021)第6回気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会
https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/dai06kai/index.html
注16)
Westra,S., Alexander,L.V. and Zwiers,F.W. (2013) Global Increasing Trends in Annual Maximum Daily Precipitation, Journal of Climate, 26, 3904–3918
注17)
Sun,Q.,Zhang,X.,Zwiers,F.,Westra,S. and Alexander,L.V.(2021) A Global, Continental, and Regional Analysis of Changes in Extreme Precipitation, Journal of Climate, 34, 243-258
注18)
Zhang,W. and Zhou,T. (2019) Significant Increases in Extreme Precipitation and the Associations with Global Warming over the Global Land Monsoon Regions, Journal of Climate, 32, 8465–8488