氷河の後退と地球温暖化・農業の関係


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 最近、氷河が後退する速度が早くなっているようだ。地球温暖化によるものだとして、温暖化対応策を強化すべきだとする考え方が強くなっている。一方、後退した氷河の後に残された土壌に、炭酸ガスを吸収するものが出てくるとする研究成果の発表もある。氷河が後退しても、岩盤が露出するのではなく、氷河の動きで削られて微粒子化した土壌が堆積する結果のようだ。


「グリーンランド」-緑より氷河の多い、地球最大の島-
Vadim_Nefedov/Ⓒ iStock

 氷河の岩から生まれる粉末は、重い氷床の移動によって臼に掛けられたようになり、直径がナノレベルの粒子になり、グリーンランドの首都Nuukの近くにある世界最大の島にある氷河でみると、地元の研究者の推計では、ほぼ10億トンの微粒化した土が堆積しているとされる。
 コペンハーゲン大学の研究グループの調査では、この堆積粒子が農地にすき込まれると、栄養分が多いことから農産物の成長が早くなり、炭酸ガス吸収の度合が大きくなって地球温暖化を阻止する効果が大きくなる、としている。別の研究では、麦畑1ヘクタールあたり25トンの微粒粉末を混入すると、デンマークの畑地での収量が30%高くなるという結果を出している。農地改良効果が極めて大きいということだ。
 さらには、デンマークから遠く離れたところにあるガーナ大学での研究では、雨が多く気温が高いここの農地にこの粒子をすき込むことで、トウモロコシの収量が30%上がるという結果を出している。
 このような好結果が出るのは、ナノサイズ微粒の土壌があるお陰で、植物がポタジュウム、カルシウム、シリコンも含めた栄養分を取り込みやすくなっているからのようだ。このような農地への利用を大規模化するには、乗り越えなくてはならない壁があることは確かだが、その壁を乗り越えるための資金調達の動きも見られる。これから3年の内に、この微粒子を世界の農地へ送り出す事業として成り立つかどうかのフィールドテストが、デンマークとガーナで行われようとしている。

 さらに分かったことは、微粒子のサイズが極めて小さいために、岩石自体が炭酸ガスを吸収する現象も起こり、農産物の吸収量に加えて農地全体の炭酸ガス吸収量が増加する。粒子が雨水で溶解して栄養分を放出するときに、炭酸ガスを吸収する現象が起きているらしい。微粒子化した岩石を農地にすき込むことで収穫量が増えることは以前から知られていたが、それに炭酸ガス吸収という利点が加わったことになる。氷河が後退した後に残るのが玄武岩であるためのようだ。
 コペンハーゲン大学の推計だが、氷河からの微粒岩石が農地にすき込まれると、1トンで250~300kgの炭酸ガスを吸収する。この方式を採用した農民は、これをカーボンクレジットとして売ることもできるとしている。これまで使用されてきたものより持続可能性が高い肥料になるということだ。これまで使われている肥料に使われる素材にリンやポタジウムが使われているが、この製造にはエネルギー消費の大きいアンモニアで窒素を造って加える必要があり、氷河からの微粒岩石肥料がこれに代わる可能性もあるとも言われている。課題は、この岩石を肥料として販売する事業を収益性のあるものにどのようにして育てるかにある。事業化に成功すれば、世界の農地の肥沃度が均等化の方向に向かうと考えられている。