海洋プラスチックごみの資源化
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
昨年1月16日に本コラムで、プラスチックによる海洋汚染が深刻になるのを防止するために、2013年に設立されたオランダのNPOであるThe Ocean Cleanupが、カナダの太平洋岸に浮遊するゴミの回収実証試験を行ってきたことを紹介した。
このNPOがこの10月、これまで行ってきた実証試験の結果を発表したが、その概要を再度ご紹介したい。海洋プラスチックごみ処理に向けて大きな一歩を踏み出し、今後への期待を持たせる結果が出ている。
海洋プラスチックごみの回収システムは、下の写真に見るように、2隻の船で回収ネットを海流と同速度で海流とは逆の方向に引っ張ることによって、湾曲した回収ネットに海面に漂流するプラスチックごみを捕捉する。ここでネットを引っ張る2隻の船は、ゆっくりした海流と同じ速度で海を逆流するだけだから、必要な燃料は極めて少量で済むし、炭酸ガス排出量の少ない燃料を使っている。
このような形の捕獲ネットを使って、この1年間に9回、カナダの太平洋岸にあるプラスチックごみが多いことで知られる海域でごみの捕獲作業を試行したのだが、それによって集められたプラスチックごみは、小さな粒状のものから漁網までと、多種多様なものが28,659kgにまで積み上がっている。一回の採取で集められたゴミで最大の量は、9,014kgだったようだ。
このNPOが設立されたのが2013年。システムの改良を積み重ねて試行を何回も実施し、本格的なゴミ収集をこれまでの1年間行った成果だが、これをさらに大型化したものを構築しようとしている。それに加えて、回収したプラスチックごみの資源化技術の開発と並行して、これらのゴミが元々何に使われていたものかを探索し、その製品がどのような形で破壊され海洋に入り込んだかの解析も行う段階に入っている。回収されたものの中には、便座、歯ブラシ、洗濯バスケット、靴、プラスチック箱、子どもが使う雪橇、漁網などが含まれており、海洋汚染の問題と同時に、人間社会の問題であることが分かる。
いま新しく設計しようとしているものは捕獲網の長さが2.5kmと、現行のものの3倍ほどになるようだ。これが完成するまでは、現行のシステムを継続して利用し、海洋プラスチックの回収を続けることになっている。
誰の目にも明らかだろうが、このNPOの活動には巨額のコストがかかる。当然のことだが、寄付、がある。しかし、このThe Ocean Cleanupの場合、海上輸送事業を営むMaerskを始めとする20近い数の事業体がスポンサーになっている。それに止まらず、このNPO自体がロゴ入りのTシャツやサングラスを開発して販売するなど、少しでも収益を上げようとしている。いわばコングロマリットのようなNPOだと言えるかも知れない。このNPGOの代表が持つ優れた経営感覚に圧倒された感じがする。これからESGが企業の中心課題となりつつある今、さらにこのプロジェクトを支援する事業体が増えるようになるだろう。日本海でもこのプロジェクトの導入が検討されたこともあるようだが、ESGを経営の主題に組み込みつつある日本企業も参加して実現することになれば嬉しいことだ。