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国民を困窮させる立憲民主党のエネルギー政策

エネルギー政策に必要な多面的思考はどこに?


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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 10月1日立憲民主党が「エネルギー政策」を発表した。注目されていないのか、マスコミでの報道も少なく論評も見かけない。だが、この政策が万が一実行されれば、私たちの生活はさらに苦しくなる。立憲民主党は一部の労働組合の支援も受けている筈だが、エネルギー政策を見る限り、同党は労働者のことを考えているとは思えないし、加えて、多くの国民のことも頭にないようだ。

 立憲民主党は、次期衆院選の公約として「気候危機に歯止めをかける 自然エネルギー立国の実現」を掲げ、「自然エネルギー」比率を2030年50%、2050年100%とし、2030年に温室効果ガス排出量を2013年比46%削減の政府目標から55%以上削減に引き上げるとしている。また、枝野代表(以下敬称略)は「楽ではないが、達成は可能」とし、自然エネルギーのコストについては原子力や火力などと比較した場合「長期的に考えれば、圧倒的に低い」と主張している。

 気候変動対策として自然エネルギーを増やすと言えば、多くの国民は賛意を表すと思っての発言だろう。確かに、自然エネルギー(以下再エネ)という言葉を好きな人は多い。再エネには温暖化対策に加え自給率向上のメリットもある。しかし、物事には裏表がある。再エネ導入量の増加を支えたのは、固定価格買取制度に基づき国民が負担している賦課金額だ。標準家庭の負担額は、年間1万円を超えたレベルだが、多くの企業の負担額は、従業員1人当たり年間10万円以上だ。給与が上がらない理由の一つになる金額だ(エネルギー基本計画-温暖化対策が招く「急坂を転げ落ちる」日本 欧州では黄色ベスト運動再燃の懸念も)。

 再エネ導入量がさらに増えることで、金銭面で得をする人はいるのだろうか。私たちが負担した賦課金の大半は、太陽光を中心とした再エネ事業者に支払われている。再エネ導入を進めれば、再エネ事業者の収入は増え、事業者を支援する金融機関の貸付額は増える。関係する事業者と金融機関にはメリットがある。しかし、その利益は電気料金を通し消費者が負担したものだ。再エネ導入を進めれば、事業者を除く国民の負担が増えるばかりだ。
 
 枝野は「長期的には再エネのコストは圧倒的に安い」としているが、その根拠はないだろう。温暖化問題に取り組むマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「再エネ100%にすれば、発電コストはとんでもないレベルまで高くなる。蓄電池のコストが飛躍的に安くなるなどのイノベーションがない限り、原子力と組み合わせた電源の非炭素化を行うしかない」と主張している。会長を務めるテラパワーは米連邦政府の支援も受け小型モジュール炉(SMR)を開発中だ。ゲイツ氏は、彼のSMRが商業化されるのは2030年代になるだろうとしている。10年、あるいは20年などという期間で再エネ発電安定化のイノベーションが起こる可能性は薄く、再エネのコスト減も起こることは多分ないとみているのだろう。

 数字を全く理解していない枝野の話には、前例もある。かつて出版した「叩かれても言わねばならないこと」(2012年刊)の中で、枝野は、日本の産業は中国などの追い上げを受け競争力を失っているので、これからは、ニッチ産業で輸出を図るべきだとして、盆栽の輸出を挙げている(枝野の主張については、Wedge Infinityの連載でも少し触れたことがあるので、関心がある方はお読みください「資本主義の終焉」? 脱成長路線では世界を救えない)。

 枝野の選挙区が盆栽の産地のようだが、経産大臣を務めていたとは思えない思考だ。日本の輸出額は、76.9兆円(2019年)だ。盆栽の国内市場は8億円、輸出額は4億円。輸出額に占める比率は、20万分の1だ。冗談を言ってる訳でもなさそうなので、数字をまったく把握していないか、経済の基本的な構造を理解していないということだろう。国民生活を豊かにするため考えるべきことは、国の競争力強化の施策であり、盆栽の輸出ではない。

 枝野は「エネルギー政策」が国民生活と経済にもたらす影響を全く考えていない。2030年に再エネ50%にすれば、太陽光と風力発電量は今の4倍に増加する必要がある。その時のコストと国民負担額はいくらになるのか、想像もしていないのだろう。日本の現状を省みれば、「気候危機」と煽る前に、まず経済問題を考えるべきではないか。温暖化問題への取り組みから原子力を除外すれば、コスト削減策は限定される。米、英、仏、露、中、韓などはコストが安く安全性に優れているSMRの開発に力を入れ、世界では70以上のSMRが検討されている。日本はSMRに出遅れ、温暖化問題でも選択肢を狭めているが、その選択肢をさらになくし温暖化対策のコストを国民負担で大きく引き上げるのが、枝野の言う「エネルギー政策」だ。「気候危機」に再エネだけで立ち向かうことはできない。

 盆栽の輸出が実現してもその恩恵は限定的だが、負の影響を受ける人はいない。再エネの導入増により直接恩恵を受ける人も限定的だが、コスト負担は国民全員に負の影響をもたらす。政党は、多くの国民を幸せにする政策を考えるべきではないだろうか。「自然エネルギー立国」を打ち出す前にメリット、デメリットを十分検討したのだろうか。その疑問を持つのは、私だけだろうか。



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