海洋エネルギーによる発電


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 今年4月の初め、英国の環境監査委員会(Environmental Audit Committee)が、3ヶ月に亘る海流発電技術開発の現状調査の後、英国政府に対して、英国の海洋エネルギーの潜在量を考えると、開発促進に向けた資金支援を早急に行わなければ、風力発電技術開発で世界に後れをとったのと同じ状況に陥る可能性があるという内容の報告書を出している。資金支援を行うことによって、海洋エネルギー利用技術を輸出産業に育てる必要があるということだ。

 これを見て、20年ほど前に英国から日本の再生可能エネルギーについて調査に来ていたリサーチャーとの対話を思い出した。彼が、日本の再エネ潜在量についてどう思うかと尋ねたのに対し、「太陽光や風力は当然だが、それ以外に海洋エネルギーの潜在量が多いと思う。英国も同様だが、大きく異なるのは、瀬戸内海と、世界最大規模の流速を持つ黒潮の存在だろう」と回答したのだった。本コラムで2016年11月10日に同じ内容を紹介している。

 日本列島は文字通り海に囲まれ、近くを黒潮が流れ、明石海峡のように潮の干満で海流が出入りするところがあるのだから、海流発電が実用化されるのは早いのではないかと思っていた。しかし、いろいろな海域で実証試験は続けられてはいるが、まだ決め手となるような海流発電システムは登場していない。海の深さ、海流の速度や流れの特性が様々であるために、設置地点に即した方式、いわば全てが特注設備になる可能性が高いことも阻害要因になっているのかも知れない。瀬戸内海の海峡部については、漁業、海産物事業者との対応が必要となることもあるだろう。

 現状について調べて見ると、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から海洋エネルギー発電実証等研究開発事業の基本計画と2020年度実施方針が出されていた。IHIを委託先とする実証試験が2018年度から継続されている。2019年秋から鹿児島県十島村口之島沖で実施されているものだが、開発しているのは一方向に流れ続ける水流を利用する海流発電装置。定格出力100kW、直径11メートルのタービンを2基備えており、海底に設置するシンカー(おもり)と特殊なロープで接続し、水中に浮遊させるように設置する。海面から30~50メートルの深度に設置し、海流を利用して発電した電力は海底送電ケーブルを通して、陸上の受電設備に送電する仕組みだ。これは「かいりゅう」と命名されているが、既に2017年度から実証試験を続けてデータを蓄積し、改良を積み重ねている。NEDOは離島用の電源に向けたものとして実用化を想定しており、発電コストは40円/kWhが実現できるとしている。2021年度の再エネ固定価格買取制度では、浮体式洋上風力発電の買取価格が36円/kWhと設定されているから、受け入れ可能なコストだと言えるし、IHIは発表資料の中で、大規模化で20円にできるとも述べている。

 2050年に温暖化ガス排出をネットゼロにする社会実現に向けて動き始めた日本としても、冒頭に述べた英国の報告書のように、輸出できるレベルの海洋エネルギー利用技術の開発実用化を目指してほしいものだ。


左:「かいりゅう」100kW本体 右:設置のイメージ
出典:IHIのプレス発表資料

【参考文献】