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新手法でグリーンビジネス開拓

”航空機業界の温暖化対策学べ”


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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(「サンケイビジネスアイ」からの転載:2021年1月13日付)

 コロナ禍により多くの国で航空旅客数は大きく減少し、航空会社の収益は落ち込んで雇用の維持も難しくなっている。影響を受けたのは、航空業界だけではない。航空機製造企業も大きな影響を受けた。米ボーイングの株価は2000年2月から約1カ月間でほぼ4分の1まで下落するほどだった。

 三菱重工業が開発しているスペースジェット(旧MRJ)も開発費用の圧縮を余儀なくされ、実質的に凍結と報道された。当初の計画では13年に引き渡し予定だったが、大幅に遅れる中、コロナ禍で需要が減少したのは不運だった。もう一つ不運だったのは、開発開始後大きく変化した航空業界のトレンドだ。

 10年ほど前に航空業界の方とお話ししたときには、温暖化対策が強化されることにより航空運賃の値上げが引き起こされることを懸念されており、航空機が温暖化問題に対応するのは燃費のよい機体とエンジンに頼るしかないといわれていた。これに応えたスペースジェットは燃費が良い環境対応型航空機とされたが、航空業界は予想よりも早く温暖化対策に注力するようになり、植物由来のバイオ燃料の利用から、燃料電池航空機まで実用化に向けて動き出した。

 温暖化問題は、もう一つの新しいトレンド、航空機離れを欧州の一部諸国で引き起こした。温暖化問題への対策を求め学校ストライキを一人で開始し、ノーベル平和賞候補にまでなったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんは、1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が多い航空機を利用せず、欧州内は鉄道で移動し、国連本部でのスピーチのためニューヨークまでヨットで大西洋を横断するほどだった(ヨットの乗組員は全員航空機を利用し帰国したので、グレタさん1人が航空機を利用する方が良かったとの指摘もあったが)。

 欧州の高校生、大学生などに大きな影響力を持つグレタさんを、多くの人が見習ったのか、欧州の一部では航空機利用客が伸びない状況になっている。18年から19年の旅客数の伸びをみると、欧州連合内では3.8%増だが、デンマークはわずか0.2%の伸び、スウェーデンはマイナスに転じ前年より3.4%減少している。この温暖化問題の解決策として新たな航空機開発に乗り出したスタートアップ企業がある。

 18年に設立され英国と米国両国に本拠を置くたゼロアビア(ZeroAvia)が目を付けたのは、温暖化対策としてCO2を排出せず、鉄道に流れた客を取り戻す短距離を結ぶ機体を開発することだった。つまり、航続距離は短くてもCO2を排出しない航空機の開発だ。動力源として水素を燃料とし燃焼により水しか排出しない燃料電池を利用する機体の開発だが、着々と成果をあげ、20年12月、英政府からの補助金に加え米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏が関与するファンドなどからも資金調達を行ったと報道された。

新たな挑戦

 三菱重工が航空機開発に苦戦したのは、開発が当初予定より遅れたことに加え、受注機数も予想ほど伸びなかったことだ。強力な既存のサプライヤーから市場を奪うのは簡単ではない。今、政府は温暖化対策をてこに成長を図ることを狙っている。洋上風力はその一つの柱だが、欧米中の既存サプライヤーが強い分野だ。日本企業が市場を奪うことは可能だろうか。後発が既存のフィールドで挑むより、新たな手法により市場を作り出すことを狙うべきではないだろうか。

 19年9月、英政府はゼロアビアに対し270万ポンド(約3億8200万円)の補助金交付を発表した。同社が手掛ける6人乗り機体を燃料電池で250~300カイリ(482~555キロメートル)飛行させる「ハイフライヤープロジェクト」に対する交付だった。同社は20年9月燃料電池稼働の6人乗りの「パイパーM型機」により、商用機サイズとしては世界初の試験飛行を英国で成功させた。

 20年11月、タイム誌が選定した「今年最高の発明品100」に選ばれ、12月には英航空大手ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)との提携が発表された。提携に際し、BAのドイル最高経営責任者(CEO)は次のような声明を発表した。

 「BAは持続可能な将来と50年までに炭素純排出量をゼロにすることを約束している。短期的には運行効率の改善と炭素削減プロジェクトに取り組み、中長期的には持続可能な航空燃料への投資を行う一方、排出ゼロの水素稼働のような新技術の成長を加速する援助をいかに行うことができるか考えている」

 BAとの提携に続き、英政府から1630万ポンドの助成金の交付が、23年までに350マイル(560キロメートル)航続可能な19席の機体を開発する「ハイフライヤープロジェクトII」に対し行われたと発表された。さらに、ビル・ゲイツ氏が主導するブレークスルー・エナジー・ベンチャーファンド、米アマゾン・コムや英蘭メジャー(国際石油資本)ロイヤル・ダッチ・シェルの関連ファンドなどが合計2140万ポンドの出資を行うことが発表された。

 ゼロアビア社は26年までに「航続距離500マイル(800キロメートル)を超える80席」の機体を30年までに「航続距離1000マイル以上、100席以上」の機体を開発するとしている。同社の取り組みは航空機製造業の動きを先取りするものだった。エアバス社は20年9月、35年までに水素利用を主体とした排出ゼロの航空機を導入すると発表した。

 「100席までの航続距離1000カイリ以上」「座席数120~200の航続距離2000カイリ以上の大陸間運行可能」な機体に加え、「胴体と翼が一体となった設計の席数200まで」の3種類のコンセプト機体を発表した。エアバスは、実現のため政府、産業界からの支援と同時に、空港が水素貯蔵、供給インフラを用意することも要請している。

必要な企業家精神

 航空機業界は、いま大きく変わろうとしているが、このトレンドに乗ったのはロシア系米国人によるスタートアップ企業ゼロアビアだった。米電気自動車(EV)大手テスラも南アフリカ生まれのイーロン・マスク氏が米国で起業した。共通しているのは、起業家精神に富んだ人が興した企業であり、それを支える投資家がまわりにいたことだ。

 日本政府は洋上風力に関し大きな導入目標を掲げているが、風力発電設備の19年末の世界の導入量は、世界風力発電協会によると陸上風力設備6億2142万キロワット、洋上風力設備2914万キロワット、日本の全設備量は392万キロワット、シェアは0.6%に過ぎない。ブルームバーグNEFによると、世界のメーカー別シェアでは、19年の1位は三菱重工が2.5%の株式を保有するデンマーク・べスタス、2位スペイン・シーメンスガメサ、3位中国ゴールドウイン、4位米GE、5位中国エンビジョン、6位以下には中国メーカー4社、ドイツ1社だ。

 上位企業は、習熟曲線により既にコストを大きく下げているだろう。この中に後発の日本企業が割り込むことはできるだろうか。グリーンビジネスで戦うには、ゼロアビアが行ったように既存勢力との競争を上手に避け、新しい手法を開拓することが必要だ。難しい課題だが、迅速な経営で臨むことが最も必要な分野だ。

 



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