太陽のエネルギーだけで飲料水を作る


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 日本では飲み水の入手に困難な所は、大災害時を除いては殆どないだろう。災害時も、飲料水は周辺から何らかの形で届けられる。だが、難民キャンプで泥水しか飲めないというような危機的状況が報じられることもあるし、子どもの仕事が毎日遠方の川や池に水を汲みに行くことであるような地域は世界の至る所にある。
 このような状況を、ほんの僅かかもしれないが、緩和できる事業を広げている企業がある。太陽のエネルギーだけで飲み水を作り出す技術を開発事業化したZero Mass Water, Inc.だ。アメリカのアリゾナ州、スコッツデールに本拠を置く事業だが、屋根上に設置できる大きさのパネル一枚から、太陽光を当てることで、空気中の湿分を取り込み、湿度や日照具合にもよるが、パネル1枚につき1日平均2~5リットルの水を生成する。砂漠地帯のように乾燥した地域でも水を作り出せるとのことだ。パネルは1枚あたり2000ドル(約21万円)で、設置費は500ドル。エアーフィルターは毎年、水に加えるミネラル・ブロックは5年ごとに交換が必要だが、どちらも費用は数ドル程度で済む。

出典:https://www.businessinsider.jp/post-164438

出典:https://www.source.co/

 パネルの中央部は太陽光発電パネルで、これが発電した電力を使って、両端の2つのパネルにファンで空気を取り込み、大気の湿分を吸湿フィルターで凝縮させて水にし、パネル下の30リットル容量のタンクに集める仕組みだ。この水を飲用に適した成分にするためにミネラルを加える機構が組み込まれている。太陽光発電パネルがこれを作動させるに十分な発電をするために、外部電源は必要ではなく、独立運転が可能になっている。

 同社は、2015年に最初の製品「ソース(Source)」をチリ、ヨルダン、ペルーなどの8カ国に設置している。低所得地域の住人にとってこのパネルは高価で、設置するためには何らかの援助が必要となるが、同社は最近、社名をSOURCE Global, PBCと変えている。PBCはPublic Benefit Corporation(公益に貢献する企業)の略称で、これはNPOであるB Labが、利益を目的とする企業でありながら、公共の利益にも貢献している事業者に与える認証で、これを獲得したこということだ。
 その認証によって、アメリカの電力大手デューク・エナジー(Duke Energy)が同社製品をエクアドルに設置し、さらに、アメリカ合衆国国際開発庁の助成金を得て、ヨルダンとレバノンの難民キャンプにもこれを設置した。アジア開発銀行、ARENA(オーストラリア再生可能エネルギー局)、ヨルダン王庁の支援も受けている。最近では、アリゾナ州の砂漠に生息する野生動物のために、水が湧き出るようなシステムも設置している。

 空気中の湿分をどのようにして吸収して水にするかについては、技術秘密として公開されていない。しかし、砂漠に住む昆虫がどのようにして水を摂取しているかを研究した生物学者の結論が、この回答を与えてくれるかもしれない。
 砂漠など乾燥地帯にいる昆虫の羽根の表皮には複雑な突起模様が入っているらしいが、霧が発生したときに、この羽根を風に逆らうように持ち上げることによって、羽根にある繊毛が風の中に含まれる僅かな湿分を効率的にキャッチして水滴にし、迷路のような模様が水を最終的に昆虫の口に届くようになっている。生物学者が3Dプリンターで表皮の模様のコピーを作ると、風に含まれる湿分を水にできたとのことだ。

The Namib Desert beetle (ナミブ砂漠の甲虫)

 いずれにしろ昆虫が大気中の湿分を水にできるのだから、Source Global, PBCの造水設備が太陽エネルギーだけで作動することは確かだろう。砂漠近くの学校の屋根にかなりの数の造水パネルが設置された事例もあるようで、世界での飲料水問題を解決する一つの方策になる。同社は世界各地にある造水設備の稼働状況をオンラインで把握できるようにし、トラブルがあるとすぐ補修にかけつける体制を築いているとのことだ。
事業収益と社会貢献を両立させた特異な事例だが、今後さらに普及することを期待したい。

【参考文献】