どうなる?モビリティ革命

- CASE・MaaSは未来をどう変えるのか -


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 先日、第25回「新時代のエネルギーを考えるシンポジウム」に登壇の機会を頂いた。
 1997年から毎年、エネルギーセキュリティのあり方や温暖化対策、新技術の活用などの議論が重ねられてきたが、今年は標題の通りモビリティ革命がテーマであった。
 ご承知の通り筆者の専門は、エネルギー・環境政策でありモビリティは門外漢であるが、エネルギーとモビリティが同期をとりつつ転換を図っていく必要があることなどから、2018年から19年にかけて開催された「自動車新時代戦略会議」および本年3月から「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」の委員を拝命しており、今回のシンポジウムにもお声がけいただいたものだと理解している。

 2時間超のシンポジウムの様子が、12月26日(土)14時からNHKのEテレで放送されるにあたり、簡単にではあるがその際の議論をご紹介させていただきたい。

 モビリティが100年に一度の大変革期にあると言われて既に久しい。その背景は、気候変動問題や、超高齢化と超過疎化の同時進行、デジタル技術の進歩による価値観の変化(所有から利用へ)など多様だ。こうした複数の変化の潮流を受けて、社会におけるモビリティの位置づけや役割、そして産業構造も変わろうとしている。
 こうした状況は、実はエネルギーでも全く同じだ。2つの基盤的な社会インフラはともに、手段であって目的ではない。観光や医療など他の産業との掛け算によって、地域課題の解決に新たな選択肢を提供することが期待されている。モビリティもエネルギーも、地域での実践例を必要としている。

 シンポジウムでは国内外の事例を取材した4本のVTRが流された。先ほど述べた通り地域自動運転のタクシーや遠隔運転のバスが走行する様や、“空飛ぶクルマ”が遮るもののない空を移動する映像からは、世界が変わるスピードが伝わってきたし、次世代モビリティサービスを活用して車を手放した北欧の事例には、モビリティに求められる価値観も多様化していることを実感した。
 しかし変革にはもちろん痛みも伴う。電動化等によって車の価格が上がれば、公共交通機関が十分ではない地域にお住まいの方には負担が増すことになるし、産業構造も大きく変わらざるを得ない。ただでさえ数が減少しているガソリンスタンドはさらに維持が難しくなるだろう。また、ご一緒に登壇した国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子教授からは、自動運転に期待しすぎてもいけないという示唆もあり、社会が新技術を受け入れるまでには慎重かつ長い時間がかかることを覚悟せねばならないことも実感した。また、エネルギーとモビリティが、同期をとりつつ変革を進めていくことが何より必要とされる。

 変革を進めていくにあたっての、時間軸やリスクの許容度などは、我々の社会の価値観を投影しつつ議論を深めていかねばならない。
 これまでのセオリーは通用せず、政府の役割も見直される必要があろう。

 そうした議論に本シンポジウムの議論が少しでも役に立てばと願っている。

NHK放送予定:12月26日(土)14:00~14:59 Eテレ
「TVシンポジウム  移動革命 ~CASE・MaaSは社会をどう変えるのか~」
https://www4.nhk.or.jp/P1699/
なお、「NHKプラス」(同時配信と一週間の見逃し配信)でも配信予定