将来の気温変動予測(その4)

-地球気温は上がるのか下がるのか-


横浜国立大学環境情報研究院・名誉教授

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前回:将来の気温変動予測(その3)

海洋の古気候データからの自然変動の評価

 自然変動の評価に使えそうなデータとして、熱帯海洋の古気候調査がある。


図23. 左、ボルネオ近海の海水温度の変動、過去2,300年(緑線、赤線、青線) (文献29)。Δ14Cから求められた太陽活動(黄色線、文献30)を重ねた(縦軸スケールなし)。太陽活動の極小期を合わせて表示してある。左から、マウンダー極小期、ダルトン極小期、グライスバーグ極小期。JASは7月~9月の意味で、湧昇流のために年平均温度より低くなる。右、過渡気候感度の地理分布(図9より)

 図23左は、熱帯太平洋西部に位置するボルネオ島近海の海底コア(柱状試料)を用いて、米国のオッポらが調査した海表面温度である(文献29)。炭素14の測定から求められる太陽活動強度のデータ(文献30)を重ねてある(黄色線、縦軸スケールなし)。
 図23右の過渡気候感度の分布(図9の一部)を見ると、ボルネオでは過渡気候感度が負であり、周囲の過渡気候感度はゼロに近く、温度変化はほとんど自然変動であると考えて良いのではないかと思われる。
 図23左の温度変動(緑線・赤線・青線)を見ると、11世紀頃の中世温暖期、17世紀の小氷期が明確である。また、黄色線の太陽活動の変動と傾向が概ね一致している。
 温度の振動を観察すると、比較的最近の低温ピークが太陽活動の極小期と一致していることが分かる。1600年頃のマウンダー極小期、1800年頃のダルトン極小期、そして1900年頃のグライスバーグ極小期である。マウンダー極小期は、原因の詳細は不明ながら、小氷期と対応していると考えられている(例えば文献31)。
 グライスバーグ極小期の低温ピークは、図13(機器測定全球気温データ)や、図17(AMOとバレンツ海の水温)にも見られる。


図24. 全球の海表面温度の平均と各地域の海表面温度の相関 (文献29)

 またオッポらによれば、図24のように、ボルネオ近海の海表面温度は全海洋の温度と良く相関しているので、特殊な地域というわけではない。むしろ、全球海洋の代表と考えて良いだろう。ただし、各地域の過渡気候感度に応じてCO2の寄与が変化する。
 このような海洋の温度変化についての結果を見ると、近い将来、太陽の極小期の頃に気温が低くなるだろうと予測するのは不思議ではない。

太陽活動の予測について

 問題は太陽活動の将来予想が困難だったことだが、最近になっていくつかの報告がある。


図25. 太陽活動の将来予測。2000年頃がピークで、2100年頃には1900年頃(G、グライスバーグ極小期)、あるいは1800年頃(D、ダルトン極小期)と同程度という予想。Mは、マウンダー極小期 (文献32)

 スイスのベールらは、宇宙線によって大気上層で生ずる炭素14やべリリウム10の過去データを用いて、将来の太陽活動変動を予想した(文献32)。図25に示した彼らの結果によると、現在は太陽活動のピークで、2100年頃は太陽活動が低下し、ダルトン極小期あるいはグライスバーグ極小期と類似の活動度となる可能性がある。しかしマウンダー極小期ほどにはならない。またその後、太陽活動は活発になるが、現在よりは低い。
 図23の結果と図25の結果を合わせた結論として、自然変動のみの場合には、2100年の気温はグライスバーグ極小期、あるいはダルトン極小期と同程度になると考えられる。

将来予測、気温について

 材料が揃ったので、2100年の気温を予測しよう。ここでは、太陽活動がグライスバーグ極小期と同程度になると考える。前述のように、全球気温データ(図13)に基づいて、1910年から2020年まで1.4℃の気温上昇のうち、0.24℃がCO2寄与分、残り(1.16℃)が自然変動と解釈したので、2100年には自然変動分として約1.2℃の気温低下となる。ここに、CO2が410 ppmから610 ppmまで増加したための約0.4℃上昇が加わることになり、差として約0.8℃の気温低下という結果が得られる。この関係を図26に示した。


図26. 2100年における気温予想の模式図 (筆者作成)

 同じようにして、2100年における各地域の気温変化を求めることができる。例えば、気候感度がゼロに近い地域なら、1900年頃の気温になるだろう。気候感度が特に高い地域では、自然変動による気温低下とCO2寄与分が同じくらいになる、あるいは後者の方が大きくなることもあるかもしれない。
 なお、気候感度がリンゼンらの0.7℃より高い場合、例えば二倍の約1.4℃なら、CO2の寄与分は1910年~2100年で約1.3℃となる。従って、2100年の全球気温は現在よりも約0.1℃下がる勘定となる。
 このように、2100年における気温上昇について自然変動を考慮すると、気候モデルに基づいたIPCCの結論とは全く異なる結論が得られる可能性がある。とはいえ、観測と理論(あるいは理論に基づくモデル)は本来、車の両輪のような関係にあるべきだ。共に健全に発展することを期待して、本稿の試論を終わる。

<参考文献>
 
29)
D. W. Oppo et al., 2,000-Year-long temperature and hydrology reconstructions from the Indo-Pacific warm pool, Nature 460(7259):1113-6
https://www.researchgate.net/publication/26773789_2000-Year-long_temperature_and_hydrology_reconstructions_from_the_Indo-Pacific_warm_pool
30)
M. Stuiver et al., High-precision radiocarbon age calibration for terrestrial and marine samples, Radiocarbon, VOL. 40, No. 3, 1998, P. 1127-1151
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/1660E9D7A43772ACBB56614C1DD09D46/S0033822200019172a.pdf/highprecision_radiocarbon_age_calibration_for_terrestrial_and_marine_samples.pdf
31)
伊藤公紀『地球温暖化』(2003年、日本評論社): 伊藤公紀・渡辺正『地球温暖化論のウソとワナ』 (2008年、KKベストセラーズ)
32)
F. Steinhilber and J. Beer, Prediction of solar activity for the next 500 years, J. Geophys. Res.: Space Physics, VOL. 118, 1861–1867, doi:10.1002/jgra.50210, 2013
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/jgra.50210