雇用と収入を減らし地域を疲弊させる立憲民主党の「自然エネルギー立国」政策
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
自然エネルギーあるいは再生可能エネルギーという言葉が好きな人は、どの国でも多いようだ。例えば、英国では米国と並び原子力発電を支持する人が多く、英国政府の世論調査では反対23%に対し賛成は35%だが、再エネを支持する人となると80%を超えている。まあ、響きの良い言葉だし、自然が嫌いという人はまずいないだろう。
立憲民主党・枝野幸男代表が「自然エネルギー立国」を政策の中心にすると発言したとの報道があった。自然エネと言えば支持が増えると立憲民主党の幹部は思ったのだろうが、この政策の中味をよく考え検討したうえで持ち出したのだろうか。米民主党が「グリーンニューディール」政策を打ち出しているから、真似しておこう程度の安易な発想ではないのだろうか。米民主党の政策にはインフラ、自動車などへの投資も含まれているが、立憲民主党の政策は雇用と収入が減少することになる再エネだけ取り出している。労働組合の支持を受けている政党が持ち出すべき政策ではない。この政策の問題点についての論考は別の媒体に発表する予定なので、ここでは雇用と収入の問題に絞って、この「自然エネルギー立国」政策がなぜ反労働者の政策なのか、説明したい。
再エネ立国で雇用を失う日本
急速な少子化に向かっている上コロナ禍に苦しむ日本で重要なことは、当然だが雇用と収入を増やすことだ。そのためには知恵を絞った政策が必要だが、「自然エネルギー立国」は雇用を減らし、残る雇用を低賃金の仕事に置き換え、地域を疲弊させる、いま日本で最も実行してはいけない政策だ。
東北地方、九州南部を鉄道、車で移動していると、線路、道路に沿って太陽光パネルが敷き詰められている休耕田のような場所をよく見かける。だが、見かけるのは設備だけで人はいない。このためドイツではマフィアが夜間設備を盗みに来るとの話もあったほどだ。
太陽光発電とか風力発電設備は一度設置したらあまり人手は要らない。欧米での太陽光発電事業での雇用をみると、大半は設置に伴う雇用だ。設置量が減れば雇用も減少する。図‐1の通りだ。設備投資額が相対的に高い再エネで操業に人手まで要るのであれば、とても競争力はないだろう。では、どの程度人手、雇用は節約できるのだろうか。日本の雇用統計ではそこまでの詳細はないようだが、米国労働省の統計資料では、発電設備ごとの全米の雇用者数が調べられている。日本と米国で発電設備そのものに差があることはないので、米国の統計を分析すれば雇用が分かる。
その結果は、表の通りだ。発電設備100万kWごとの雇用者数は、再エネ設備では相対的に少ないが、火力、原子力発電設備関連との雇用者数の差はもっとある。この統計には含まれない雇用が火力と原子力設備にはあるからだ。発電用燃料の採掘、運搬、原子力発電所の定期点検などの雇用は別にある。米国では天然ガス輸送だけで109,430人の雇用がある。日本の場合であれば燃料輸入と原子力発電の定期点検雇用だ。再エネ設備にはそんな雇用もない。とすれば、再エネに発電設備を移していけば、設備建設で一時的な雇用は生まれるが結局多くの雇用は失われる。枝野代表は「自然エネルギー立国を目指す上での拠点づくりを原発立地地域から進めていく」と発言していると報道されているが、地域の雇用者数は何分の一になるのだろうか。地元の商店、飲食店などは立ち行かなくなるだろう。しかも、労働者の収入も減少する。
再エネは賃金も下落させる
では、再エネに関する賃金はどうだろうか。これも米国労働省の統計にある。産業別の年収を見る限り、日米の産業別の生産性はほぼ同じ傾向だ。図-2の通り、生産性が高く年収が高いのは金融、情報、年収が低いのは宿泊・外食だ。他の仕事も日米ではほぼ同じ傾向で収入が得られると考えてよいだろう。米国の太陽光発電設備設置を行う労働者の年収中間値は44,890ドルだ。建設労働者の中間値57,110ドルをかなり下回っている。風力発電タービン技術者の年収中間値は52,910ドルだ。これも製造業平均54,260ドルを下回っている。
再エネ事業は働く人に高収入をもたらさない。発電設備を再エネにシフトすれば、起こることは雇用と収入の減少だ。今の日本で取るべき道でないのは明らかだ。再エネで地域創成、お金を地域で回すと主張する向きもあるが、無理だ。雇用も地域に落ちるお金も少ない。その上、再エネ設備が作り出した収入は多くの地域外に住む投資家の手元に渡る。再エネで地域創成というのは夢物語に近い。
人口の東京への一極集中が続いているが、後10年ほどで東京でも人口減少が始まると予想されている。国立社会保障・人口問題研究所の長期予想では2100年の日本の人口は今の半分以下約6000万人だ。国民の収入を増やし、結婚する人を増やし、少子化を防ぐ政策が第一だ。少なくとも自然エネルギー立国という、雇用と収入を減らし地域を疲弊させる政策を実行してはいけない。政策には多面的な検討が必要だ。思い付きのような政策を出しても国民も労働者もついてはこないだろう。