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シナリオプランニングの手法から~コロナ禍を考える(3)

現状分析の技法(2)


東京大学公共政策大学院 客員教授


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 前回に続き、シナリオプランニングで使われる「現状分析の手法」を解説します。説明を前に進めます。
 シナリオ手法で使う現状分析では、まずもって、公開されている大量の論説文を読み込みます。チームで分担して読むのがよく、この作業には時間がかかる。それからメンバーは、それぞれが注目したいくつかの論説文を論理的にすっきり、はっきりした型式で整理するために、まず、論述を構成しているいくつかの情報を、分割してカードにして書きつける。そしてカードとカードを矢印でつないで連関を示し、ストーリーを再構成してみる。
 その際、カード同士の連関の具合を、注意深く、観察するのだ。前後関係? 因果関係? 相関関係? みせかけの相関関係?(第2回で詳述しました)これをやると、論説の質の良し悪しを、ロジックの良し悪し、という基準で捌けるのだ。こうやって現状分析のための元データを整備する。

 ちいさな注釈を入れておく。筆者は、「コロナ禍を経た日本社会」の現状分析の“現在”を、2つの時期に分けて考えます。第一期は2月初から4月末までの3か月。社会が極度の不安感と緊張感に覆われた。第二期は5月以降、現在進行形である。第3回以降の連載では、第一期に筆者の目に留まった論説文のいくつかを、「現状分析手法」を使って、整理してお見せする。

 さて解説が済んだので実作業を始めましょう。第1回でご紹介した「ショックシナリオ」の型式を使います。

1.4月14日”Science”誌に掲載された科学論文

 「過去のパンデミックの流行をモデル化して、今後の新型コロナの流行を予測。この春の激しい流行が収束しても2020年冬に第2波が来る。ソーシャルディスタンシングは2022年まで必要となるかもしれない。流行が終了しても2024年までは、モニタリング体制の継続が必要」

 この論述を分解して、データカードに書きつけ、矢印でつなぎ、ロジックを観察してみる。

 これに依れば、過去のパンデミック現象の推移を参照すると、現在のコロナ禍に対応するには、今後2年間2022年まで、日常生活にソーシャルディスタンシングが必要、また2024年までモニタリングが必要、との見解。つまり、過去の推移と現在のコロナ禍の推移の間には相関関係がある、という仮説を置いて、コロナ禍の将来シナリオを1本だけ示した。ほかのシナリオを描こうにも科学的根拠がないからであろう。

2.こんな言説を読んだ

 「短期的には感染の恐れのある外国人に対する排斥が続く。しかし長期的に見ると、世界は連帯の方向に向かわざるを得ない。感染症に限らず、気候変動や移民・難民の増加など、国際社会の連帯や協調が必要とされるテーマは非常に多い。コロナ危機は、これまで必要性が唱えられながら十分にできていなかった「世界の連帯」を推し進めることになる」

 このロジックには論者の未来予想が含まれる。「2020年、春 コロナ禍」と「感染症対策は世界規模での連帯が必要(なはずだ)」との間の因果関係は、弱いかもしれない。また、「短期的な外国人排斥」と「長期的に世界は連帯に向かう」の間に前後関係を想像しているのは、納得がいかない。

3.4月14日に国際通貨基金(IMF)が公表した世界経済見通し

 「今回の危機は他に類を見ない。第一に、ショックが大きい。生産活動の落ち込みは、世界金融危機時の損失を凌駕する可能性が高い。第二に、戦争や政治的危機と同じように、今回のショックの期間や深刻さに不確実性が高い。第三に、通常の危機では政策当局者はできるだけ迅速に総需要を刺激し、経済活動を活性化しようとする。今回の危機の大部分は必要な拡散防止措置の結果である。このため経済活動を刺激するのはより困難であり、少なくとも、最も影響を受けた産業においては、望ましくもない。
 現在の危機は大恐慌ならぬ「大封鎖」の様相を呈しており、世界経済はこの危機の結果、劇的なマイナス成長に陥ることが予測される」

 下流、すなわちCOVID-19ショックは次に何を引き起こすだろう、その結果、我々に対する影響は如何に、を説明するストーリーを書いている。ここでも過去事象と現在進行形の事象の間に相関関係がある、と仮定して試算をする。さすがにロジックのつながりに破綻が見られない。

4.エネルギー・温暖化の論壇からは

 「感染抑止を契機として、経済のデジタル化が急速に進みつつある。リモート・オフィス、リモート教育、リモート医療等。今後は製造業のサプライ・チェーンのデジタル化。これまでハード・ソフト両面の技術進歩があったにも関わらず、制度整備や、ビジネスモデルの形成が遅れていた。しかし、コロナ禍をきっかけに需要が喚起され、制度や慣習が改まり、新たな市場が形成されるだろう。これは更なる技術進歩を促し、デジタル化のイノベーションが急速に進む可能性がある。デジタル化は、温暖化対策としても極めて重要。デジタル化によるエネルギー需要の削減は、IPCCの温暖化対策シナリオにおいても、中心的な役割を果たすとされている」

 上図の矢印表記はすこし複雑です。上流には、デジタル技術の実装が停滞しているネガティブフィードバックループを描き、下流に経済のデジタル化が今後進展してゆくポジティブフィードバックループが描けた。
 こう整理してみると、この主張から取り込むべきは、第一に、経済社会のデジタル化を実現する技術は、既にあった、という認識。第二に、コロナ禍は、既存デジタル化トレンドを加速した。故に第三、コロナ禍の将来展開の不確実性、例えば来春には終息するのか、それとも今後数年間繰り返し流行するのか、という不確実性については考慮していない。経済がデジタル化に向かい、温暖化対策が進む好循環は不可避、という見通しは確実であろう、と述べる。

5.コロナウィルスからの手紙

 この発信は4月の中旬に現われて、世界中にコピーされ、拡散した。英詩である。和訳され国内でも拡散した。主張を聴こう。ポエジーを取り除けてしまうのはとても気が咎めるのだけれども、こういう主張です「地球は人類に地球環境の劣化を訴えるが、あなたがたは耳を貸さない。だから、「私」COVID-19が生まれた。「私」はあなたがたを罰するために生まれたのではない、目覚めさせるために生まれた。「私」は世界の軌道を止めた。今、人類は地球のようになった。自分たちが生き残ることだけを気にかける。「私」はあなたがたを発熱させた。地球が燃やされているように。呼吸器系の問題を与えた。地球の大気が汚染で充満しているように・・・」
 誌面の関係ではしょったが、主張の流れは紹介できています。

 上流側のストーリーである。なぜコロナ禍が起こっているのか、について説明する。データの連関性の評価はむつかしい。「地球環境問題の深刻化」と「COVID19の発生」の間には前後関係がある、ここは現状分析として採用できる。がしかし、COVID19の発生は人類の文明による環境破壊の結果である・・・のだろうか? 筆者は、迂遠な因果関係の連鎖を想像してしまうのだが、時代が、われわれが、大きな物語を求めているということなのか。