物流革命に注目!CO2排出削減に貢献する(2)
物流の総合化・効率化
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
新型コロナウィルス感染症の拡大による外出自粛により、日本でもインターネット通販等の宅配便の物流量がさらに拡大しましたが、トラック輸送などの物流業界にとっては、物流の徹底的な効率化が急務の課題です。物流業界が直面するさまざまな課題については、「(1)物流の概要と課題について」をご参照ください。今回は、物流の効率化を目指す政策の方向性について解説します。
物流の総合化・効率化
物流業界における人手不足が深刻化する中、貨物の小口化・多頻度化などへの対応やCO2排出量削減を図るため、国土交通省は、2016年10月に改正された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)」に基づき、物流の総合化・効率化を進めています。
物流における環境負荷低減に向けた主な取り組みとして、①輸送網の集約、②輸配送注1)の共同化、③モーダルシフトが挙げられます。①輸送網の集約とは、非効率・分散した輸送網を効率化・集約化された輸送網に転換していくことです。輸送連携型倉庫(特定流通業務施設)を持つことが効率化・集約化のカギになります(図1-1)。倉庫業務の情報システム「倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)」を導入することにより、在庫管理やロケーション管理、入荷・検品・ピッキング・出荷など庫内での作業の進捗管理をトータルで行うことができます。最先端のWMSの中には、過去の出荷実績や生産・販売計画、許容欠品率注2)などをもとに適正な標準在庫量や発注量を試算してくれるものもあります。
コスト的には、近年は、WMSのクラウド型サービスが登場し、従来の初期導入費用であるイニシャルコスト数百万円~が、1ユーザーあたり月額数千円程度のランニングコストで利用できるなど、かなりローコストにシステムを利用できるようになり、中小企業もWMSを導入しやすくなっています。
さらに、物流倉庫を自社で所有せず、不動産開発会社が供給する施設を賃貸するかたちで利用するケースも増えています。都市の湾岸エリアや高速道路のインターチェンジの近くなど利便性が高い場所に大型の倉庫・物流センターが開発されています。
国土交通省では、2016年度より輸送連携型倉庫への税制特例措置を継続しており、倉庫に係る固定資産税・都市計画税の課税標準を5年間1/2にするなど、整備促進を進めています。
次に、②輸配送の共同化は、トラック輸送における低積載率による個別納品の現状から、高積載率な一括納品に転換するなどの取り組みです(図2-1)。
好事例として、味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社、Mizkanの食品大手メーカー6社が、食品企業物流プラットフォーム「フードロジスティックスインテリジェントネットワーク」(F-LINE)の構築に合意し、2016年4月から、食品業界全体で効率的な物流体制を開始しています(図2-2)。F-LINEの共同配送では、各社の情報システムを連結し、物流情報を一元化し、6社の製品の在庫管理や配送車両の手配などの物流の効率化を図っています。
輸配送の共同化は、「輸配送管理システム(TMS:Transportation Management System)」の導入が不可欠です。各荷物の発地と着地の場所、容量・重量、納品時間などを事前に入力することで、必要なトラックの配車管理や動態管理注3)、最適な輸配送ルートを自動で試算してくれます。作業の進行やモノの位置の「見える化」することにより、効率的な物流体制をつくり環境負荷低減を図ることができるようになっています。またTMSは、伝票・日報等の自動作成といった業務もサポートしてくれるため、トラックドライバーの事務処理の負担も減らしてくれます。
好事例として、航空測量会社のパスコは、人工衛星、航空機、特殊車両、船舶などを使った測量で蓄積した空間情報を活用し、TMSに特化した物流ソリューションサービスを提供しています。また、過去の気象災害が道路交通などの輸配送インフラに与えた影響をデータベース化しており、気象予報を活用し、災害の発生による輸配送への影響を最小化しています。通常の輸配送ルートが利用できないと予測される場合はシステム上にアラートが表示され、異なる輸送手段を選択し、荷物を届ける仕組みになっています。
③モーダルシフトは、トラック輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することです(図3-1)。トラック輸送は、ドア・ツー・ドアで輸送できる利便性から国内輸送の9割超を占めています。一方、環境負荷を考えると、鉄道輸送のCO2の排出量は、トラック輸送の10分の1程度で、鉄道利用はCO2排出量削減対策として効果的です。国内の港間を行き来する船舶輸送(内航海運)のCO2排出量も、トラック輸送の6分の1程度であり、鉄道利用とともにモーダルシフトとして注目されています。船舶輸送は、他の輸送手段よりも大量かつ規格外のサイズのものを一度に運べることもメリットです(図3-2)。
国土交通省は、鉄道輸送を活用した貨物輸送への税制特例など補助金を交付しており、現在、多くの大企業が従来の輸送体制を見直し、鉄道利用の比率を少しずつ高めています。
好事例として、ビールメーカーが連携する共同モーダルシフトがあります。2017年1月には競合するアサヒビールとキリンビールの大手ビール会社2社が北陸向けの商品をモーダルシフトで共同輸送する共同モーダルシフトを実現しました。
キリンビールは神戸工場から、アサヒビールは吹田工場(大阪府)で生産したものを北陸に鉄道による共同輸送で運んでいます。さらに2018年4月からは、サッポロビール、サントリーも加わり、ビールメーカー4社での大阪と福岡間の鉄道による共同輸送を行っています。その取り組みを支えているのが、物流企業の日本通運とJR貨物です。
ビールメーカー各社は、以前から1000kmを超える長距離輸送ではトラックだけでなく、鉄道や船舶も利用されてきましたが、最近では200~300kmといった中距離についても、従来のトラックから鉄道への切り替えを進めています。
この他、異業種間のP&Gとパナソニック・アライアンス社も、京都―東京間の共同モーダルシフトを行っています。東京から京都へP&Gの化粧品用ガラス瓶容器を鉄道で輸送し、京都から東京へはパナソニック・アライアンス社の給湯器を輸送しています。これらの共同モーダルシフトは、JR貨物にとっても、収益にならない復路の空コンテナを活用できるようになっています。
国土交通省のモーダルシフト等推進事業の2020年度の補助金総額は約1900万円ですが、8月初旬に補助対象事業者を認定する予定です。モーダルシフトは、温室効果ガス排出削減効果が大きく、長距離を担うトラックドライバー不足にも対応する取り組みです。多くの企業に輸送手段の多様化を積極的に検討してほしいと思います。
- 注1)
- 輸配送:輸送と配送。輸送は工場から倉庫(物流センター)まで運ぶこと。配送は宅配便会社から家(納品先)まで運ぶこと。
- 注2)
- 許容欠品率:欠品を許容できる割合。安全在庫を算出するために欠品許容率を考慮する必要がある。
- 注3)
- 動態管理:トラックの現在位置や作業状況(走行中、荷下ろし中)等を把握する機能
- <参考文献>
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- 刈屋大輔,知識ゼロからわかる物流の基本(2020年1月9日第5版)
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- 小野塚征志,ロジスティックス4.0物流の創造的革新,日本経済新聞社(2020年1月3日第3版)
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- GEMBA: https://gemba-pi.jp/post-207858