物流革命に注目!CO2排出削減に貢献する (1)
物流の概要と課題
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
物流というと、最近の私たちの生活の中で直接関わるのは宅配便かもしれません。しかし、物流とは単にモノを運ぶだけの経済活動ではありません。物流とは、「基本ロジスティックス用語辞典」(日本ロジスティックスシステム協会監修)によると、「商品の供給者から需要者・消費者への供給についての組織とその管理方法およびそのために必要な包装、管理、輸配送と流通加工、並びに情報の諸機能を統合した機能をいう」と定義されています。モノが顧客や目的地に到着するまでの過程で行われる「輸配送」注1)、「保管」、「荷役」注2)、「流通加工」注3)、「梱包・包装」、「情報管理」といった6つの活動で構成され、物流の6大機能と言われています。
図1は国内の各物流業界の概要(区分・営業収入・事業者数・従業員数・中小企業数)ですが、輸配送を担うのは、トラック、船舶、鉄道、航空の4つです。もっとも規模が大きいのは、14兆5449億円の営業収入、従業員188万人を有するトラック運送業です。トラック輸送は、ドア・ツー・ドアで速く輸送できるのが最大の特徴です。
一方、トラック運送は、船舶、鉄道に比べると、CO2排出量が多く、環境負荷が大きいという課題があります。(図2)1トンの荷物を1キロメートル運ぶ際に排出されるCO2量を比較すると、貨物鉄道輸送は、営業用トラックの約11分の1であることが示されています。
また環境負荷の問題とは別に、物流業界が抱える問題として、第一に人手不足が挙げられます。リーマンショック以降、年を追うごとに運輸業における労働力不足が顕在化しています。全日本トラック協会によると、2018年には約7割の企業が、トラックドライバーが不足していると回答しています。(図3)
自動車運送業者の働き方をめぐる状況として、労働時間が全職業平均より約1~2割長く、所定外労働時間が全職業平均の約2~3倍の長さ、全職業平均より平均年齢が約3~17歳高く高齢化が進んでいること等が挙げられます。長い労働時間にも関わらず、年間賃金が全職業平均と比べて低いことも人材不足の背景として考えられます。従業員への処遇を充実させ、新たな人材の採用を強化する必要があります。
人手不足が深刻化する中、ここ最近のインターネット通販市場(主に消費者向け物販分野)注4)の著しい成長にともなう小口配送が増加しています。宅急便の取り扱い実績では、2010年の32億千万個から2015年は37億5千万個と5年間で約5億3千万個増の12%増加している状況です(図4)。
またライフスタイルの多様化により、日中在宅の世帯が減り、宅配の再配達も増加しています。宅配便で消費されるエネルギーの25%(2015年)、原油換算で10万klが再配達によるもので、再配達により1年間で約42万トンの二酸化炭素(CO2)が排出されています。宅配便1回で受け取れないと、CO2排出量の増加や労働生産性の低下による社会的損失が生じてしまいます。
2018年1月に総合物流施策推進会議がまとめた「総合物流施策促進プログラム」では、宅配便の再配達を2020年度に13%程度まで引き下げる目標を掲げています。コンビニ受取や宅配ボックスの普及、各事業者が提供しているアプリやメールの活用など、受取方法の多様化が促進されていますが、国土交通省は2019年4月における宅配便の再配達率は約16%だったと発表しています。20年度の目標達成には、消費者(主に一般家庭)を巻き込みつつ、さらに3%低減させる必要があります。
こうした中、大手宅配便業者は、急増する小口配送の需要に対応しきれず、大口顧客からの受取総量の抑制実施や、消費税の税率引き上げに伴う運賃の改定を実施しています。しかし、現場のオペレーションの対応だけでは、顧客サービスを維持するのは難しく、労働生産性の向上にも限度があります。
では、こうした現状や課題に対して、どうすればよいのでしょうか。これから日本は人口減に向かいます。人手を増やさずに、物流を拡大できるようにすることを考えなくてはなりません。それが現在、物流の世界で進められている「物流革命」です。労働力不足や輸送の小口化や多頻度化による非効率な物流の現状に対応するため、IoTやAI(人工知能)など新たな技術を活用した物流革命により、業界全体として物流のあり方を変えようと動き出しています。これから数回にわたり、物流革命で何が変わろうとしているのか、企業の事例も交えて、お伝えしたいと思います。
- 注1)
- 輸配送:輸送と配送。輸送は工場から倉庫(物流センター)まで運ぶこと。配送は宅配便会社から家までなど、何軒かを配って回ること。
- 注2)
- 荷役(にやく):トラックや船舶などにモノを積み込んだり、下ろしたり、倉庫や物流センター内でモノを動かしたりする作業。
- 注3)
- 流通加工:製品に様々な加工を施し、商品の付加価値を高める作業。バラ単位の化粧品の箱詰めやチラシやパンフレットを入れる作業等、多くの場合で手作業が求められる。
- 注4)
- インターネット通販:インターネットをチャネルとする消費者向け(BtoC)の電子商取引(Eコマース)。
- <参考文献>
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- 刈屋大輔,知識ゼロからわかる物流の基本(2020年1月9日第5版)
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- 小野塚征志,ロジスティックス4.0物流の創造的革新,日本経済新聞社(2020年1月3日第3版)