原子力イノベーションは進むのか
── 米国を例に考える大規模技術開発支援
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(「環境管理」からの転載:2020年4月号)
わが国の原子力発電事業には厳しい状況が続いている。本年1月17日には四国電力伊方発電所3号機の運転差止めを命じる仮処分決定が出された。3月16日には九州電力の川内原子力発電所がテロ対策施設設置の遅れを理由に停止する。わが国の原子力事業を巡る不透明性は全く改善されず、行くことも退くこともできない状態に追い込まれているようにみえる。
一方、世界は原子力技術とどのように向き合おうとしているのだろうか。本誌2019年4月号に寄稿した「原子力をめぐる“世界の潮流”──各国の動向整理と米国・英国の政策」注1)では、米国や英国の原子力政策を整理したが、高まるエネルギー需要や低炭素化への要請から、東欧やアジアなどで多くの国が原子力発電所の導入や技術開発を進めている。
広がりをみせる原子力利用と技術開発について整理した上で、米国を例に原子力イノベーションのあり方を考えたい。
原子力を巡る世論
気候変動の深刻化に伴い、低炭素電源としての原子力の価値を改めて評価する動きがみられる。例えば、国際エネルギー機関(IEA)が2019年5月に公表した「Nuclear Power in a Clean Energy System」注2)は、原子力は水力に次いで2番目に大きな発電設備容量を有する低炭素電源であり、現在世界に存在する452基の原子力発電所が世界の電力需要の約10%を賄っていること(2018年)、原子力のおかげで過去50年間で約550億t(世界のエネルギー関連CO2排出量の2年分に相当)のCO2排出を回避できたこと、既設原子力発電の寿命延長や新規プロジェクトがなければ追加的に40億tのCO2が排出される可能性などを指摘し、世界が低炭素エネルギーに移行するにあたり原子力が重要であるとしている。
Union of Concerned Scientists (UCS:憂慮する科学者同盟)は「Nuclear Power & Global Warming」注3)というレポートにおいて(2015年5月公表、2018年11月改訂)、「原子力はライフサイクルでの炭素排出が非常に少ない。深刻な経済的課題に直面しており、そのことは人の健康や環境に重大なリスクをもたらす。UCSは、原子力の安全及びセキュリティを強化するための政策及び措置を強く支持する」と主張している。また、2018年11月に公表した「The Nuclear Power Dilemma」注4)では、価格低下が進む天然ガス火力や再生可能エネルギーとの競争や需要の減少、運転コストの上昇等によって米国の原子力発電所の早期廃止が進み、天然ガスへの過度な依存やCO2排出削減が進まないというリスクが高まることを指摘している。そうした事態を防ぐためには、炭素税などCO2削減に向けた政策誘導が欠かせないと主張している。
こうした低炭素電源である原子力発電を再評価する動きがある一方、国連気候変動枠組み条約締約国会合(COP)の場などに集まる環境派から原子力が支持されているかといえばそうではない。反石炭火力のデモと反原子力のデモが仲良く一体化しているのはいつものことだ。2018年のCOP24で米国政府が開催したサイドイベント中に押し寄せた環境NGOが当初「Keep it in the ground」(化石燃料を掘り起こすな)というシュプレヒコールを叫んでいたのが、いつの間にか「No nuclear」に変わっていたのも印象的だった。
環境派のシンボルとなっているグレタ・トゥーンベリさんのスタンスはどうか。2019年3月に自身のFacebookで「個人的には原子力に反対だが」と述べたうえで、IPCC報告書が、特に再生可能エネルギーの全面的な供給の可能性がない国や地域においては、脱炭素化に向けた一つの手段であると認めていることを挙げ、「全体像がみえるまで議論を待とう」としている。
こうした環境派からの評価よりも実際の影響が大きいのは、EUが現在進めるタクソノミーの議論において気候変動に貢献する技術と認められるか否かだろう。現時点では結論は専門家の議論に委ねるとして先送りになっている。CO2削減効果は高いと評価されているものの、廃棄物が他の環境問題を引き起こさないと今の時点で言い切ることはできないとされたのだ。フィンランドやスウェーデンのように、自国の中で最終処分場の具体的地点も定まり、建設に向けて進んでいる国からすれば「他の環境に重大な影響がないとは言い切れない」とされては立つ瀬がないだろうが、今後の議論の推移を見守るしかない。
各国の原子力導入に向けた動き
こうした一般的な評価と、各国のエネルギー政策は別物だ。どこの国も、自国のエネルギー安定供給やコストなどを総合的に考え、エネルギー供給の見通しを立てる。今後も当面、アジアやアフリカを中心に、エネルギー需要は伸び続けると考えられ、それを満たすために原子力の導入を進めようとする国も多くある。
(1)インド
例えばインドでは現在22基の原発が稼働中だが、新規に7基(540万kW)が建設中である。サイトによって技術供与を求める国を、米国、フランス、ロシアと使い分けて、コスト競争を促すなど戦略的に進めている。なお、インドは原子力損害賠償制度が特殊で、万一原子力事故が発生した場合、サプライヤーが賠償を求められる可能性がある(通常は原子力発電事業者への責任集中の原則を採る)。日本とインドは日印原子力協定を調印・発効済みだが、日本企業が機器供給において存在感を示していくためには引き続き原子力事故が発生した場合の賠償リスク低減の努力が必要だ。
(2)ポーランド
東欧は原子力導入を切望している国が多い地域だ。ポーランドは高まる電力需要に加えて、EU内での高い温暖化目標を達成するには、原子力技術の導入が不可欠であるとしている。単純な脱石炭を行えば、ロシアの天然ガスへの依存度を高めてしまうことになり、この国の歴史がそのリスクを許容することを良しとはしないことも大きい。
2018年に公表された「2040年までのエネルギー戦略(案)」では、発電電力量に占める石炭火力のシェアを現在の8割から2040年に3割へと低減する目標を掲げ、2033年には100~150万kWの同国の初号機となる原子力発電所を建設、2043年までに合計600~900万kW建設する計画を進めている注5)。なお、ポーランドでは原子力発電導入は長年の懸案であり、1986年には着工した北部バルト海沿岸での旧ソ連型PWRはチェルノブイリ原発事故後の世論の反発によりとん挫した注6)。
ロシア以外からの原子力技術に期待する向きが強く、わが国とは2015年2月に訪日したコモロフスキ大統領と安倍首相との共同声明注7)に「これまでの原子力分野での二国間の協力を評価し,ポーランドの原子力プログラムの安全かつ成功裏の実現に向けて、人的交流及びビジネス協力をさらに促進することで一致した」とある。これを受けて2017年5月の外相会談によって締結された「戦略的パートナーシップに関する行動計画」には、石炭ガス化複合発電の発展を含むクリーン・コール技術に関する両国関係機関間の協力や日本原子力研究開発機構(JAEA)とポーランド国家原子力研究センター(NCBJ)との高温ガス炉技術の研究・開発に向けた協力などを進めていくことが盛り込まれている注8)。2019年9月には両者間で、「高温ガス炉研究開発協力に関する実施取決め」を締結し、研究データの共有をはじめとする研究協力を開始した。
(3)チェコ
同じく東欧のチェコでは、現在計6基の原子力発電所が稼働中である。しかしこれらはすべてロシアの技術であり、技術や人材の継承という観点からも2037年に予定される発電所閉鎖以前に建設を進めることが非常に重要だとされている注9)。National Action Plan for Nuclear Energy(NAPNE:原子力エネルギー国家アクションプラン)注10)においては、設備容量と将来の電力需要に応じて2~4基の建設を想定し、発電電力量に占める原子力比率を現在の30%から、2040年には46~58%に引き上げる予定注11)である。
建設主体となる国内電力大手CEZは政府の支援がなければ建設に着手できないという姿勢を示しているが、EUの定める国家補助ガイドラインに抵触するか否かを確認する必要があり時間を要する。CEZは、建設や操業を複雑にするような規制や法律の変更リスクがあることを指摘し、事業を持続可能にする投資モデルの確立が必要であるとして、政府との間で国家保証の可能性について交渉を行っている。
英国のヒンクリー・ポイントやハンガリーのパクシュといったプロジェクトも欧州委員会の承認を得るのに長い時間を要したが、チェコも同じ手続きを求められていることに関して、昨年10月のReutersの報道注12)によれば、バビス首相は「エネルギー安全保障は私たちの優先事項」であるとして、「たとえ欧州法に違反したとしても、老朽化した石炭火力発電所や原子力発電所に代わる、新たな原子力発電所を建設しなければならない」と述べたとされる。同国が現在進めているドコバニでの原子力発電所建設プロジェクトには、韓国KHNP、ロシアRosatom、フランスEdF、米国Westinghouse、日仏合弁のATMEA、中国のCGNなど6社が関心を示しているが、供給業者の決定は、2021年の次の選挙のあとになることもあわせて報じられている。なお、これとは別に将来小型モジュール炉であるBWRX-300を建設する場合の経済及び技術面における実行可能性調査の実施についての覚書を、GE日立・ニュークリアエナジーとCEZ社の間で締結している。
(4)メキシコ
メキシコも電源構成の8割が化石燃料であるため、原子力発電の拡大を計画している国だ注13)。現地報道注14)は、連邦電力委員会(CFE)は四つの原子炉の建設を検討しており、同委員会の責任者が「(筆者補:原子力は)初期投資コストが高く、運転燃料コストが低い。つまり、多様化の問題であり、それが私たちの目標です」と述べたこと、2020年の最初の8か月以内に大統領以下関係者に、4基の原子力発電所のプロジェクトの実現可能性調査を提出する予定だと報じている。
(5)オーストラリア
注目は豪州における世論の変化であろう。豪州は原子力発電を利用しないことを法で定めている注15)が、気候変動問題に関する危機感の高まりなどもあり、原子力の導入が議論されている。2019年8月、テイラー・エネルギー相が、連邦下院議会の環境・エネルギー委員会にオーストラリアでの原子力利用に関する調査の実施を指示し、12月に「Not without your approval:a way forward for nuclear technology in Australia(あなたの承認なくしてはならない:オーストラリアにおける原子力技術の前進の道)」と題する報告書が提出されている。
議会のホームページで公開されている報告書注16)は三つの提言として、①政府は原子力技術の見通しを将来のエネルギーミックスの一部として考えるべきである。②オーストラリアにおける原子力技術の理解を深めるための作業を行う。これには、原子炉の実現可能性及びオーストラリアへの適合性の審査を含む、異なる世代の原子炉に関する技術評価が含まれるべき。③世界的に建設が進められている第3世代以降の設計や、将来の第4世代技術を含む新技術について、現在の原子力モラトリアムの一部解除を検討すること、を示している。
原子力の導入に前向きな内容となっており、筆者の私見であるが、年初の森林火災など数々の異常気象に襲われた経験も作用して、豪州では今後、原子力発電の活用に向けた議論が活発化する可能性は高いのではないか。本年2月6日、同国のモリソン首相は辞任したキャナバン資源相の後任に、原発推進派で国内の石炭産業を擁護する姿勢で知られるキース・ピット氏を充てる人事を発表している注17)。
米国の原子力イノベーション戦略
現在の軽水炉技術は過渡期の技術といわれ、安全性や熱効率等を飛躍的に改善する技術開発競争も活発に行われている。注目はやはりSMR(Small Modular Reactor)で、グローバル・フォーラム等も多く開催されている。昨年10月には、ブラッセルでEU-U.S.のSMRハイレベルフォーラムが開催された。欧州委員会のウェブサイトに掲載されているコンセプト・ノートによれば、米国ではアイダホ国立研究所で12MW×60基、計720MWのSMR発電所の計画が進行中であり、欧州側でも複数の企業がSMRの商業開発を目指しているため、関係者が集まり、技術の影響、許認可や規制問題、及び潜在的な財政支援枠組み、また技術協力について議論したという。
SMRなど新型炉も含めて今や原子力発電技術は中露に席巻されたといわれるが、西側諸国でも巻き返しに向けて原子力イノベーションに力を入れている。わが国と決定的に状況が異なるのは、ベンチャー企業も多く台頭して原子力イノベーションの担い手になっていることだろう。ビル・ゲイツ氏が出資するTerraPower社やNuScale社が有名であるが、Terrestrial Energy社、Moltex Energy社、Holtec社などが革新炉の開発競争にしのぎを削っているほか、ロールスロイス社は原子力潜水艦技術をベースとしたSMR開発を目指した企業連合を設立注18)している。なお、実は核融合についても、北米を中心にベンチャー企業が30社程度出現している。ビル・ゲイツも出資するCommonwealth Fusionや、Tokamak Energy、First Light Fusionなどが注目を集めている。
原子力という巨大技術の開発に、なぜ民間の、しかもベンチャー企業が参画しうるのだろうか。米国が原子力技術開発に積極的であることは本誌2019年4月号に寄稿した「原子力をめぐる“世界の潮流”──各国の動向整理と米国・英国の政策」注19)でも述べた通りだが、米国の原子力技術開発を例に、巨大技術のイノベーションについて考えてみたい。
米国の原子力イノベーションを可能にしているのは、まず第一に政府が明確に原子力の必要性を認め、ビジョンを掲げていることにあるだろう。トランプ大統領は基本的には原子力に対しポジティブなスタンスである。米国原子力産業の復興と拡大を目指すと就任直後に表明している。というよりも、歴代の米国大統領で原子力技術にネガティブであった大統領は特に存在しない。ブッシュ(子)大統領は、1990年代後半に一部の州で進んだ電力自由化の下では原子力発電所の新規建設が起きないため、2005年にエネルギー政策法を定め、原発の新規建設に対し、政府による建設資金債務保証、建設遅延保証、発電税控除等の制度を整えた。オバマ大統領が導入した「クリーン・パワー・プラン(CPP)」では、再エネと原子力は同規模の排出削減効果があるとして、新規原発及び既設発電所の出力増強は州ごとに設定する削減目標の達成手段として認めるものであった。
なお、原子力にポジティブなのは大統領だけではない。トランプ大統領が行った初めての予算編成である2018年度予算では、エネルギー省原子力エネルギー局(DOE-NE)の予算が大幅に削減されていたが、実は議会が増額したという経緯がある。
先進炉概念の実証に向け民間との協力関係を促進したり、事業者が原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)に支払う審査費用を支援する仕組みを取り入れた「原子力イノベーション能力法」(NEICA:NuclearEnergyInnovationCapabilitiesActof2017)や、NRCの審査費用の低減や許認可活動の効率化を目指す「原子力イノベーション・最新化法(NEIMA:Nuclear Energy Innovation and Modernization Act)」注20)を超党派により制定していることからも、連邦政府が原子力技術を支援する姿勢が明確に示されている。
第二に、民間主導の技術開発に対する、設備や場、データの提供による支援体制が整っていることである。原子力技術開発は莫大な実験設備や場、多分野にわたる人的資源が必要とされる。ベンチャー企業各社がそうした設備や人材を自前で抱えることは実際的でも効率的でもないことから、国立研究所やエネルギー省が所有する設備や人材を民間に開放・提供する仕組みが構築されている(GAINプログラム:Gateway for Accelerated Innovation in Nuclear注21)) また、若手の人材育成についても計画的な支援が行われている。カルフォルニア大学バークレー校が中心となって、資金調達や法務など企業に必要な知識を提供する集中セッションが開催されたり(Nuclear Innovation Bootcamp)、世界中の若手原子力技術者と科学者を対象にしたサマースクールを三つの国立研究所が持ち回りでホストし、人的ネットワークの構築を支援したりしている(Modeling, Experimentation and Validation summer school)。設備や資材、場の提供、人材育成への協力によって、産業全体の底上げが図られている。
第三が適正な規制活動である。規制活動とは、ある技術が社会で満たすべき安全レベルを定め、それに適合しているかの審査を行うものである。技術開発の社会実装がみえ始めたところで規制基準を議論し始めたのでは、基準が策定されるまで開発者は待たされることとなる。先に言及した「原子力イノベーション・最新化法」には、下記を提供することが目的であることが明記されている。
- ①
- 先進的な原子炉の革新と商業化を可能にするために必要な専門知識と規制プロセスを開発するプログラム
- ②
- 不正確な作業量の予測や既存の原子炉の早期閉鎖のために既存のライセンシーに不当な負担をかけることなく、業界のニーズを満たす資源の利用可能性を確保するための料金回収制度の改正
- ③
- ウラン回収のより効率的な規制
先進炉については、NRCに対して、リスク情報に関する許認可の審査プロセスを2年以内に策定するように指示しており、詳細な技術的な観点も踏まえた許認可制度は2027年までに策定される予定である(Sec.103)。加えてNRCが徴収する審査手数料の透明性・予見可能性を向上させること、研究炉等からの売電の規制緩和も盛り込まれている(Sec.106)。
NRCも「NRC Vision and Strategy: Safely Achieving Effective and Efficient Non-Light Water Reactor Mission Readiness(非軽水炉の規制に関するビジョンと戦略)」注22)といったレポートを出して、5年単位の区切りにおいて、技術、規制、コミュニケーションそれぞれに関して、やらねばならないことを示している。
そもそも米国では、規制の導入によって国民が得る利益が、必ずその規制に対応するために必要なコストを上回っていなければ、その規制は導入してはならないという大統領令が存在する。NRCの活動5原則の一つに「効率性」の項目も明記されており、規制の効率化、最適化についての意識が高い。その上、規制機関と事業者、研究機関や軍など原子力技術に関わる方たちの人材流動性も保たれている。日本でみられるような規制者と被規制者が「お上と下々」のような関係性は考えられない。
わが国と米国の差
翻ってわが国の状況をみてみよう。そもそも原子力イノベーションは必要だと思われているのだろうか。第5次エネルギー基本計画においては、原子力発電に対する「依存度を可能な限り低減させる」方針であることが明記されている。一方で、2050年に向けたシナリオにおいては、「実用段階にある脱炭素化の選択肢である」として、「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発」を進めるとある。マーケットが縮小していくとわかっていてその技術開発にチャレンジする事業者が存在するはずはなく、誰がそうした炉を追求するのか、誰が技術開発を進めるのか、全く不明だ。
民間主導の技術開発支援については、わが国でも国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)の持つ研究施設の提供等も行われてはいるが、JAEAの人材や予算が福島原子力事故の対応に取られがち注23)であるうえ、JAEAの保有する設備も廃止・整理が進められている。
規制活動については、これまでも何度も指摘してきている通り注24)、予見可能性の欠如や規制活動原則に効率性の原則がないこと、規制者と被規制者の間に「お上と下々」のような関係性ができあがってしまっており適切なコミュニケーションがとれていないことなど課題が多い。わが国の規制委員会は、国家行政組織法3条2項に基づいて設置された、いわゆる三条委員会であり、政治からの独立を確保された組織ではあるが、行政機関である以上当然、規制活動に関する説明責任や最適化の追求を求められる。福島原子力事故後の混乱の中で構築されてきた原子力規制について、改めて評価と改善をすべきなのかもしれない。
原子力技術のイノベーションを進めることは、わが国のエネルギー政策の強靭性を高めるためにも、また、温暖化対策を世界で進めるためにも有力な選択肢だ。原子力イノベーションにおいて出遅れた状況を改善しようと、経済産業省、文部科学省、JAEAの3者が連携し、原子力イノベーションを進めるNEXIP(Nuclear Energy Innovation Promotion)というプログラムがスタートしている。技術開発支援や研究開発基盤の供用、人材育成・産業基盤強化などを進めているが、予算の規模感だけみても米国からはかなり見劣りする。もしわが国が原子力を「実用段階にある脱炭素の選択肢」として追及するのであれば、米国の原子力イノベーションを参考に、まずは政府が明確なビジョンを示し、メリハリの利いた支援策を行っていくべきではないだろうか。
また、当面は、既に先行している米国のベンチャー企業の動きに日本企業もサプライヤーとして参画していくということも考えられるのではないだろうか。TerraPower社やNuScale等は、日本企業の技術力等に期待しているとも聞く。また、JAEAが所有する研究施設の供用にも関心があるとも仄聞した。わが国の人材・技術基盤を維持する観点からも、こうした動きが加速されることに期待したい。
- 注5)
- https://www.euractiv.com/section/energy/infographic/towards-polands-2040-energy-mix/
(社)日本原子力産業協会 国際部
- 注13)
- メキシコの“National Electricity System Development Program2019-2033”(スペイン語)
https://www.gob.mx/sener/documentos/prodesen-2019-2033
- 注23)
- JAEA 令和二年度予算概算要求の概要
https://www.jaea.go.jp/about_JAEA/provision/gaisanyoukyuu.pdf
- 注24)
- 産経新聞正論「原子力規制のあり方を考える」
http://ieei.or.jp/2019/07/takeuchi190718/
日経COMEMO「原子力規制の問題―「お上と下々」の構図が生む不健全性―」
https://comemo.nikkei.com/n/n98dc1a8526c8