系統用大型蓄電池のシェアリング
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
米国カリフォルニア州の州都であるサクラメントと、その周辺の地域に電力を供給しているのがサクラメント電力公社(SMUD:Sacramento Municipal Utility District)という公営電力事業。需要家の数が64万ほどという小規模な電力事業だが、再生可能エネルギーの普及に向けて全米で最も熱心な州であるカリフォルニアにある電力事業の中でも常に先進的な取り組みをしていることで知られている。電力供給先七地区から4年任期の理事が選出され、理事会が料金設定や事業計画の策定、総裁(GM)の選任などを行うという珍しい事業形態となっており、環境問題への取り組みに関心が高い需要家の多さが反映された経営が行われている。
このSMUDが、太陽光、風力といった変動性の再生可能エネルギーを利用する発電に力を入れているのは当然のことだ。しかし、天候によって変動する再エネ電力の比率が、供給する総電力量の中で高くなると系統制御が難しくなるために、系統用大型蓄電池の設置によって変動を抑制する必要性が高くなる。だが、蓄電池のコストが急速に下がっているとはいえ、設置規模を大きくすると財務上の負担が過大となるため、設置規模拡大への制約となっていた。
環境対応の一環としてSMUDは電気自動車を奨励し、高速充電ステーションの設置を進めていたが、この設置をするのが全米最大の事業者であるElectrify America社。しかし、この設置は両社にとって頭の痛い問題を生み出していた。標準的な充電ステーションは50kW容量だが、150kW、350kWといった大容量のものもある。自動車の蓄電池に充電が始まると、それまで殆どゼロに近かった電力供給量が瞬時に50なり350kWに跳ね上がり、充電終了まで暫く続くことになる。SMUDはそれに対応出来る規模の送電線を設置し、さらには、充電開始と同時に電力消費が跳ね上がるという、大きな需要変動にも対応しなければならない。一方Electrify America社は、電気料金契約上、一定規模以上の電力消費についてDemand Charge(超過料金)を支払う必要があり、このコストが充電ステーション運営コストの80%にもなっていた。これを避けるために蓄電池を設置することも可能だが、設備コストが大幅に上がることになるため着手できなかった。
この共通する部分が多い課題の解決のためにSMUDが考え出したのが蓄電池シェアプログラム(Energy Storage Shares program)。Electrify America社が、SMUDのこのプログラムに130万ドルを投資し、それに対応してSMUDは、自社が電力を供給する12基の充電ステーションに蓄電池を設置するという方策だ。この12基は、電力系統容量が逼迫している地域にあるために、SMUDは送電線容量の拡張を抑制できると同時に、再エネの出力変動の影響を抑制することができる。さらには、系統設置の蓄電池容量拡充に向けた投資額も抑制できることになるに止まらず、電気自動車の普及に向けての施策を打ち出しやすくもなる。カリフォルニア州だけでなく他の州の電力事業でも同様の方式が採用される可能性は高いだろう。
同じようなことが日本でできるかどうかは、電力事業の形態や、高速充電設備の規格や規制も異なっているだろうから分からないが、この着想は参考にすることが出来るかもしれない。