洋上風力で国が“有望区域”選定
導入の意義と今後のプロセスは?
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2019年11月号からの転載)
洋上風力発電は、欧州で導入が急速に進み、発電コストも低下しています。海に囲まれた日本も、本格的な普及を目指し動き出しています。
今年7月末、経済産業省資源エネルギー庁と国土交通省港湾局は、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」(今年4月施行)に基づく洋上風力の促進区域の指定に向け、その前段となる4つの有望区域を選定しました。4区域は、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、同県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖で、各区域は地域協議会を立ち上げ、国も風況・地質調査の準備を進めています。
洋上風力の意義
「第5次エネルギー基本計画」(2018年7月閣議決定)には、再生可能エネルギーの主力電源化が盛り込まれており、洋上風力は主力電源化で大きな役割を果たすとみられています。陸上風力の導入適地が限定的であるため、洋上風力の拡大が不可欠な状況となっています。洋上は風況が良くて風の乱れが小さく、土地や道路の制約がないため、陸上と比べると大型風車を導入しやすいなどのメリットがあります。
資源エネルギー庁によりますと、欧州では近年、洋上風力の導入量が年1000~3000MWのペースで急拡大し、2017年の累計導入量は15780MWに達し、2012年(5000MW、図)の3倍以上になっています。
洋上風力導入の意義として、①発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないため温暖化対策に有効、②経済性の確保、③地元産業への好影響などが挙げられます。欧州の洋上風力の大規模開発では、発電コストが火力発電並みになっており、経済性が確保できる可能性があります。ちなみに、欧州の既設の洋上風力4149基の発電コストは約6~13円/kWhです。
さらに洋上風力では、発電設備の設置・維持管理に地元の港湾を活用することで地元産業の活性化や雇用創出が期待されます。洋上風力の発電設備の部品数は約1万~2万点と多く、欧州では事業規模が数千億円に達するものもあり、地元産業を含めた関連産業(風力発電関連メーカー、建設・運転・保守点検など)への波及効果は大きいものがあります。
欧州での産業集積の事例
「平成27年風力発電関連産業集積等委託業務報告書(みずほ情報総研)」によると、欧州では風力発電に関する産業集積がさまざまな都市で進んでいます。
例えば、ドイツ北部ブレーメン州のブレーマーハーフェン市は、人口11万人の港湾都市ですが、産業集積を行うに当たり、欧州連合(EU)、州政府、市などから3.22億ユーロ(約420億円)の投資が行われています。市が中心となって風車メーカーに実証試験サイトなどを提供するとともに、大規模な研究開発施設や作業員のための安全訓練センターなどを設立し、風車メーカーの誘致も積極的に行いました。現在では300以上の部品メーカー、研究機関などが集積し、研究開発から部品製造、風車組み立て、出荷まで一貫したサプライチェーンが構築されています。
デンマーク南部のエスビアウ市は、人口7万人の都市で、シーメンス・ウィンド・パワー社などのブレード工場やタービン工場、風車組み立て工場がつくられ、北海の洋上風力サイト向けに出荷しています。市が主導し、洋上風力産業の集積拠点化を目指し、エスビアウ港の周辺に空港、広大な工業団地、耐荷重性道路、同国最大のヘリポートをつくるなど、インフラを整備しました。
また、デンマーク気候エネルギー省の支援の下、港から250km内に5カ所の実証実験サイトを設置し、研究開発機関や教育機関の拠点化にも注力しました。シーメンスなど多数の企業誘致に成功し、約8000人の雇用創出を実現しています。現在、デンマーク最大の洋上風力関連産業都市として、国内で製造される風力発電装置の約65%、風力タービンの75%がエスビアウ港から出荷されています。
日本での今後のプロセスは?
日本の4つの有望区域は、早期に促進区域に指定できる見込みがあり、洋上風力のより具体的な検討を進めるべき区域と考えられています。4区域では今年10月末までに、関係都道府県、関係市町村、漁業団体、有識者らで構成される最初の地域協議会が開催される予定です。漁業関係者との協議は重要で、漁業に支障があると見込まれる場合は、促進区域の指定は行われません。
促進区域の指定基準としてはこのほか、①気象、海象、そのほかの自然条件が適当であること、②当該区域やその周辺の航路・港湾の利用、保全、管理に支障を及ぼさないこと、③洋上風力発電設備の設置や維持管理に必要な人員や物資の輸送に関して、当該区域と当該区域外の港湾を一体的に利用できること、④電力系統への接続が適切に確保されることが見込まれること、⑤漁港漁場整備法により、市町村長、都道府県知事もしくは農林水産大臣が指定した漁港の区域、港湾法に規定する港湾区域、海岸法により指定された海岸保全区域などと重複しないこと―などが挙げられます。
有望区域から促進区域に指定されるには、これらの基準を満たす必要があります。地域協議会での調整と並行して、国が風況や地質などの調査を実施します。風況調査は、早ければ10月初旬ごろから開始し、観測期間は14カ月程度になる見込みです。調査結果は順次、公開されます。国土交通省港湾局は、保安部や地元漁協への説明を経たうえで地質調査を実施する予定で、現地調査、データ解析などを含めると調査期間は3カ月程度になる見込みです。
筆者も、秋田県の有望区域の地域協議会に参加する予定です。地元の人たちの声をしっかり聞き、有意義な協議となるようサポートしたいと思います。