林業の成長産業化に向けた課題


農林水産省 大臣官房政策課長

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 森林・林業は長い間厳しい時代を過ごしてきた。戦後日本の旺盛な木材需要に対応して海外の木材に頼らざるを得なかった我が国において、プラザ合意以降の円高の進行とともに、山元立木価格が下落し、それが山村の疲弊につながった。


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 しかし、現在、その厳しい時代にも先人が営々と育んできた森林が成熟し、人工林の半分が主伐期を迎えている。産業界でも我が国の森林への支援の輪が広がり、いよいよ我が国森林・林業にも本格的な明るい兆しが見えてきている。

 私は、この7月までの2年間林野庁に在籍し、森林環境税や森林経営管理制度の創設等に関わらせて頂いた。そこで感じた今後の森林・林業を一層発展させていくための課題についての私見を述べていきたい。

 まず、森林・林業は国民各層からその重要性について理解と共感を受けている。これは関係者にとって貴重な財産である。国民の理解なしに政府が大胆な政策的支援を行うことは難しく、その象徴が森林環境税の実現であったと考える。

 今後の森林・林業行政は、森林・林業への国民の理解をさらに深め、多くの国民を行政に巻き込みながら展開することが重要である。とりわけ、森林の効率的な管理や林業・木材産業の生産性の向上のためには、建築との連携やITの活用などで経済界との協働が不可欠である。農林水産業は行政も含め他の産業に対して閉鎖的な側面があるが、森林・林業をより良いものとするため、オープンマインドに経済界の方々との関係を持つことが大切である。

 また、森林・林業の持続性を確保する上で新規就業者の確保が不可欠である。そのためには、所得水準のみならず、安全衛生や就業条件の面で他産業並みになるように努力を続ける必要がある。特に他産業に比べても著しく高い労働災害の発生防止について関係者が一丸となって取組を進めていくことが重要である。

 さらに、林業を通じて地域の所得と雇用を増加させていくためには、実需に対応した安定的供給体制を構築し、生産・流通の最適化する必要がある。それにより山元に還元される利益が増大する。林業に限らず日本の農林水産物の流通は生産者や実需者の利便のため市場が各地域にきめ細かく存在してきたが、近年では大型化する都市部の実需に応えられず、需要を逃してきた。こうした需要を取り込むためにも流通の改革が不可欠になっている。

 後世に世界に誇れるこの豊かな森林資源を引き継いでいくためにも、効率的な植栽の在り方について検討を行う必要がある。林業経営コストのうち、約8割が植栽、下刈などの育林費である。このため、林業経営の改善と造林面積の増加を実現するためには育林費の低減が不可避である。現在コンテナ苗や早生樹などの取組も現れているが、素材生産コストを低減するための林業技術のイノベーションをさらに進める必要がある。

 木材自給率は近年上昇を続けるなど林業はまさに成長産業化しているが、ニュージーランドの一人当たりの林業生産額が日本の約4倍であることを考えても、我が国林業には更なる成長の余地はある。我が国の林業が一層活性化するため、私自身今後とも様々な方々にご指導を賜り、少しで貢献ができれば幸いである。