プラスチック資源循環とバイオプラスチック
後編:バイオマスプラスチックとカーボンニュートラル
中谷 隼
東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 准教授
※ 前編:何のためのプラスチック資源循環か、中編:バイオプラスチックとは何か
海洋プラスチック問題を離れ、CO2などの環境負荷や化石資源消費の削減という観点に立ち戻れば、化石資源を原料としない“バイオマス”プラスチックに意義があることは間違いない(もちろん、原料となるバイオマス生産の土地利用や水資源消費、プラスチックの生産プロセスのエネルギー消費など、その負の側面にも目を向ける必要があることは言うまでもない)。我が国のプラスチック資源循環戦略1) では、今後の戦略展開として「2030年までに、バイオマスプラスチックを最大限(約200万t)導入する」ことを目指すとされており、“バイオプラスチック”の中でも生分解性プラスチックよりもバイオマスプラスチックが本命であることが読み取れる。ただし、バイオマスプラスチックの用途についての方針の中には、“カーボンニュートラル”を巡って、以下のような科学的な合理性を欠く内容がある。
その基本原則には、「特に、可燃ごみ指定収集袋など、その利用目的から一義的に焼却せざるを得ないプラスチックには、カーボンニュートラルであるバイオマスプラスチックを最大限使用し」という方針が示されている。しかし、同じ種類のプラスチック(PEなど)の原料を化石資源からバイオマスに代替した場合、どのような用途に利用されたとしても、それによるCO2削減効果(化石資源由来のプラスチックとの差分)は変わらない。バイオマスプラスチックを導入(化石資源由来のプラスチックを代替)するべき用途に優先順位を付けるような方針は、全くナンセンスである。
文章だけでは説明が難しい内容であるため、図2の概念図を用いて解説する。カーボンニュートラルとは、バイオマスであっても燃焼によってCO2は排出されるが、それと同量のCO2がバイオマスの生育段階で大気から吸収されているため、燃焼によるCO2排出は0と見なすという考え方である。つまり、バイオマスは生育段階で化石資源に対する優位性が発生し、その後は同じ用途に使用され同じように処理される限り、焼却であれリサイクルであれ、化石資源由来のプラスチックと同量のCO2が排出されることになる。図2の左上と右上の比較、左下と右下の比較から、そのことは容易に理解できるはずである。仮に、バイオマスプラスチックがリサイクルされ、燃焼(または分解)されずにプラスチックとして存在している場合(右上)、その間は炭素貯留と同じ意味を持ち、大気中から吸収した分だけCO2排出量はマイナス、いわゆるカーボンポジティブということになる。長期的に使用される製品中のプラスチックについても、その使用期間については同様の考え方が適用できる。それが焼却されると、吸収量と同量のCO2が排出されプラスマイナスで0、すなわちカーボンニュートラルになる(左上)。これらの差分は、化石資源由来のプラスチックが焼却されずに存在している場合(右下)と、それが焼却されてカーボンネガティブになった場合(左下)の排出量の差分と等しい。
このバイオマスプラスチックの用途に関する非合理的な方針は、カーボンニュートラルについての「バイオマス(由来のプラスチック)は燃焼してもCO2を発生しない」といった誤った認識が根底にあるものと思われる。もちろん、焼却が前提となるような用途にバイオマスプラスチックを導入すること自体に意味はある。しかし、上記のような方針が明記されることにより、バイオマスプラスチックを促進するべき用途が限定的という印象を与え、それ以外の用途(例えば、リサイクルされる割合が高い飲料用ペットボトルや、自動車などの使用期間が長い耐久消費財)に対する導入の動機を下げてしまうことが危惧される。
プラスチック資源循環戦略では、「バイオプラスチック導入ロードマップ」の策定にも言及されている。本稿で指摘した“バイオプラスチック”に対する様々な誤解を解消し、科学的にも合理性のある方針や道筋が示されることを期待したい。
【謝辞】
本稿の内容は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(3-1801)「先端的な再生技術の導入と動脈産業との融合に向けたプラスチック循環の評価基盤の構築」の一環としてまとめられた。
- 【参考文献】
- 1)
- 消費者庁・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省:「プラスチック資源循環戦略」(2019)