多面的な機能を持つ「森林」の活用と地方創生
丸川 裕之
日本プロジェクト産業協議会(JAPIC) 専務理事
1.日本は世界有数の森林大国
日頃、環境問題に関心を持っておられる皆さんは、「森林」という言葉から、何を連想されるだろうか?幾つか順不同であげると、「地球温暖化防止のための吸収源」、「再生エネルギーのバイオマス発電」、「野生動植物の保全」、「地下水の涵養」、「洪水や土砂崩落の防止」、「農村景観の保全」、「環境野外教育」等が思い浮かぶ。最近では国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の17の目標の一つ(14番目の目標)を思い浮かべる方もおられるだろう。
因みに日本の森林面積は、2510万haで、国土面積の2/3(68%)を占めている。その約5割の1300万haが天然林、4割の1000万haが人工林である。実は、国土に占める森林面積の割合は、日本は、世界17位であり、先進国の中で見ると、フィンランド、スウェーデンに次ぐ、世界第3位の森林大国なのである。
2.林業の成長産業化を目指して
しかし、見方を変えて、わが国の数少ない資源である「森林」を活用した「林業」や「木材産業」は、どれ位の経済規模があるとお思いだろうか。
林業がわが国GDPに占める比率は、長年に亘る構造的な課題もあって、最近では1%にも満たず、僅か0.04%にまでに落ち込んでいる(因みに農業でも1%、水産業も0.15%)。
とはいえ、4年前から林野庁の林政審議会委員を仰せつかり、林業再生の議論に携わってきた筆者は、長年に亘り、環境の仕事に携わってきた時に感じていた、環境・エネルギー・防災面における「森林」の役割は勿論のこと、「林業の成長産業化」が、森林・林業・木材産業のリンケージを強め、「伐って(きって)・使って・植える」ことが、「環境と経済の両立」や、「有用な資源の循環」を促進することである、と認識するに至った。ひいては、わが国が直面している最大の課題である少子高齢化や地方創生の解決にも貢献する可能性も大きい。
数年前に、産業界からの提言によって、政府の経済成長戦略の要である、日本再興戦略の中に、「林業の成長産業化」を目指すことが明記された。改めて、林業を、「産業政策」の観点から捉えなおすことになったものであり、長年、衰退の一途を辿ってきた日本の林業にとっては、大きく大胆に発想を変える、画期的なことであった。
3.国産材需要低迷の時代から反転へ
翻ると、大変残念なことに、ここ数十年間で、林業に従事される方の高齢化が進むと共に、コスト競争力でも外国産材に押され、国産材の使用割合は、最低で18%(1988年)にまで落ち込み、一向に上昇の兆しはなかった。
しかしながら、ここに来て、漸く国(林野庁、国交省等)や地方自治体、林業経営者、更には関連需要産業界が手を携えながら、「林業の成長産業化を通じて地方の活性化を」をスローガンにして、地道に努力を重ねてきた結果、国産材の使用拡大に向けた反転の兆しが、僅かではあるが見え始めてきた。
具体的には、国産材の自給率がここ数年、毎年連続して上昇してきており、2017年度には、36%迄に回復している。これは、バランスの良いエネルギーミックスを達成するために必要な、再生可能エネルギー(木質バイオマス発電)が増えていることも大きく寄与している。また、2005年に14%だった若年者(35歳未満)の就業率も2015年に17%迄戻り、この間、上下の変動はあるものの、一定程度、若返りを維持してきた。
4.成長産業化に向けた産業界の取り組み
このような明るい兆しは、未だ緒に就いたばかりではあるが、日本プロジェクト産業協議会(以下、JAPIC)や日本商工会議所、経済同友会といった、民間の経済・産業団体も国産材の需要拡大を応援する声をあげるようになった。
筆者が所属するJAPICでは、数年前から、林業復活・地域創生を推進する国民会議(会長:三村明夫 日本商工会議所会頭 前JAPIC会長)と、森林再生事業化委員会(委員長:酒井秀夫 東京大学名誉教授)の2つの組織を両輪として、積極的に具体的提言を行ってきている。
例えば、国全体の大きな仕掛け(再造林を可能とする山元への利益還元と、サプライチェーンの構築)、小さな積み重ねと実践(地方や都市部の建築等での木材利用)、社会的ムーブメント(森林が持つ生態系サービスの評価、実体験を通じた生涯木育)を具体的なプロジェクトに結び付けようと活動している。
このように、単に「環境・エネルギー」の側面だけから捉えるのではなく、森林が持つ多面的な機能を最大限に発揮させる試みが、SDGsの拡大に貢献していけるであろうし、Society5.0(超スマート社会)と林業の重ね合わせも検討が始まろうとしている。
5.終わりに
川上や川中と言われる、森林所有者や森林組合、製材・プレカットメーカーの方々と、川下の住宅・建設業界、更にはエンド・ユーザーである消費者が一層連携することで「国産材の木づかい(利用)」が広がることを期待したい。
今後、林業の成長産業化を目指して連携を行っている、国、自治体、林業経営者、企業、NGOをはじめとする関係者の方に、「森林」「林業」「木材産業」の最新動向を、順次紹介して頂く考えである。