役割と連携 協業の可能性探る

書評:ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン 著
『HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキル 』


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2019年3月22日付)

 わが国のエネルギーインフラの将来を考えていると、必然的に、社会インフラ全体をどう維持していくかという問題意識にたどり着く。一部の大都市を除き、人口減少・過疎化が急速に進むことは避けがたい事実であり、インフラ維持や運用にかかるコストを適切にダウンサイズさせていくことは喫緊の課題だ。「安かろう悪かろう」を避けるためには、効率性・生産性を上げるしかない。そのためには本書が説くように、AI(人工知能)やロボティクス技術(マシン)の活用は必須である。

 こうしたAIやロボティクス技術活用の必要性を説いた本はそれこそ数限りなく存在するし、導入事例や逆にその限界を紹介する本も枚挙にいとまがない。効率性・生産性向上が必須であり、その切り札がAIやロボティクス技術であることは既に共通認識であるのだから、当然のことだ。しかし本書の特色は、豊富な事例をもとに、ビジネスを再構築するための指針として俯瞰的に構成されていること、加えて、日本語に翻訳するにあたって日本の産業界の特色を踏まえて、「日本と日本企業が取り組むこと」が追記されていることだろう。働く現場を改革するには、そこにいる人達の幸福度を上げることにつながっていなければならず、他の成功事例をやみくもに引用しても当然うまく行かない。文化的・歴史的背景も踏まえて、それぞれの組織がAIやロボティクス技術との協業を模索する必要がある。日本と日本企業という、世界の中でもユニークな存在に対して、別立てでメッセージが用意されているのが嬉しい。

 ちまたでは、AIやロボティクスが人間にどこまで取って代わるか、といった論が多く聞かれるが、本書の主張はタイトルの通り、「人間+マシン」の協業によって社会の効率性・生産性を向上させること、ひいては、人間が果たすべき役割を見直し、その能力をフルに発揮していくために、経営は何を考えるべきかという問いであろう。それぞれの組織にとって、人間とマシンの役割分担と連携の最適解を見出すことが、この非連続な変化の社会での生き残り策に他ならないのだろう。

 本書の翻訳にあたっては、AIを最大限活用したという。AIに最も取って代わられやすいと言われる翻訳の領域での協業を実践した点でもユニークな本書をきっかけに、まだデジタル化の余地が多く残るエネルギー業界の変革を考えてみてはいかがだろうか。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

『HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキル』
著:ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン(出版社:東洋経済新報社)
ISBN-13: 978-4492762462