出力制御は再エネ普及に欠かせない!

同時同量の原則を理解せよ


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「月刊スマートハウス No.45」からの転載)

ゼロエネルギーハウスの普及促進を目指し活動するZEH推進協議会のメンバーが、有識者と共に未来のエネルギーについて語り合う本企画。今回は、話題の出力制御について、今春に発足したZEH協太陽光発電委員会で委員長を務めている西川弘記氏と、NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)の理事で主席研究員としてエネルギー分野で活躍する竹内純子氏に対談してもらった。

西川:出力制御をテーマに対談させて頂きますが、我々、日本人は送電・配電、系統網や変電といった電力供給の仕組みへの理解が、まだまだだと感じています。

竹内:電力の基本中の基本が「同時同量」という原則です。電気は大量に貯めることはできないので、在庫を持てない。なので、必要な時に必要とされる量を発電する手段を確保しておくことが必要です。再エネは、太陽や風といった自然条件が良ければ、エネルギー『kWh』を生み出すことはできます。しかも燃料を使わずに。ただ、エネルギーネットワークの安定性の観点からみると、人間がコントロールして必要な時に必要な量を発電することができることの価値『kW』と、火加減調整を素早く行い変動を調整できる価値『デルタkW』という2つの価値が必要なのです。

西川 弘記

西川 弘記
ZEH推進協議会太陽光発電委員会委員長

西川:再エネの「出力制御」と言われるが、同時同量を守るために、周波数など様々な電気の品質を守るためには必要な措置と言うことですね。

竹内:そうですね。電気は、発電する量が足りなければ当然ですが、発電し過ぎても周波数のバランスが崩れ、悪くすれば停電します。発電量が多くなり過ぎたら、どこかに流すか、貯めるか、それが出来ないならば、発電を止めるようにするしかありません。ドイツのように送電線が隣国に繋がっていれば他国に流してしまえばよいわけですが、島国である我が国は、貯めるもしくは止めるという選択肢しかありません。電気を大量に貯める技術は今のところ「揚水発電所」だけです。これは上下2つのダムを持ち、電気が余っているときに上の池に水を揚げておいて、足りなくなった時に落として発電するというものです。3割くらいのエネルギーをロスしてしまいますが、発電した電気を使う時間をずらすことができます。蓄電池も徐々に入りつつありますが、いま揚水発電を太陽光発電による余剰電力の吸収に最大限使っても吸収しきれなくなっています。となれば、太陽光などの再エネにも出力を制御してもらうしかありません。

西川:国としても、太陽光発電など再エネ普及には当然前向きなので、こういった設備を導入するごとに、需要制御、出力制御を行うことは当然であると言えますね。

竹内:電気の同時同量の原則から考えれば、「必要な時に作る」ではなく「作れる時に作る」太陽光や風力は従来の発電所とは大きく異なるのです。もちろん燃料がいらないこと、CO2を出さないことと言う従来型電源が持たない価値を持っている訳ですから、それぞれの得意・不得意をうまく組み合わせて使っていくことが重要でしょう。「抑制」というと理不尽に思われるかもしれませんが、それぞれの電源で役割分担をしていくために必要な措置だといえます。

西川: 再エネを増やしていこうという社会の伸びる意思は大切だと思うが、それをどう実現していくかという手段の部分については理屈を踏まえて議論しなくてはいけないですね。

竹内:そうですね。再エネに何を期待して、そのためにどこまでコストを負担できるのか、という議論が十分なされていなかったと感じています。いま単に国民が負担する賦課金が1年間に2兆4千億円という莫大な額に膨らんでいるという絶対値だけではなく、それだけの国民負担のもとで導入された再エネがどれくらいの便益をもたらしてくれるのか、を共有できていなかったのだろうと思います。いま日本が再エネを導入している理由は、発電所が足りないからではないですよね。CO2を出す火力発電所や事故のリスクがある原子力発電所を使わずにエネルギーを得られることの価値に対して、皆さん期待してコストを負担して応援している訳です。でも再エネは発電量をコントロールできないので、他の電源設備も維持する必要があります。二重で電源に投資することを、社会としても認知していく必要があります。

西川:先月の北海道地震の際も、住宅用の太陽光発電があって助かったという方がいる一方で、メガソーラー等は地震のあと数日間稼働しなかったとか。

竹内:その通りですね。住宅用の太陽光発電を自立運転に切り替えて、昼間多少なりとも電気が使えたという方は多くおられたのではないでしょうか。ただ、メガソーラーは送電線から切り離されました。太陽光発電からの発電量は刻々変動しますので、普段火力発電所はその変動を吸収できるように余裕を持った運転をしているのです。ただ、発電の能力が足りなかったあの緊急時は、火力発電所の能力をフル活用しなければならなかったので、再エネの調整役をする余裕が無かったのです。再エネは調整役がいてくれなければ戦力にならないということが改めて認識されました。

電力が余った場合は出力制御 しかし、住宅用は応答速度的に困難

西川:今年度は10kW未満の再エネ設備については制御をしないと新聞記事には出ています。

西川 弘記

竹内:将来的にどうなるか断言はできませんが、10kW未満が基本家庭用だとすると、そのような小さなレベルをコントロールすることは、現実的に難しいことと、それ以外の手段で制御した方が確実で安価にできる可能性のほうが高いですよね。10kW未満への制御は少なくとも当面は無いでしょうし、そのうちに蓄電・蓄エネルギーの技術が安価になって、自家消費に回すというモデルが成立するようになると思います。キッカケの1つとして19年の卒FITがありますし、近年の電気自動車ブームもあって蓄電池の価格がぐっと下がる可能性もあると期待しています。日本は再エネも海外と比べて高いのですが、蓄電池も高い。日本人がハイスペックなものを好むことや認証制度など仕方ない部分もありますが、関係する事業者さんがもっともっとコストダウンに取り組んでいただければと期待しています。

西川:ZEHなどの方向性はどう思いますか?

竹内:圧倒的に正しいですよ(笑)。もちろん、既設の住宅をリノベーションするのは費用対効果として厳しいですし、新築でも経済的なメリットだけで導入できるものではないかもしれません。ただ、断熱など省エネ性能を高める、太陽光を導入する、かつ上手く自宅の中でも蓄電池やエコキュートと合わせた上で回すという形でのZEHはまだまだ拡大していくでしょうし、方向性は正しいです。太陽光の出力抑制などについて、表面的なニュースに流されるのではなく、もっと深い潮流に目を向けていただければと思います。