再エネ制御に伴う安定供給問題に触れない大新聞
再エネ導入に原子力発電が必要なわけ
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
朝日新聞は、10月13日と14日に行われた九州電力の再生可能エネルギーの出力制御に関する記事を14日付け朝刊の第一面で掲載した。毎日新聞は16日付け朝刊社説で『太陽光発電の「出力制御」これでも「主力化」なのか』として取り上げた。Wedge Infinityの連載でも取り上げたが(「出力制御の九州での再エネ導入、やがて停電を招く可能性も」)、ここでは異なる視点、安定供給の問題を再エネ大国ドイツの現状から考え、再エネからの発電に原子力が必要な理由を考えたい。
その内容を議論する前に、毎日の社説が大規模停電をブラックアウトとしていることが気になった。どういうわけか、先月の北海道での大規模停電を日本のマスメディアの多くはブラックアウトと呼んでいるようだ。多分、最初に報道を行ったメディアが使った言葉を検証することなく毎日はじめ他のメディアも使っているのだろう。
私が住んでいた米国では、小さな地域の停電でもブラックアウトとの言葉が使われる。ブラックアウトに似た言葉はブラウンアウトだ。停電ではなく電圧低下を指す言葉だ。照明器具がちらついたりすることは、海外では時々経験する。米国だけでなく、英国でも豪州でもブラックアウトは停電のことだ。特に大規模停電だけを指す言葉ではない。例えば、2016年のロンドン・ソーホー地区の停電を伝える英BBCは2300軒が影響を受けたblackoutと伝えていた。豪州でも大規模停電は、large blackout/wide-area blackout/state-wide blackoutなどと大規模、州全域などの形容詞付きで伝えられる。私が知る限り、英語圏の国ではブラックアウトは通常の停電の意味で使用されるのに、なぜ、日本では大規模停電を指す言葉になったのだろうか。
電気のことになると、マスメディの知識はかなり疑わしく、その主張を良く検証した方がよさそうだ。その典型が先月の北海道停電時の朝日と毎日の主張「電源を分散していなかった北電が悪い」だろう。電源分散にかかる費用は無視した議論だ。仮に、電源を分散し、北海道の電気代が上昇すれば、ご都合主義の両新聞は「電気料金は生活に大きな影響を与える。下げろ」と主張するのは目に見えている。ないものねだりだ。
その安定供給第一を主張していた朝日と毎日は、今度は「再エネの出力制御はけしからん。原発を止めてでも再エネの電気を引き取れ」と主張している。原発を止めれば安定供給に影響が出るのだが、北海道では大問題だった安定供給は九州では問題にはしないようだ。自社の主張に都合良く、エネルギー政策で重要視されることが変わり、北海道では安定供給が重要、九州では温暖化対策‐再エネ導入が重要ということだろう。
再エネ大国ドイツが直面する問題
エネルギー政策で重要なことは、経済性、安定供給、環境性能だ。3つとも重要だが、最重要課題は、国により、また国の政策もその時々で変わる。安定供給と雇用、電気料金という経済性の面から褐炭・石炭火力の閉鎖時期に悩むドイツは、EUの2030年再エネ導入目標引き上げに猛烈に反対し、フランスなど多くの加盟国の35%目標の主張を押し切り32%にさせた。EU最強国ドイツの反対をどの加盟国も押し切れなかった。ドイツ政府の石炭委員会で褐炭・石炭火力の閉鎖時期が議論されているが、2035年以降の閉鎖が視野に入っていると報道されている。ドイツは、2030年の高い再エネ目標を受けることができる筈がない。
先月も、EUでは2030年の温室効果ガスの削減目標引き上げが内々で議論されたとの報道があったが、やはりドイツが強硬に反対し正式な議題にすることは無理だったと言われている。ドイツが再エネ導入と温暖化問題でEU内の抵抗勢力になっているのは。経済と電力の安定供給の問題からだ。国内で生産される褐炭を利用する火力を廃止すれば、たちまち二つの問題が出てくる。
ドイツは安定供給を失う
一つは、安定供給の問題だ。2017年のドイツの電源別発電量では、褐炭火力は23%のシェアを占めており、石炭火力と合わせると40%近いシェアになっている。温暖化対策のため褐炭・石炭火力を閉鎖し、さらに12%を占める原子力発電所を予定通り2022年に閉鎖すると、ドイツでは再エネからの発電量が減少した時に近隣諸国からの電力輸入ができなければ、停電の可能性が出てくる。
原子力と石炭を合わせると50%弱の電力供給を失うドイツが十分な電力輸入を行うことができるか不透明だ。2017年ドイツの総発電量6023億kWhのうち電力純輸出量は554億kWhだった。この輸出のかなりの部分は再エネが余剰になった時に行われていると思われるが、それでも年間数十億kWhの再エネの引き取りができない。日本との違いは、ドイツでは引き取らなかった場合も料金が支払われていることだ。電気料金も上昇するわけだ。
火力と原子力の発電量3960億kWhの大半が失われると電力輸出を止めたとしても3000億kWhの輸入が必要だが、それだけの供給を得られる可能性は高くはないだろう。EUの全発電量は3兆906億kWhなので、その1割にも相当する。結局、ドイツは不安定な再エネの発電量減少に備えて、緊急用の予備発電設備を用意するしか方法がない。既に閉鎖されたが設備が維持されている褐炭火力を予備力として活用する計画だったが、二酸化炭素削減に逆行する計画であり他のEU諸国の反対にあっている。欧州委員会の認可が得られるか不透明だ。
とすれば、再エネが作り出す不安定な電力供給を解決するためには依然コストが高い蓄電設備を導入するしかないが、コスト面からは非現実的だ。安定的に発電が可能な原子力と褐炭・石炭火力をドイツが失えば、再エネの発電を支える手段はなくなるため、現状では褐炭・石炭火力の安定的な発電設備の維持を図ることが再エネの発電には必須だ。
もう一つの問題は、言うまでもなくコストだ。不安定な発電になる再エネの導入量が増えれば、供給安定化のコストが必要になり、さらに引き取りが不可能になる量も増え、需要家の元に届く電気のコストは高くなる。大きな問題は再エネの発電量が増えると、電力卸市場に投入される電気の量が大きく変動し、結果、卸価格が大きく変動することだ。欧州でも南オーストラリア州でも問題になっている現象だ。ドイツでは、コストの問題に加え炭鉱で働く労働者の雇用維持の問題もあり、経済性はさらに複雑な問題になっている。
再エネの発電を支えるためには原子力が必要
九州電力が原子力を止めれば、安定的な電力供給面で将来問題が出てくるのは確実だ。九州電力の火力設備は古いものが多い。表にあるように、建設後40年から50年の設備が半分以上だ。自由化された市場では老朽化した火力が閉鎖された後、リプレースされるかどうか不透明だ。ただ、再エネの導入量から判断すると、火力発電所の稼働率が低迷するのは確実なので、リプレース電源の稼働率は低く、収益は低迷するだろう。であれば、誰も火力発電設備を建設しない可能性が高い。
将来、火力がなくなり、その上原子力もなければ、不安定な再エネだけでは電力供給はできない。原子力を止めろとの大新聞の主張は、同時に再エネからの発電も難しくする主張になっている矛盾があるが、当事者は気づいていないようだ。再エネ導入量が増えれば増えるほど、安定的な電源、原子力の必要性は高くなる。大新聞は、無責任なないものねだりをいい加減に止めないと、やがて読者も矛盾に気が付くことになるだろう。