酷暑が再生可能エネルギーに与えた影響


ジャーナリスト

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 ヨーロッパの全ての国におしなべて言えるのだろうが、ドイツでも7、8月は夏の休暇の期間であり、世の中の動きが俄然少なくなる。今夏、エネルギー問題に関しても例外ではなく、関連ニュースは余り見られない中、目に付いたのは、酷暑がドイツのエネルギー事情に与える影響についての報道だった。
 ヨーロッパでは7月終わりから強い熱波に襲われ、ポルトガルで8月2日、気温が摂氏45度を超えた。ドイツも例外ではなく、7月31日にザクセン・アンハルト州で39.2度を観測した。(ちなみに、1881年の観測開始以来、最高気温の記録は2015年、バイエルン州キッツィンゲンで観測した40.3度である)。
 ドイツ全土の6~8月の3か月間の平均気温は19.3度と、平年より3度高く、ドイツで観測史上2番目に暑い夏だった。また、平年の約半分の降水量しかなく、これも観測史上2番目に雨が少ない夏だった。広い範囲で干ばつが発生し、甚大な被害を被った農家への公的な支援がこの夏の大きな話題となった。
 自然の条件に左右される再生可能エネルギー(以下再エネ)にとって、今年の酷暑は一得一失だった。主にドイツの国際公共放送「ドイチェ・ヴェレ」、経済紙「ハンデルス・ブラット」などの電子版の記事に基づき、その事情をまとめると、次のようである。
 ドイツではクーラーを設置している一般家庭はほとんどないが、やはり扇風機や冷蔵庫の使用が増えたからだろう、電気消費量は一日あたり136万メガワット時と、平年の夏に比べて6%多かった。
 ただ、電力供給能力は余力があり、電気市場での価格の上昇は起こらず、価格が上昇したのは石油価格の高騰などによると言う。
 日照時間が長かったことは太陽光発電にとっては朗報で、7月には1月間では過去最高の600万メガワット時を発電した。これはハンブルク市の1年間の電気をまかなう発電量だという。
 猛暑だった日本でも、太陽光発電は好調で、冷房のために電力消費のピークとなる日中の需要をカバーした。ドイツの場合も同じような状況になったと思われる。
 ただ、太陽光発電は、高温になると発電効率が落ちる。ドイツ全土で4万4000メガワットの発電能力があるが、今年のような暑い夏だと3分の2程度の発電能力しか持てなかったという。
 一方、高気圧がすっぽりとドイツを覆う時間が長かったため、風が吹かない凪の状態が続き、風力発電はほとんど発電できなかった。現在ドイツには洋上風力発電も含めて3万本(5万8000メガワット)の風車が立っているが、7月終わりの数日間は、しばしば1000メガワット時しか発電できなかった。7月の風力発電は、昨年同月比で20%減の440万メガワット時だった。
 酷暑は再エネ発電所ばかりでなく、他の発電所に負の影響も与えた。
 ガス発電所は高温のため、電気に転換する効率が落ちた。石炭発電、原子力発電は、冷却のために水を得ている川の水位の低下と水温の上昇の影響で、稼働を制限した。河川の魚の保護のため、排水の水温を上げるわけにはいかないことも影響した。他方、褐炭発電所は、ほとんどが水温20度で一定している地下水を使用しているケースが多く、安定した発電が可能だった。
 電力会社RWEのロルフ・マルティン・シュミッツ社長は、最近の報告の中で、「ドイツは再エネだけに依存してはならない。この異常な夏は、発電の各形態がそれぞれの強みを発揮するような、より広いエネルギーミックスが如何に重要であるかを証明した」と語った。
 ドイツで再エネの主力と位置づける風力が不振だったことは、再エネがやはりお天気頼りであり、発電の安定性を如何に確保するかが課題であることを、改めて示したと言えるのではないか。


写真は3枚とも2011年5月23日、旧東ドイツ・ザクセン州ブランディスの太陽光発電施設を訪れたときの撮影