メガソーラーと世界最大級の蓄電池

北海道・苫東地域のエネルギー最前線を訪ねる


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年9月号からの転載)

 北海道の南部、苫小牧東部地域(苫東地域)を訪ねる機会がありました。総面積約1万ヘクタール(約3割は緑地)という広大な土地と、8月の平均気温が20℃、冬に雪が少ないという気象条件にも恵まれ、多くの企業が立地する産業集積拠点です。この地域ではさまざまな実証事業が行われています。南早来(みなみはやきた)変電所の大型蓄電池(レドックスフロー電池)の実証現場と、ソフトバンク苫東安平ソーラーパークを見学しました。

ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク=北海道勇払郡安平町

ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク=北海道勇払郡安平町

エネルギー施設の集積地

 苫東地域は、新千歳空港の南東17km、車で20分ほどのところにあり、北海道の空・陸・海の交通の要衝となっている。この地域の開発・管理運営を行う第3セクター、苫東(本社・北海道苫小牧市)の望月幸泰専務が、エネルギーの集積地としての苫東地域を解説してくれました。
 「苫東地域の立地企業第1号は、1980年10月に運転開始した北海道電力苫東厚真発電所(石炭専焼火力)です。3機の総出力は165万kWで、北海道電力の全発電量の3~4割を担っています。また、官民合わせて90基の原油タンク(計約998万kℓ)を有する、世界最大級の地上タンク方式の石油備蓄基地も立地しています。このほか、廃プラスチック専焼火力発電所や、豊富な日射量を利用して多くのメガソーラーが稼働しています。2012年7月に固定価格買取制度が始まって以降、メガソーラー事業は2017年3月までに計13カ所が稼働、総発電容量は約133MWac規模となっています」

道内最大級のメガソーラー

 SBエナジーと三井物産の共同出資会社が運営する「ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク」(111MWdc、勇払郡安平町)は2015年12月に運転を開始しました。年間予想発電量は約1億801万kWhと、一般家庭約3万世帯分の年間電力消費量に相当します。約166ヘクタールの敷地に計44万4024枚の太陽光パネルを設置。EPC(設計・調達・施工)サービスは東芝グループが担当しています。
 隣接する場所には、SBエナジーと三菱UFJリースの合同会社が運営する「ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク2」(約64MWdc)が2020年度中に運転を開始する計画です。ソーラーパーク2は、北海道電力が2015年4月に公表した「太陽光発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」に基づき、蓄電容量約1万7500kWhの大容量リチウムイオン蓄電池を併設する予定です。蓄電池併設のメガソーラーとしては国内最大級の発電規模です。

ソフトバンク苫東安平ソーラーパークの案内板

ソフトバンク苫東安平ソーラーパークの案内板

世界最大級のレドックスフロー電池

 北海道は、安価で広大な土地があるため、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの系統連系が増えています。北海道電力の系統規模は他電力と比べて小さいことから、天候などによる再エネ電源の出力変動が系統周波数に与える影響が相対的に大きく、大きな課題となっています。
 そこで、北海道電力と住友電気工業の共同事業として、南早来変電所(北海道勇払郡安平町)に周波数調整用の蓄電池として、同社が開発した世界最大級のレドックスフロー電池が2015年12月に設置されました。2012年度経済産業省「大型蓄電システム緊急実証事業」として行われています。
 レドックスフロー電池の出力は15MWで、蓄電容量は60MWhに上ります。これは、標準的な一般家庭6000世帯が1日で消費する電力量に相当します。実証事業は2018年度まで行われ、風力、太陽光発電などの出力変動に対する調整力としての性能評価(効率や保守性など)や制御システムの改良を行う予定です。
 この電池は、バナジウムイオン水溶液を用いた電解液をポンプで循環させて電池反応を起こさせ、充放電を行います。大型蓄電システムの構成は、電解液を貯蔵する正負極のタンク、セルスタック(電池反応を行う流通型電解セルを複数積層)、電解液をタンクからセルへ循環するためのポンプや配管などです。
 実証が行われている現場に案内していただきました。レドックスフロー電池は2階建ての建屋(高さ約20m)に収納され、1階フロアに電解液タンクとPCS(直流交流変換装置)、2階にはセルスタックと冷却を行うための熱交換器などが設置されていました。

レドックスフロー電池実証施設の1階フロア。電解液タンクと PCSがある=北海道勇払郡安平町

レドックスフロー電池実証施設の1階フロア。
電解液タンクと PCSがある=北海道勇払郡安平町

レドックスフロー電池実証施設の電解液タンク

レドックスフロー電池実証施設の電解液タンク

 再エネの出力変動の吸収対策として、リチウムイオン電池、NAS電池、レドックスフロー電池といった大容量2次電池が注目されています。リチウムイオン電池は、スマートフォン、電動車両、定置型の蓄電システムなどさまざまな用途に利用され、世界的に需要が拡大する見通しです。しかし、リチウムイオン電池には、大型用途だとコスト高になるという課題があります。
 レドックスフロー電池は、出力(kW)と容量(kWh)をそれぞれ独立した形で設計できるという特長があります。セルスタックの数を増やせば出力を増大でき、電解液の量を増やせば容量を増やすことができます。エネルギー密度は、理論的にはリチウムイオン電池の数分の1程度で、小型化には向かず、大型用途が中心ですが、大規模になるほどコストを下げることができます。
 蓄電池は化学反応によって充放電を繰り返すため、反応の際に発生する熱で発火事故を起こす危険性があります。しかし、レドックスフロー電池の電解液はバナジウム、鉄、クロムなど燃焼性の低い物質を使うため、常温運転が可能で安全性に優れています。
 セルスタックの寿命は約20年、電解液は半永久的に使用することができます。また、電解液の化学変化だけで充放電できるため、運転状態でも充電量を正確に測定・モニタリングできます。
 一方、デメリットとして、エネルギー密度が小さいため設備の設置面積が大きくなることが挙げられますが、充放電回数(サイクル数)が1万回以上と他の電池と比べて優れた特性があり、系統用の2次電池として有望視されています。この実証の成果が今後、国内外に展開されることを期待します。