施設誘致で科学の関心向上を
書評:有馬 雅人 著『日本発宇宙行き「国際リニアコライダー」 』
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
(電気新聞からの転載:2018年7月13日付)
宇宙は謎に満ちている。日本だけでも毎年2千億円弱の予算を投じているものの、どうやって宇宙が誕生したのかという根本的な問いも含め、わからないことの方が多い。夜空の星に感じるロマンは大切にとっておきたい気もするので、その意味から言えば全て解明する必要はないのかもしれない。
しかし、宇宙や物質の成り立ちを解明することは、様々な技術波及効果をもたらすという。医療、電池、創薬、材料開発などあらゆる分野での発展が期待されるうえに、放射性廃棄物の減容化・有害度低減、国防で言えば敵ミサイルに大出力レーザーを照射して無力化することも考えられるらしい。宇宙の成り立ちの解明は、単なる謎解きではなく、我々の社会に多くの有意な技術をもたらしてくれるということだろう。
こうした研究の土台となりうる実験設備として構想されているのが「国際リニアコライダー(ILC)」だ。ジュネーブ郊外にあるCERN(欧州原子核研究機構)はヒッグス粒子を発見し、2013年のノーベル物理学賞を受賞したが、このCERNは周長27キロメートルという巨大な円形加速器を持つ。対してILCは、直線加速器を中心とする研究拠点だ。これを日本に誘致し、東北地方に建設しようという動きが進められている。本書が引用する試算によれば、加速器と測定器の建設費用は9千億円を超える。日本の分担割合にもよるが、数千億の国費投下が必要になるので、軽々に判断できる問題でないのは重々承知だ。しかし、このILC建設が日本にもたらす経済・技術波及効果の大きさや日本の科学研究再興といった意義を総合的に考える必要があるだろう。
技術開発は時間もコストもかかる一方、その成果が素人には見えづらく、また、見えたとしても理解できない。国として継続して開発に取り組むには、胆力が必要だ。「もんじゅ」を中途半端に終わらせてしまったことからも、わが国にはこうした胆力が欠けているのではないかと危惧しているが、技術立国の証しとも言える研究拠点が身近に存在することは、国民の科学リテラシー底上げにもつながるのではないか。
私自身もこのILC招致に向けた「100人委員会」に名を連ねており、6月29日には発足式典が盛況のうちに開催された。本書を通じて一人でも多くの方がこのプロジェクトに関心を持ち、東北から宇宙誕生の謎に迫る高揚感を共有していただければ幸いである。
※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず
『日本発宇宙行き「国際リニアコライダー」』
著:有馬 雅人(出版社:講談社)
ISBN-10: 4061531638
ISBN-13: 978-4061531635